映画「未来世紀ブラジル」 監督:テリー・ギリアム
2018年04月14日 公開

SFコメディだが、とてもシリアス。
未来のどこかの国の話。(映画製作年1985年)
この国では、国民のあらゆる個人情報が日々徹底的に掌握・管理され、国民は全体主義的に支配されている。

省というからには行政機関の一つのようだが、テロ対策に対応できる武力(警察機能)と、闇の裁き(公正な法なき裁判機能)を持ち、よって一省庁でありながら国家権力として絶大な力を持っている。(司法府・立法府は映画に出てこない)
話は、日々膨大に発生する、行政手続き遂行に全力を注ぐ「役人」だけで事は終始する。彼らの視野に、国民や公正なんてハナから無い。これがこの映画の怖さの主因。
ある日、その膨大な行政手続きのひとつに書類記載ミス(人名の間違い)が発生した。これがこの物語の発端だった。
このミスによって、無実の男がある日突然、テロ容疑者として情報省情報はく奪局にて拘束され、彼らの手による拷問の末、男は死亡。
この検挙時費用を、情報省は男の妻に過大請求したため、後日、省は払い戻ししなければならなくなった。(これもミス)
ここで登場するのが主人公サム。サムは払い戻しのために男の妻に会いに行くことになった。
サムは情報省記録局の役人。(省内では情報はく奪局が出世コースで、記録局の人材は落ちこぼれらしい)

その女性にそっくりな女(トラックドライバー)が、記録局の入口カウンターに来ていた。サムはこれを目撃する。
この出会いがサムの平凡な人生を一変させることになった。
その女は、人名間違いで殺された男の部屋の階上に住んでいて、事の次第を知る女であった。女は残された妻に代わり情報省記録局に書類手続きに来ていたのだった。

一方、はく奪局は、省のミスのすべてを隠すため、この女の逮捕に踏み切った。
これを知ったサムは、この女の身を心配し、役人の職を投げ出し彼女に近づき、そして一緒に逃走する。サムは勇敢であった。
もうひとつ、サムの人生を変える出会いがあった。
その男の名はタトル。これぞ、はく奪局がミスなく書類に記載すべき名であった当のテロ容疑者である。
タトルの容疑行為は、ビルマンションの不法な配線配管修理。なぜ不法か?
この国ではこのサービスは国が直接提供するサービスであるから。
(この国では、パイプ、チューブ、ダクトによって家々は通信回線、電気ガス上下水道、空調のサービスを受けているが、情報省が日々掌握すべき個人情報を得続けるには通信回線を管理下に置いておかねばならない。しかしパイプ、チューブ、ダクトがどこも、ぐちゃぐちゃに入り組んでいて、どれが通信回線かすら不明な状態。だから配線配管修理は一括して国営なのかな)
このタトルがサムの部屋の配線配管修理に現れたのである。
くわえてタトルは、高層ビルからワイヤーを使って地上に滑り降りる、スーパーマンのように謎の男。

その最中、サムはタトル率いる一群が彼を救いに来る幻想をみる。
そして、ついに精神を破壊されたサムは、幸せな夢を見る。それは彼がこれまで見てきた夢物語の、そのハッピーエンドだった。
ちなみに、この映画の製作年1985年とは、一般的にはオフィスにパソコン(社内LAN)があるかないかの時代、それも16ビットのパソコンであった。世はインターネットやコンピュータによる高度情報化社会への憧れがあった時代。(同時に不安もあったが、ネット上の個人情報についての目立った見識はなかった)
当時、そんな新しい時代感覚を反映した本作に驚きと斬新さ(アナログ感覚も含め)を覚えたが、今観るとさすがに、その辺はあまり意識に上がらず、情報省の人権無視の横暴さが、行政手続きの中で淡々と行われる怖さを感じます。
予告編だよ!
https://www.youtube.com/watch?v=ZKPFC8DA9_8
オリジナルタイトル:Brazil
監督:テリー・ギリアム|イギリス|1985年|142分|
脚本:テリー・ギリアム 、 トム・ストッパード 、 チャールズ・マッケオン|
撮影:ロジャー・プラット|
出演:サム・ローリー(ジョナサン・プライス)|ジル・レイトン(キム・グライスト)|アーチボルド・ハリー・タトル(ロバート・デ・ニーロ)|ミスター・カーツマン(イアン・ホルム)|アイダ・ローリー(キャサリン・ヘルモンド)|スプー(ボブ・ホスキンス)|ジャック・リント(マイケル・パリン)|ミスター・ウォーレン(イアン・リチャードソン)|ミスター・ヘルプマン(ピーター・ヴォーン)|ドクター・ジャフェ(ジム・ブロードベント)|

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