映画「浮草物語」 (1934) サイレント映画   監督:小津安二郎

上
信吉、おとき

1-0_201807281140526fe.jpg 各地を巡業する、旅の一座の座長・喜八と、20年前、興行先のこの町で生まれた喜八との愛を今も守り続ける おつね、そしてふたりの一粒種の信吉。
 だから、4年ぶりのこの夏、一座の面々と、この町の駅に降り立った喜八の心は、2人に会える喜びに満ちていた。
 
 芝居小屋(兼宿舎)に落ち着いた一行をあとにして、喜八(坂本武)は早速おつね(飯田蝶子)の家へ出かけようとする。 
 「よそ行きの着物を出してくれ」と喜八に言われた、一座の役者で喜八の今の女房のおたか(八雲理恵子)は、少し首をかしげるが、「土地の御ひいきさん方へ一寸ご挨拶に行ってくるんだ」

 さて、おつねは喜八を、4年の歳月が無かったかのように温かく迎える。学校から帰って来た信吉(三井秀男)はもう青年に成長していた。 (喜八はおつねを「かあやん」と親しみをこめて呼び、信吉には喜八を「おじさん」と呼ばせている。そう、父親は死んだことになっているのだ。だが喜八は仕送りを欠かさなかった。)

2-0_20180728114637d49.jpg ところで、興行のほうは順調ではなかった。
 長雨で公演が中止になるさ中、ことは一座のベテランがふと漏らした一言を、おたかが聞いてしまったことに始まる。
 それはこうだった。
 ある若い役者が言った「雨に降り籠められて俺たちは金も無く、ここでごろごろしているのに、座長は毎日飲みに出ている」
 これを受けてベテラン役者がつい口をすべらせた「そりゃ、この地に来たら仕方がねえよ」
 「お前さん、いま妙なこと言ったね。何かわけがありそうじゃないか」と、おたかが突っ込んだ。
 おたかは、おつねのことを知らなかったのだ。 

 話はここから急変する。
 おたかは嫉妬から、おつねの家へ押し掛けた。二階から降りてきた喜八は おたかと対面し、おたかを打って追い出し、二度とこの家の敷居をまたぐんじゃねぇ、お前とは金輪際、縁切りだと言い放つ。
 恨んだ おたかは、ことの次第をまったく知らない一座の役者、可愛い おとき(坪内美子)を説き伏せ、おときの色気で喜八の実子・信吉を口説くよう、金を握らせ言い聞かせた。
 
 だが、結果は思わぬことに。
 おときと信吉は、相思相愛になってしまう。
 これに気付いた喜八は、おとき、おたかを呼びつけ打った。おたかは言う、これでお互い様さ。

 喜八に不幸が続く。降り続く長雨は喜八一座を打ちのめし、一座は解散となった。舞台衣装をすべて売ったが、その金額は役者たちのそれぞれの旅費にしかならなかった。
 喜八はおつねの家へ行く。おつねはこの家で家族三人過ごそうと言う。口にこそ出さないが喜八もそういう思いでここへ来たのだ。
 そこへ、信吉と おときがどこかから一緒に帰って来た。
 これを見て喜八はおときを打つ。何様と思ってるんだと。
 だが、おときを殴る喜八の手を信吉が止めた。お前はおっかさんの心配がわからないのかと、喜八はこんどは信吉を打った。もみ合う2人の間に入った おつねが、ついに言った。この人がお前の本当の父さんだよ。
 そして信吉が言った。父親なら、20年も妻子をほったらかしにして置くわけがない、と。

 この一言が喜八の心を決めた。また、旅に出るよ。
 そして家を出る間際に、喜八は おつねに言った。骨折りついでに、この おときの面倒もみてくれ。うなずく、おつね。

3-1_20180728115123d56.jpg 夜、駅舎に着いた喜八は、ひとりポツンといる、どこ行くあてもない おたかに出会う。
 そおして、ふたりは無言のまま、夜汽車に乗ったのでした。
 
             
 
 喜八一座が4年ぶりに来た町、おつねが喜八を待つ町は、中山道は奈良井の宿です。
 一座を駅で迎え待つ芝居小屋の男に、駅員は言います。「また何かかかるのかい」「芝居だよ 市川喜八一座だよ」
 芝居だよ、と言ったのはたぶん、芝居小屋に映画もかかる1930年代の時代になったからでしょうか。
 床屋のシーンがあります。店の女将は「喜八は若い時、いい男だったよ」これを聴く床屋の主人は、いまだにやきもちを妬くのです。20年前の当時のそんな中で、おつねは喜八をものにしたのでしょう。
 人種が違うと、喜八は旅芸人の おたかや おときに言います。これから偉い人になる信吉と比べてのことです。
 喜八は おつねと暮らしたいのですが、人種が違う自分が父として信吉と一緒にいては信吉がダメになってしまうと思っています。
 ですが、信吉は おときと一緒になるという。これを許したのは、幼いころから おときを見てきた喜八が、おときの人柄を認めたからでしょう。そして自分はこの町を去ります。
4-1_20180728115250761.jpg 「かまわないから もっと大きいのをすえておやりよ」と、喜八に灸をすえてやっている おときに おたかが言います。奈良井の芝居小屋についてすぐのことでした。このシーンは、あとの展開を暗示させています。
 同じく暗示させるシーンに、長雨で公演が中止になる中で、「こりゃ、高崎の二の舞だ」という一座の役者が言うセリフがありました。ここでは観客は何のことだかわかりませんが、あとで分かります。
 おたかと縁を切ると言った喜八に、おたかが恩を忘れたのかと言い返すシーンで、分かるのですが、高崎で雨で興行ができなくて金に窮した一座のために、おたかが高崎の地場の旦那衆に頭を下げて、金の工面をしたようです。
 これらのように、本作はサイレント(無声)映画でありながら、内容はとても豊かで緻密に出来上がっているようです。また時に喜劇的な味も添えています。

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監督:小津安二郎|1934年|118分|
原作:ジェームス・槇(小津のペンネーム)|脚本:池田忠雄|撮影:茂原英朗|
出演:喜八(坂本武)|おつね(飯田蝶子)|信吉(三井秀男)|おたか(八雲理恵子)|おとき(坪内美子)|とっさん(谷麗光)|その子富坊(突貫小僧)|吉ちゃん(西村青児)|マア公(山田長正)|下廻り(油井宗信)|古道具屋(懸秀介)|床屋のかみさん(青山万里子)|ほか



こちらで小津安二郎監督の作品をまとめています。
サム3



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