映画「未知への飛行」 監督:シドニー・ルメット
2018年03月29日 公開

米ソ間のホットラインと米国大統領
1964年製作の米ソ冷戦時代のSF映画。
話は緊迫感がラストまで続き、112分一気に観せます。

しかし、これはアメリカがソ連に仕掛けた戦争(奇襲攻撃)ではなかった。
空軍司令部にある軍事情報集中センターの、電子機器モジュールの誤作動が原因で、モスクワ核攻撃の司令信号が、洋上上空にいた核爆弾搭載のB-58爆撃機へ発信されてしまったのだ。
モスクワへ進路を取ったB-58編隊へ、軍司令部は慌てて交信しようとしたが、ソ連の常設の電波妨害で交信不能。
そこでしかたなく、軍はB-58編隊を自軍ジェット機で撃墜しようとしたが、ジェット機は燃料切れで相次いで海に墜落。
そうこうするうちに、B-58はある一線を越えてしまう。
ある一線とは、進撃ルート途中のある一線を越えてしまうと、例え大統領であろうが、攻撃司令の解除が出来なくなる地点。
つまり交信で攻撃中止を伝えたとしても、それは敵の仕業(偽情報)だとして信じるなと、空軍兵士は徹底的に教え込まれている。
ホワイトハウス(その地下室)には、アメリカ合衆国大統領(ヘンリー・フォンダ)と通訳のバック(ラリー・ハグマン)の2人だけ。そしてソ連とつながる電話(ホットライン)がひとつ。(ソ連側については、映画は電話音声でしか表現しない)
ペンタゴンや空軍およびソ連高官とのやり取りの中で、大統領が出した苦渋の決断は、B-58編隊撃墜をソ連へ依頼したことであった。
ソ連軍は、ジェット戦闘機や地対空ミサイルなどで、B-58、4機を撃墜したものの、その4機はいずれも核爆弾を積んでいない機体であった。
ソ連軍の攻撃をかわした、編隊長グレイディ大佐が乗る核弾頭搭載のB-58一機は、モスクワへと突き進む。
ソ連側はもう打つ手が無い。B-58はあと数分でモスクワ上空に達するのであった。
そして、ここで大統領がとった二つ目の苦渋の決断とは、ソ連を納得させるための驚愕の司令であった・・・。
観終えて思うのは、米国大統領のこの最後の決断は、果たしてソ連の納得を得られるのだろうか。
大統領の意思に反して、ここから米ソの核戦争が始まるのではないだろうか。
核爆発による電磁パルス(EMP)発生で起こる電子機器の誤作動について。
1950年代、核実験が行われた際、近くの米軍軍事施設の電子機器に不具合が生じたらしい。また1962年、太平洋上空での核実験で1400キロ離れたハワイで警報機、信号機の誤作動がみられたらしい。そして現在も各国で電磁パルスの軍事研究が行われているらしい。(2018.3.25朝日新聞、想定外を考える「電磁パルスで機器誤作動」)
こんなことを想定すると、誤作動による、あるいは意図的に起こす誤作動で、今後、紛争が起きる可能性は大だ。
1959年、アメリカをはじめとする西側との平和共存路線を模索してのフルシチョフの訪米(雪解け)も、1960年のU2型機事件※で米ソの平和共存は暗礁に乗り上げた。(1961年ベルリンの壁構築、キューバ危機と米ソの平和共存が崩れる)
U2型機事件の4年後の本作は、(シリアスなSF映画であるだけに)、話は牧歌的に思える。
本作と同年製作の、似たテーマの映画に、スタンリー・キューブリックの「博士の異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか」があるが、これは喜劇仕立てであったがために救われている。(下線部から記事をご覧いただけます)
※U-2撃墜事件とは、1960年にソ連を偵察飛行していたアメリカ合衆国の偵察機、ロッキードU-2が撃墜され、偵察の事実が発覚した事件。その後、予定されていたパリでの米ソ首脳会談が中止されるなど大きな影響があった。(wikipediaによる)
オリジナルタイトル:Fail Safe
監督:シドニー・ルメット|アメリカ|1964年|112分|
原作:ユージン・バーディック 、ハーヴェイ・ホイラー著「未確認原爆投下指令/フェイル・セイフ」
脚本:ウォルター・バーンスタイン|撮影:ジェラルド・ハーシュフェルド
出演:アメリカ合衆国大統領(ヘンリー・フォンダ)|ブラック将軍(ダン・オハーリー)|グロテシェル教授(ウォルター・マッソー)|ボーガン将軍(フランク・オーヴァートン)|バック(ラリー・ハグマン)|グレイディ大佐(エドワード・ビンズ)|ラスコブ下院議員(ソレル・ブック)|カッシオ大佐(フリッツ・ウィーヴァー)|スウェンソン国防長官(ウィリアム・ハンセン)|コリンズ(ドム・デルイーズ)|フォスター(ダナ・エルカー)|ゴードン・ナップ(ラッセル・コリンズ)|
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