映画「ウンタマギルー」  監督:高嶺剛

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  この映画、結構、荒唐無稽ですので、ご注意。
  ニライカナイの神はその昔、一頭のメス豚を、サトウキビを絞る製糖所の親方で、養豚も営んでいる西原親方に預けていた。親方と一緒に住んでいるマレーという美女(青山知可子)こそは、その豚の化身。なにしろ異様に色っぽい。親方でさえ、時に心が騒ぐ。よってニライカナイの神は、親方の視力と生殖能力を奪っていた。だから製糖所で働く、善良でいい男・島尻ギルー(小林薫)がマレーと出来てしまっても、おかしくはなかった。

33_20180519081103e8b.png  だが、親方は許さない。策を練ってギルーを放火犯の悪者に仕立てて村から追い出した。追われるギルーは、人が近寄らない聖なるウンタマ森の奥にある、大きな洞窟に隠れた。これを助けたのは、霊感を持つ妹のチルー(戸川純)と、母親(平良とみ)そしてギルーの友人だった。さらには、森の妖精キジムナーも彼を支援した。なぜなら、以前にギルーはキジムナーの子を救っていた。恩返しだ。キジムナーはギルーに不思議な力を与える。自分の身体や物を宙に浮かすこと、家畜など動物を操ること、そんな力をギルーは得た。

  さて映画はここで、沖縄に伝わるウンタマギルーという義賊の英雄伝説を下敷きにしながら、1972年沖縄返還時の問題を掛け合わせて話し始める。義賊ウンタマギルーとは、つまり沖縄のロビン・フッド、あるいは沖縄のねずみ小僧。伝説では、富がある所から食料・家畜を奪い、飢餓に苦しむ人々に分け与えた。映画では、悪徳商人や嘉手納基地から食料や武器を盗み、沖縄独立へ向けて行動する独立党一派を支援する。要するに、製糖所の島尻ギルーは、キジムナーの力によって、現代の義賊ウンタマギルーに変身したのであった。

アメリカ  アメリカの沖縄統治責任者、カマジサー高等弁務官(架空の人物)は言う。「今、日本復帰運動に島民は燃えているが、多くの沖縄人は日本人ではないと思っている。沖縄は独立しない限り自治権は神話である。私が沖縄の最高権力者だ。沖縄は米国統治下にある。私は琉球政府の行政主席の任命権や立法に対する修正権と拒否権を持っている。・・・・・」 (カマジサーとは、ムッツリ不機嫌な顔をしている人という意味)   
  一方、独立党一派は、カマジサー高等弁務官とその傀儡である琉球政府警察隊に対し抵抗するが、そこまででそれ以上は映画は語らない。ただ、独立党と警察との戦闘場面で、日ごろ復帰デモを取り締まれない警察は「独立党に銃を流した者は死刑だ。」と叫ぶ。これを受けてウンタマギルーは言った。「アメリカも日本も祖国だと思わない。この琉球こそ我が祖国だ」と。

組200  さて場面変わって、伝説ウンタマギルーを演目にした素人芝居が村で始まる。大勢の村人が楽しんでいる。村人役者が熱演しているウンタマギルー、その最中に、変身した島尻ギルーが割り込んで、本物のウンタマギルーが村人の前で宙に浮く。驚き喜ぶ観衆に交じって西原親方が、ギルーめがけてヤリを投げる。ヤリは見事にギルーの額を貫いた。親方はヤリの名人であった。しかし、ギルーはヤリが刺さったまま歩き出すのであった。
  そして時が経つ。島尻ギルーに似た若者が、海が見えるある製糖所で働いている。マレーもいる。そしてそこへ・・・。
  
  この映画は、沖縄県の中頭郡西原町にある 「運玉(ウンタマ)森」 を舞台にした映画です。この運玉森には、その昔、義賊である 「ウンタマギルー(運玉義留)」 が隠れ棲んだという伝説があり、映画はこの伝説を下敷きにしています。もちろん伝説上の人物で民話です。ウンタマギルーという題材は、沖縄芝居の演目として取り上げられていて、映画中でも、村人による素人芝居の様子が描かれています。ウンタマギルー(運玉義留)伝説については、こちらから wikipedia を参照できます。(外部リンクです)

テルリン  映画のセリフは、全編に渡って沖縄方言であるため字幕が付いている。なかなか、沖縄色が濃い映画です。
  沖縄音楽も多く取り入れられている。出演している照屋林助(通称:テルリン)は、著名な先進的ミュージシャンであり沖縄漫談家。そのボードビルショー「ワタブーショー」の雰囲気は、映画に観るシーンそのまま。政治問題も進んで取り上げたテルリンであった。彼が持つ三線(沖縄三味線)にも注目。4弦三線と1弦三線を持っている。なにしろ彼はエレキ三線の開発者。シンセサイザーも自身の音楽に取り入れていた。ま、それはともかく、とにかく、照屋林助の存在なしには、この映画は成り立たなかったろう事は強調しておく。
  さらには沖縄民謡界の神様とも言うべき嘉手苅林昌も、2つのシーンで控えめに出演し、素晴らしい三線と唄を披露している。残念ながら、このお二方は既に他界された。
  ここまで書いてこの段で言うが、この映画、筋書きに無理があって、荒唐無稽と言い切れないのが残念だ。

組3200  おしまいに、この映画と通底している映画として、タイの映画「ブンミおじさんの森」 監督:アピチャートポン・ウィーラセータクンを紹介したい。これもいい映画です。こちらからご覧ください。 


監督・脚本:高嶺剛|1989年|120分|
撮影:田村正毅|
出演:小林薫:島尻ギルー、ウンタマギルー、サンラー|戸川純:チルー|ジョン・セイルズ:カマジサー高等弁務官|青山知可子:マレー|エディ:島尻の友人アンダクェー|平良進:西原親方|間好子:親方の世話をするウトゥーバーサン|照屋林助:床屋のテルリン|宮里栄弘:キジムナー|北村三郎:安里親方|平良とみ:ギルーの母ソブシー|大宜見小太郎:島袋警察長官|赤嶺直美:キジムナーの子・キージー|グレート宇野:レンキン|嘉手苅林昌:三線を弾く老人|伊良波晃:山城家の主人|

沖縄の高嶺剛監督の映画です。
ぜひ、観て欲しい映画です。
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やまなか
Posted byやまなか

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