映画「喜劇 駅前旅館」 監督:豊田四郎

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 本作は1958年の製作。このころの日本映画は良く出来ている。
 脚本も演出も、俳優の技量も、娯楽性も、文句なしにハイレベル。
 ベテラン俳優の、さりげない一挙手一投足に、感情表現の絶妙な味があることにも注目してほしい。

 東京の「東玄関」上野駅の駅前旅館150軒や飲食店街は、多くの旅行客に親しまれ繁盛して来た。
 そして昨今、修学旅行の団体客が、毎日のように旅館街にどっと押し寄せてくる!

1-0_201711041139566da.png 戦後、修学旅行が再開され、さらに本格化したのが、この映画の時代、1950年代。
 戦前は、修学旅行は「国家神道教育」に通じる神社を目的地としていたが、戦後、これが自由化され、さらには修学旅行は誰もが行くものとして一般化された。
 よって修学旅行の行き先は、交通の利便性や社会見学先を考えると日本の「首都」東京になり、かつ団体客の受け入れ可能な宿泊旅館を考慮すると、自ずと上野であった。

 このことで、焼野原から復興してきた上野の駅前旅館街は一変した。
 大型の旅館は、黙っていても、各地の学校から予約が入るという、ウハウハ極楽状態。もう上野駅前で客引きする必要は無くなっていた。
 
 こんなことを背景に「喜劇 駅前旅館」は始まる。
 大型旅館の柊元(くきもと)旅館、ここのベテラン番頭の次平(森繁久彌)は、玄関で騒ぐ修学旅行生たちを目の前にして嘆く。「これは旅館じゃない、流れ作業の工場だ」
 40歳代の次平は客引きのプロ。次平を頼って来るリピーター一般客も多い。旅館一同の、宿泊客に対する丁寧なおもてなし。
 しかし、修学旅行生の団体客を相手にすると、旅館は、彼らの一日のスケジュールに沿って流れ作業のように動く。次平はこれを、もはや旅館業の工場化だという。

2-0_20171104114124f04.png 本作公開時の宣伝文句は、「舌三寸で客を引き、胸三寸で恋のせる、番頭家業の裏おもて」。
 旅館街のそばにある飲み屋の女将、お辰(淡島千景)の店に、次平や他の旅館の番頭たち(伴淳三郎、多々良純ら)の口達者な常連が集まる。お辰は前々から次平に気があるが、次平にその気があるのや無いのやら。

 くわえて、恋物語がもう二つ。
 はとバスの添乗員の小山欣一(フランキー堺)は、柊元旅館の可愛い女中、お京(三井美奈)が好き。ふたりのその先はいかに。
 もうひとつの話は、次平の昔の女、於菊(淡路恵子)が柊元旅館に客として現れる。さてこちらの展開は・・。

 そして、団体客の物語。
 関西女子高の修学旅行生を引率する老先生(左卜全)、同じく四国男子高の先生(藤村有弘)、同じく東北女子高の先生(若水ヤエ子)に、山田紡績の社員旅行を引率するおばさん社員(浪花千栄子)が、話に騒ぎを持ち込む。

 さらには、上野界隈のやくざの頭(山茶花究)が率いる一団が、客引きを巡って、あるいは旅館の女中の引き抜きや麻薬売買で騒ぎを起こす。
 さてさて、このあと、すったもんだのお話はどうなりますでしょうか、それは観てのお楽しみ。
 ちなみに、柊元旅館主人(森川信)、その妻(草笛光子)も話に味を添えています。
 

監督:豊田四郎|1958年|109分|
原作:井伏鱒二|脚色:八住利雄|撮影:安本淳|
出演:生野次平(柊元旅館番頭):森繁久彌|柊元三治(柊元旅館主人):森川信|柊元お浜(柊元旅館内儀):草笛光子|柊元梅吉(柊元旅館中番):藤木悠|柊元お京(柊元旅館女中):三井美奈|柊元お松(柊元旅館女中):都家かつ江|高沢(水無瀬ホテル番頭):伴淳三郎|春木屋番頭:多々良純|杉田屋番頭:若宮忠三郎|小山欣一(添乗員):フランキー堺|お辰(辰巳屋女主人):淡島千景|於菊:淡路恵子|相田(関西女子高校先生):左卜全|広見(四国男子高校先生):藤村有弘|保健の先生(山田紡績):浪花千栄子|女の先生(東北女高):若水ヤエ子|カッパのボス株:山茶花究|カッパA:大村千吉|カッパB:西条悦朗|カッパC:堺左千夫|カッパD:水島直哉|辰巳屋小女:小桜京子|山田(紡績所長):谷晃|芸者:三田照子|女学生:市原悦子|

淡島千景が出演の映画をここにまとめています
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