映画「影を斬る」 天守閣のてっぺんで殿様と昼寝する侍の話。 主演:市川雷蔵, 瑳峨三智子 監督:池広一夫
2020年12月30日 公開

ここは江戸、隅田川、川面を渡る夜の風。
粋に浮かべた屋形舟には、ふたつの影が。
それは、芸者君竜(瑳峨三智子)と、仙台藩(伊達藩)家臣 井伊直人(市川雷蔵)。
仙台藩の御天守奉行(兼)剣術指南役たる井伊直人が、なぜ今、ここ江戸にいる、無頼に身を落としたか。
そして、仙台藩62万石2代藩主、伊達忠宗が井伊直人に語った「ぐ」と「げ」の違いとは‥。
★ ★ ★
この頃すでに世は太平、仙台藩に限らず、各藩の家臣は武士からサラリーマンと化していた。朝寝はしたいが、遅刻は怖い。仙台藩の、朝の始業開始間際の出勤風景はこんなだった。そして殿を前にしての格式張った、部課長たちの朝礼は、あちこちで欠伸ちらほら。殿もつい、もらい欠伸‥。
城内には多くの部署(奉行所)があるが、長柄奉行所(戦時対応の武器管理部署)は日がな一日、暇を持て余す一方、御金・御蔵・御勘定の各奉行所は、そろばんパチパチ多忙だ。
そんな中、御天守奉行の井伊直人は、青葉城の天守閣を守衛する部署だが、することは少ない。
直人(なおんどと読む)は毎日、天守閣のてっぺんで、誰にも知られず、密かに殿と朝寝、昼寝。
しかしなぜ、直人はそんなに殿と親密なのか?
直人は独身で、城下でも有名な色男、周りの女が放って置かない、モテるばかりで遊び放題。
仙台藩家臣のこのテイタラクを嘆くのが、殿の不在時に代理業務を担う城代家老(将監)。よって直人は藩内最上位の要注意人物になっている。
その直人を頼って、殿はお忍びで、矢倉下(城下)の酒場に出かけるのが唯一の楽しみ。
直人のボロ屋敷で殿は着替え、直人 行きつけの店へ2人で繰り出すのだ。(家老はこの時点で殿の行動を知らない)
もちろん、殿は無一文、直人も懐寂しく、直人の唯一の奉公人の笠原左内(藤原釜足)に、都度、渋々財布の紐を緩めてもらっている。藤原釜足がいい味を出している、好印象。
殿がこんな遊びを覚えたのにはワケがある。
殿の奥さんは、徳川将軍の娘・和子で、殿は尻に敷かれっぱなしだった。俺は天下の殿様なのに頭が上がらない! 憂さを晴らしたい。
そんな殿は、自由人の直人が羨ましくてたまらない。
そこで殿は直人に言う、愚痴る。「自分より立派な妻を持つべきでないぞ」
続けて殿は言う。「さっき、お前は城代家老(将監)の前で、家老の娘、チンクシャと噂の定(さだ)を、仙台小町と持ち上げ、『拙者の嫁に欲しい』と、家老に冗談を言ったがな‥、「ぐ」と「げ」じゃ大違いだぞ」
「と申しますと?」
「ひと文字違うだけだが、しょうぐん(将軍)の娘と、しょうげん(将監)の娘」(将監とは武家の官位)
何を言いたいかと言うと‥「わしにとっては家老の娘は目下だが、お前にとっては目上。くれぐれも自分より立派な妻を持つべきでないぞ」
ところが、です。
その城代家老の娘の定、チンクシャと噂の姫だが、城内・城下で誰も見た者はいない深窓の令嬢、この定が、なんと、直人の嫁になりたいと言い出した。
父親の城代家老はブッたまげたが、本人の固い決心は変わらなかった。(押しかけ女房だ)
話は猛スピードで、結婚式へ。

定は言う「明日、私と剣術の試合をしてあなたが勝ったなら‥という父上とのお約束でしたね」
(そうでした、直人は剣術指南役でもありました、自宅に道場もある)

これじゃ、まるっきり女性上位。(と、殿は陰でガッカリ、これはわしと同じじゃ)
結果、直人は江戸に行き、強制的に柳生流の剣術修行。
とはいえ、直人のこと、江戸でもやはり酒と女の日々。
それから何か月、程よい頃を見計らって直人は国許へ、柳生流免許皆伝を得たと嘘を言い。
しかし、またしても定に完敗。で、また江戸へ。それから、また酒と女の日々。

君竜を座に呼んだのは、なんと堅物の城代家老。家老は江戸へ遊びに来たと言うではないか。
不信に思った直人は急ぎ国許へ、定が仙台にいるか確かめに。しかし、定はいた、直人の道場でナギナタ稽古中。(映画「超高速!参勤交代」より、ずっと高速)
これを確かめた直人はふたたび江戸へ。君竜と会おうとしたがここのところ風邪で寝込んでいると言われる。
そう言われたところへ、ひょっこり君竜が現れた。そして屋形舟で‥(最上段の画像)
直人も男、ここにタクラミ有り。
定の耳の後ろに小さなホクロがあるのを初夜の晩に知っていた。それをここで確かめようと、君竜を押し倒し‥。
さて、その帰り。
君竜を送って夜道をふたり。
そこへ、定番、直人を狙う暗殺団。
よく見れば暗殺団のリーダーは、仙台の道場に来た道場破りの凄腕浪人。直人はまた、金で解決しようとして、何とかなった。
が、あとで、君竜から面と向かって「なんと情けないお方」と罵られた。
これに直人は自責の念、そして奮起、一大決心。姿を消す。
消すこと1年。そののち直人はふっと国許へ姿を現し、定と再度‥、ただし今度は御前試合。殿の奥方の和子もいる。
結果は直人がすんなり勝った。本物の柳生流免許皆伝。殿も大いに喜んだ。
二人は二度目の、いや、やっと初夜を迎える。初夜に寝所で盃を交わす床盃だ。
耳のホクロでお前が君竜と分かったぞと。
直人の勝利を目の前で見て感じ入った奥方、和子さんは、徳川を笠に着る 夫に対する態度を反省したらしい。
互いに晴れ晴れとした気分となった殿と、直人。(天守閣にて)
そのあと、二人は、お昼寝。1フロアー下では、なんと城代家老も、昼寝をしようとして、御付きの家臣が大いに驚く!
結局、何もかも、暗殺団の襲撃も、城代家老と定、父娘による「井伊直人の立ち直り」を導く謀りごとでありました。(終)
最後に、この映画の「影を斬る」という勇ましいタイトルは、自身の良くない影を斬るということでありました。
いい映画です。話がポンポン進み快適です。
雷蔵主演のチャンバラ映画を期待する向きには、つまらん映画だろうと思います。
監督:池広一夫|1963年|82分|
脚本:小国英雄|撮影:武田千吉郎|
出演:井伊直人(市川雷蔵)|定と君竜(瑳峨三智子)|定の父親・城代家老の伊達将監(稲葉義男)|仙台藩藩主伊達忠宗(成田純一郎)|その妻和子(坪内ミキ子)|笠原左内(藤原釜足)|ほか
市川雷蔵が出演の映画です。
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