映画「にっぽん昆虫記」 監督:今村昌平
2018年11月22日 公開

まるでドキュメンタリー映画のようなリアルな映像、ライブ感は、セットを使わずの自然な演出もさることながら、やはり撮影の力が大きいように思う。
例えば、セリフを言う主役の姿が画面端で、それも縦半身しか映さず、画面中央には端役たちが位置する構図など、映画撮影の御作法を避ける手法をとって、リアル感を出している。
(とは言っても主役のその半身は、三脚に固定したカメラでしっかり構図に入れている技)
あわせて、口ごもったセリフが方言全開であることもリアル感を誘う。(字幕が欲しい)
しかしドキュメンタリー映画のようなリアルを感じる一番の要因は、これが決定打だが、50年以上前の俳優たちの放つ「存在感」が、つまり、映画が言うその時代の多くを実際に生きた俳優たちの存在感自体が、当時のリアルな雰囲気を作為なく体現していることだ。
(同じ条件で現代の俳優を起用しては、こうはならないだろう)
だから観客は、ドラマ映像と、映画に挿入される松川事件や安保闘争の実写との間に違和感を覚えない。

お話は、大正7年から戦後すぐまでの30年を語り、その間の日本社会の下層を描くを背景にして、東北の小作農家に生まれた松木とめ(左幸子)の、小作出自だからこその不幸と、農村の因習と愛欲と、とめの頑張り、そして単身東京へ出ての、身一つの成り上がりでつかんだ売春稼業と女の幸せ、あとを追う娘信子(吉村実子)の生きざま、そして、とめの挫折と諦観を物語る。
公開当時の売り文句では、「私はカマキリ!男の生血を吸って、たくましく生き抜く背徳の女ひとり」。(ロマンポルノではない)
左幸子は、本作でベルリン国際映画祭の主演女優賞を受賞(日本人初)。
監督:今村昌平|1963年|123分|
脚本:長谷部慶次 、 今村昌平|撮影:姫田真佐久|
出演:松木とめ(左幸子)|松木りん(岸輝子)|松木えん(佐々木すみ江)|松木忠次(北村和夫)|松木沢吉(小池朝雄)|松木るい(相沢ケイ子)|とめの娘・松木信子(吉村実子)|蟹江スマ(北林谷栄)|小野川(桑山正一)|本田俊三(露口茂)|坂下かね(東恵美子)|上林芳次(平田大三郎)|製糸工場の男・松波守男(長門裕之)|米兵の妻(オンリー)の谷みどり(春川ますみ)|班長(殿山泰司)|若い衆A(榎木兵衛)|若い衆B(高緒弘志)|高羽製糸女工A(渡辺節子)|高羽製糸女工B(川口道江)|正心浄土会A(澄川透)|正心浄土会B(阪井幸一朗)|とめのパトロン・唐沢(河津清三郎)|タクシー運転手(柴田新三)|東北本線の客A(青木富夫)|東北本線の客B(高品格)|警察の取調官(久米明)|谷みどりの夫(ヒモ)の韓国人のけんちゃん(小沢昭一)右下写真|
今村昌平 監督の映画
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