一夜一話の “今日はメンフィス・ソウルだよ。“ ソウル・チルドレン
2017年05月09日 公開

今日の一枚は、ソウル・チルドレンの「ジェネシス」 というアルバム。(1972年)
これは、もう、ソウルの中のソウル!、ソウル・ミュージックの核心を楽しめる、極めつけの一枚。
ソウル・チルドレンというこのヴォーカルグループは、男2人女2人の4人グループです。ただし、コーラスグループじゃなく、ソロシンガーが4人いる、といった感じです。みな実力者。このアルバムでも、曲ごとに交代でソロをとっています。
1曲目は、いきなり重心の低いベースに導かれるバラード曲、2曲目は少し軽めのイントロで始まるやはりバラード。3曲目はアップテンポでリズミック、ソウルなホーンが嬉しい。4曲目は熱いバラード、聴かせます。5曲目は少し軽い、やはりバラード。
B面に入って、1曲目はゴスペルなバラード。2曲目3曲目は軽いがいいですね。4曲目はミディアムなリズム感。5曲目はこのアルバムでは少し異色な、ファンクなミディアムテンポ。
要するに捨て曲はまったく無い。至福の充実感。

このスタックスが作り出したサウンドは、メンフィス・ソウル、あるいはサザン・ソウルと呼ばれています。
ソウルは、レーベルによって、サウンドの作りや味が違います。それはちょうど、ワインやクラフトビール(地ビール)の味が、それぞれの地域や醸造所によって異なるのと似ています。
醸造所=レーベルの専属プロデューサーは、独自のサウンドレシピを持っていて、でも、実際に料理をするのはスタジオミュージシャン達です。
だから、本格的なソウルサウンドには、歌だけじゃなく、バック演奏も含め、その全体を味わう楽しみがあります。
映画「ブルース・ブラザース」に、バンドマンとして出演していた、ベースのドナルド・ダック・ダンは、このアルバムの2曲目~9曲目を演奏しています。この人は、スタックスサウンドのリズムセクションの要です。
(映画「ブルース・ブラザース」の記事を掲載しました。こちらから、お読みください)
そして、もう一人の重要な要は、ドラムのアル・ジャクソン(Al Jackson, Jr. )です。ドラムとベースが作りだすタイトなリズムは、何とも言えません。素晴らしい!ぞくぞくします。
ただし、1曲目だけは、ドラムがハワード・グライムスが担当しています。アル・ジャクソンより少し重いドラムですね。
この人、スタックスと同じメンフィスにあった、これもメンフィス・ソウルに属する有名なレーベル、「ハイ・レコード」のスタジオミュージシャンとして有名です。ハイ・レコードの、例えばソウルシンガーのアル・グリーンのアルバムクレジットに必ず名が出ています。
もうひとつ、ただし。アルバムの1曲目と10曲目のバック演奏には、メンフィスのファンクバンド、バーケイズ(The Bar-Kays)のメンバーが加わっているようです。
確かに、この2曲だけは、他の曲と風合いが違います。私は、ドナルド・ダック・ダンとアル・ジャクソンの組み合わせが大好きです。(ブッカー・T&ザ・MG'sの一員)
ちなみに、「ブルース・ブラザース」で、同じくバンドマンとして出演していたギターのスティーヴ・クロッパー(ブッカー・T&ザ・MG'sの一員)は、7曲目の歌を作曲しています。
ソウルは、教会で歌われるゴスペルを商業化した音楽です。コード進行もリズムもホーンアレンジも、ゴスペルよりも一工夫も二工夫もしてあって洒落た作りです。
ゴスペルが、もともと、きれいなメロディの聖歌(讃美歌)を土台にしているように、ソウルでも、特にバラードでは、美しいメロディをモチーフに作曲したナンバーが、往々にしていい曲になっています。ちょっとそれますが、日本の唱歌「浜辺の歌」なんか、ソウルフルなアレンジで編曲すれば、いい曲になるかも知れません。
※「ソウルメン」という映画で、このスタックスからレコードを出す、という話がありました。
この映画の記事はこちらから、お読みください。
このアルバムを聴いていて思うことは、1980年代以降のソウル・ミュージックは、このアルバムで聴けるサウンド含め、1970年代以前の音楽の真似かコピーです。言い換えれば、過去の音楽資産を食いつぶして、今に至っているということです。
たまには、元祖なソウル・ミュージックを聴いてみてね。
The Soul Children 「GENESIS」 Stax 3003
01 – I Want To Be Loved (Sam D. Bell) 8:24
02 – Don’t Take My Sunshine (Bobby Newsome) 3:59
03 – Hearsay (John Colbert, Norman West) 3:38
04 – All That Shines Ain’t Gold (John Gary Williams, Tommy Tate) 3:55
05 – It Hurts Me To My Heart (Bettye Crutcher) 3:00
(LPではB面)
06 – I’m Loving You More Everyday (James Mitchell) 4:52
07 – Just The One (I’ve Been Looking For) (A. Isbell, E. Floyd, S. Cropper) 3:20
08 – Never Get Enough Of Your Love (Eddie Floyd) 4:22
09 – All Day Preachin’ (Bettye Crutcher, Bobby Manuel) 3:55
10 – Get Up About Yourself (Carl Hampton, Homer Banks, Raymond Jackson) 4:12
【スタジオ・ミュージシャンのリスト】
◆Track 1:
James Alexander – bass|Michael Toles – guitar|Allen Jones – organ|Howard Grimes -drums|
◆Tracks 2 through 9:
Piano and organ – John Keister, Marvell Thomas|Guitars – Raymond Jackson, Bobby Manuel|Donald “Duck” Dunn – bass|Al Jackson, Jr. – drums|
◆Track 10:
Carl Hampton – piano|Raymond Jackson, Michael Toles – guitars|James Alexander – bass|Al Jackson, Jr. – drums?|
プロデューサは曲ごとに異なります。
Producer – Al Jackson Jr. (tracks: A1 to A5, B1 to B4), Carl Hampton (tracks: B5), Homer Banks (tracks: B5)
Producer, Performer [Rhythm By] – Raymond Jackson (tracks: B5)
Producer, Remix [Re-Mix Engineer] – Jim Stewart (tracks: A1 to A5, B1 to B4)
◆これまでに掲載したポピュラー音楽の記事は、こちらから。
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