“ 絵画は黙して語らず ”   ‥‥「絵画の歴史 洞窟壁画からiPadまで」,「ギャラリーゲーム ピカソと画商の戦略」,「巨大アートビジネスの裏側 誰がムンクの「叫び」を96億円で落札したのか」 《最近読んだ本》

こ 絵画は黙して語らずだが‥‥。
 近頃、美術館の宣伝が、わざとらしいこと、はなはだしい。
 同時に美術館の視野の偏狭さを感じる。
 絵は、もっと自由な発想で楽しみたいものだ。
 そんな思いで一冊目の「絵画の歴史」を読んだ。これは堅苦しい本ではないし古今東西の画集でもあります。
 
 絵画は黙して語らずだが‥‥。
 そもそも、美術館が所有するような価値が高いと言われる絵画は、王や貴族の持ち物だったし、今でも一握りの富裕層コレクターが買い、また転売もするものなのです。
 そして、それらを生み出した画家たちは、そういう人々向けに絵を描いて来たし、今もそういう人々向けに描いて、画家の生活を支えているのです。
 もちろん、画家とコレクターを仲介するのは画商で、批評家やキュレーターが評価者として加わり、またサザビーズなどの競売会社が高値の市場価格を公表し、さらには最終的に権威付けするのは、特定の企画展を開いたり、所蔵品として収納する美術館なのです。
 私たち一般庶民から見れば、こういった閉ざされた向こうの世界が、現実の美術業界の世界なのでしょう。
 よって私たち部外者は、美術館に行って、自分では買えない貴重な作品を観覧料払ってわずかな時間、観させていただいている。
 ひるがえって思うに、だからこそ、私たちは純な鑑賞者であって、何ものにも束縛されずに楽しめるのだ。
 つまり、買おうか買うまいかの邪念も無いし、絵画に投資する資産の心配も無いし、誰かをヨイショすることもないのだから。 
 ついでに言えば、誰が作り上げたのか知らないが、芸術や芸術家への過剰なまでの神聖さや神話性に、そのうたい文句に、私たちが乗せられ縛られていては、せっかくの純な鑑賞者の立場を見失ってしまいかねないことは心配しなきゃいけない。
 そんなこんなの思いで次の二冊「ギャラリーゲーム」と「巨大アートビジネスの裏側」を読んだ。

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1_20190202100107d77.jpg 「絵画の歴史 洞窟壁画からiPadまで」というこの美術書(画集)は、デイヴィッド・ホックニーという著名なアーティストが、親しい学芸員を相方に、その広い視野で古今東西、数々の絵画に目を注ぎ、画家だからこその眼で「絵画の歴史」を語る本であります。

 こういう人たちと美術館を巡れば、楽しいだろうと思う。
 作品を見て気づかぬことや、作品解説パネルの味気無さの向こうに、なるほど、気づかなかった世界を教えられ、きっとハッとすること度々だろうと思う。

 例えば、洞窟の壁面のシミ、天井板の木目節目が何かに見えたり、といった誰もが経験するそんなことが絵を描くことの原初ではないか、といった話。
 例えば、写真が誕生する1839年より数百年もの前から、西欧の画家は、レンズと鏡(ピンホールカメラ)を使って壁などに投影した画像、つまりレンズを通して見える画像を手本に、遠近法な絵画を制作していたこと。(このことを歴代の画家たちは敢えて公言せずに至っている)
 だからこの、写真のようなモノの見え方に縛られ続けた西欧画家たちは、遠近法など関係ない、日本美術のモノの見え方に感動し、これに群がったこと。
 例えば、写真は一瞬を切り取り、結果、時間の層がない。例えば180時間制作に要したある人物絵画は、その間、画家はモデルの様々な面を見ることになるので、それが絵に込められている。なるほど。

