映画「卵の番人」  ノルウェー映画  監督:ベント・ハーメル

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 とてもゆっくりしたテンポの話です。ほのぼのしていて、しかし、奥深い所に苦く鋭いトゲがある。

 ノルウェーの片田舎に、仲睦まじく住む、年老いた兄弟、ファーとモーのふたりがおりました。
1-0_201703101408215a8.png 人里離れた彼らの一軒家は、なだらかな丘を背にぽつんと建っています。近所に人家は見当たりません。雪が積もれば、辺りはは白一色の静寂の世界です。
 ただ、人里離れたとはいえ、地域の幹線道路が家の近くを通っていて、冬には除雪トラックが走りますし、疎らに住む住民たちは、このトラックをまるで乗り合いバスのように利用しています。

 ファーとモーは一年中、家から外出しません。車も持っていませんし町に出ようとも思いません。
 孤独な生活のようにみえますが、彼らは不自由とも思ってませんし不満もありません。
 ふたりの日々は簡素です。自分たちがつくる簡単な食事とコーヒー、石炭ストーブとラジオ、カード遊びとパイプとクロスワードパズル、それだけです。それで十分幸せと思っています。
 外部との接点は、電話、食料配達の男達、ハウスクリーニングの若い女性くらい。

 ある日、珍しく電話が鳴りました。それは兄のファー宛の電話でした。
 電話で連絡してきた事は、ファーがかつて、隣国スウェーデンにいた時に結ばれた女性が重病になったという知らせでした。そして、ついては息子のコンラードの世話をして欲しいということでした。
 ファーに子供がいたのです。このことは弟のモーも知っていたことなので、ふたりはコンラードを受け入れます。

 この時から、ファーとモーのふたりだけの生活リズムに、変化が見え始めるのでした。
 コンラードは車椅子の生活です。年は二十歳代でしょうか。一日中、押し黙っていて話しません。時折、クーとかカーとか鳥のような声を出すだけです。何か障害があるようにも見えます。食事はバナナミルクセーキしか受け付けません。世話は父親であるファーがやります。

 そんな日々が続くある日、モーは旅支度をし、納屋からバイクを静かに押して、密かに寝静まった家を抜け出しました。
 街道に出たところで運よく、除雪トラックが来て、モーはトラックの運転席に乗り込みます。
 除雪トラックは、夜明け前の、わずかに明るい一本道をスピードを上げて走り去って行きました。

 モーが家を出て行く様子を家からじっと見ている人影が見えました。それはコンラードでした。
 映画はコンラードをカッコウのヒナに例えています。カッコウは他種の鳥の巣に卵を産み付けますね。(托卵)
 産み付けられた鳥の親は、カッコウの卵と自分の卵と一緒に育てますが、孵化すると、カッコウのヒナは他のヒナを巣から蹴落とします。モーはコンラードによって追い出されたのです。
 ただし、モーは遅まきながら、自分の青春を始めたのかもしれません。
 それは兄の(スウェーデンでの)青春を目の当たりにして、触発されたのかもしれませんね。

下3







オリジナルタイトル:Eggs
監督・脚本:ベント・ハーメル|ノルウェー|1995年|86分|
撮影 エリック・ポッペ|
出演:弟モー(スヴェレ・ハンセン)|兄ファー(ヒュルストルモーン)|ファーの息子コンラード(レイフ・アンドレ)|ほか

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