映画「心に花の咲く日まで」 主演:淡島千景  監督:佐分利信

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 いい映画を見つけました。よく出来た作品です。
 「昭和30年」を生きる、すず子(淡島千景)という女の日常を、あたたかく描く映画です。
 穏やかな喜劇でありますが、スパイスを効かせた突飛なエピソードが所々に仕掛けられています。

1-0_20180110122812af3.png 畑が続く武蔵野の郊外に住むすず子は、夫の笹山三吉(芥川比呂志)と赤ちゃんの三人暮らし。
 三吉は造船会社の技師でしたが、会社が倒産し今は無職。
 そんなことで夫にかわってすず子が、習い覚えた洋裁でわずかな稼ぎをしています。
 三吉はというと、好きな交響曲「田園」のレコードを聴きながら子守りや家事をし、時に造船の研究をしています。
 すず子は、呑気で優しいそんな三吉が好きですが、二人そろって銭湯にも行けない貧しさが、いつまでも続けられないと思っています。
 三吉はあれこれ職探しをしていますが、贅沢にも選り好みしています。それは、なにしろ、三吉は口下手で人との応対が上手くないため。すず子も仕方ないなと夫を見守っています。でも時々いら立ちます。

 さて、こんな一家を見守る人々がいます。
 すず子と同窓の原さん(丹阿弥谷津子)は、この家に少しのお金を貸したり時折、土産を持ってきます。原さんは、友達のすず子が心配ですし、いい旦那と暮らしているすず子を羨ましく思っています。実は原さんは妾の生活をしているのです。(そんな気持ちをすず子に吐露するシーンがあります)

 すず子の実家は都内にある大きな家です。父親は既に他界しているようで、いまは裕福ではありませんが、母親は健在です。弟も陰ながら姉を気遣います。
 そして、造船会社の元上司たちも三吉の行く末を心配しています。

2-0_20180110122932fd0.jpg 続いて、突飛なエピソードとなる喜劇的登場人物も、この一家を見守っています。
 いや、すず子と三吉が世話しているといった方がいいかもしれない二人が、すず子の家の隣に住む、森下さん(杉村春子)と、その愛人で森下さんよりずっと年下の志野君(仲谷昇・当時26歳)。(三吉が志野君と呼ぶのです) 
 森下さんと、美男子で小説家志望の変人で女たらしの志野君とのドタバタは、この映画に賑わいを添えます。

 そして、すず子の姉(文野朋子)。姉は出戻りで実家にいます。離婚がそうさせるのでしょうか、姉は独善的でガメツイ女です。すず子が盲腸で入院し、その入院費が払えないという時、姉は金を貸そうかと言います、銀行利子で。

 結局、入院費は三吉が家の家具や大切な蓄音機を売って払いました。
 退院後、家に帰ったすず子は、家ががらんとしているのに驚きます。
 三吉が売らずに残したものは、すず子のミシン、ベビーバスケット、三吉の造船研究模型、そしてテニスラケット。
 学生時代、三吉はテニスが上手で、すず子は三吉のその姿に惚れたのでした。


 話は、三吉の元上司が、三吉に研究所の職を世話するところで穏やかに終わります。
 この映画、ところどころでフォトジェニックなシーンを見せます。(お見逃しなく)
 そんなシーンも手伝って、この映画の中を吹く、ふくよかなそよ風が感じられれば、いいですね。これが本作の肝です。 
 小津映画などでの杉村春子の役回りに慣れ親しんだ向きには、この映画の森下さん役の演技が写実風に見えるかもしれませんが、そうではありません。

監督:佐分利信|1955年|109分|
原作:田中澄江|脚本:田中澄江、井手俊郎|撮影:藤井静|
出演:笹山三吉(芥川比呂志)|笹山すず子(淡島千景)|森下さん(杉村春子)|志野君(仲谷昇)|すず子の母親・山崎とき(長岡輝子)|すず子の姉・山崎たか子(文野朋子)|すず子の弟・山崎良(飯田紀美夫)|すず子と同窓の原さん(丹阿弥谷津子)|ほか

淡島千景が出演の映画をここにまとめています
これ


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