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2_2019020210010989b.jpg  実は、“ ピカソ” は、ピカソ本人だけでは成り立たなかったことを、「ギャラリーゲーム ピカソと画商の戦略」は言っている。
 本書の邦題「ギャラリーゲーム」は興味本位に傾く題だが、著者の本意は原題「Making Modernism」で分かると思う。

 まずピカソは自分の才能をコントロールできる人だったらしい。
 例えば彼が上流階級に出入り出来るようになると、彼らの好みを感じ取り、そのマーケットに向けて作風を変えていく。
 同時にピカソは、印象派画家の作品から響いてくる彼が感じるものを作風に加えていくのだ。

 そして若きピカソにすごいものを感じた、先見性ある画廊が、ピカソと二人三脚となって、ピカソをピカソとして世にプロモーションし始める。このマーケティングに乗ったコレクターと批評家はピカソを称賛し、ついでキュレーターたちも加わり、初の美術館展示となって行く。
 20世紀初めころ、画廊、批評家、キュレーターの職務区分は、今に比べ少々曖昧だったらしいが、これらの人々と協働してピカソは出来上がっていった。
 本書はそうしたモダニズム絵画の成功をつくった市場メカニズムを見せてくれるのです。

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3_20190202100110f09.jpg さて上記「ギャラリーゲーム」から50年100年経た現在の美術界はどうなんだろう。
 一冊目の著者で画家のデイヴィッド・ホックニーだが、代表作《芸術家の肖像画 プールと2人の人物》が、落札予想額90億円に対して102億円で落札された。(2018.11)
 これは、クリスティーズ・ニューヨークで行われた戦後・現代美術セールで、現存作家としてのオークションレコードを塗り替える記録らしいです。

 そんなことを知ってのち、サザビーズジャパン社長であった著者が書いた本書「巨大アートビジネスの裏側 誰がムンクの「叫び」を96億円で落札したのか」を読んだ。
 業界裏話的に興味本位で読むのもいいかもしれないが、ご商売柄、著者が、コレクター達の好みやその変化を数多く見てきたからだろう、学芸員には語れない話が面白いし、例えば、巨匠も高齢になれば画力が落ちる、など美術の学会学問の世界では目をつぶるかもしれないこともズバズバハッキリ言えるのも著者のマーケット経験からだろう。そこが面白かった。


「絵画の歴史 洞窟壁画からiPadまで」  デイヴィッド・ホックニー (著), マーティン・ゲイフォード (著)
目次|画像、美術、そして歴史|画像と現実|徴をつける|影とごまかし|時間と空間を描く|ブルネレスキの鏡とアルベルティの窓|鏡と映像|ルネサンス:自然主義と理想主義|紙、絵具、複製される画像|舞台を描く、絵画を上演する|カラヴァッジョとカメラのような目付きの男たち|フェルメールとレンブラント:手、レンズ、そして心|「理性の時代」の真実と美|1839年以前と以後のカメラ|写真、真実、そして絵画|写真を使う絵画、使わない絵画|スナップショットと動く映像|映画とスチル写真|終わりのない画像の歴史|

「ギャラリーゲーム ピカソと画商の戦略」  マイケル・C. フィッツジェラルド (著)
目次|1章 熊の皮―投機対象はアヴァン=ギャルド|2章 手を組めば無敵―キュビスムを超えて|3章 超シックな人たち―最強の提携者の出現|4章 永遠の若さの化身―シュルレアリストとピカソ|5章 嫉妬の森のあるじ―「神格化」への道|

「巨大アートビジネスの裏側 誰がムンクの「叫び」を96億円で落札したのか」 (文春新書)   石坂 泰章 (著)
目次|第1章 息詰まるムンク「叫び」の落札風景|第2章 名画を「身体検査」する―作品が出品されるまで|第3章 価格はどうやって決まるのか?|第4章 資産としてのアート|第5章 アートを買う|第6章 セレブとアートの華麗なる世界|第7章 グローバル化するアート産業|

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