特集:脚本の腕くらべ 「複数の話で構成された映画の面白さ」 17本!
2010年01月02日 公開

3話4話5話というように、同じ脚本家による複数の話を束ねて関連付けて、1本の作品にした映画って、独特の面白さがあります。
それぞれの話の脚本と、それらをひとつに束ねあげて語るストーリーの脚本と、その両方に注目。
個々の話にバリエーションの幅を持たせておいて、束ねあげて語るストーリーを豊かにするのも方法。
あるいは、個々の話のトーンをそろえることで映画全体が語るべきことを確定するというやり方もあるみたい。
さらには、普通にひとつの話の映画なんだけど、各エピソードに力を入れたために、 「複数の話で構成された映画」に見える映画など、形態はさまざま。
果てには、小話のランダム連射の構成で、まるで抽象絵画を眺める様相の作品まで。
とにかく、幾つもの話を、そして、それぞれに登場した人物たちを、1本の映画にどう織り込ん行くかが、見どころです。
それと、監督が脚本も手がけた作品が、以下の17本のうち、10本あります。
やはり、こういった複数の話で構成される部類の作品は、監督自身が脚本を書くことによって成り立つ傾向があるのかもしれません。
★ ★ ★ ★

なかなかの映画。練りに練ったストーリー。喜劇仕立てのサスペンス。監督自らの脚本に脱帽。
ある夜、その男が帰宅した後の、たった数時間の間に起きた出来事です。
展開される幾つものエピソードは種明かしをすると実は、ひと繋がりの話。

脚本は、この話を幾つにも切り分け、時系列を無視して、寄木細工のように組み合わせて並べました。
よって映画の中ほどに出て来るやばいエピソードの続きが、実は、何気に観ていた映画冒頭の、あのシーンだったりするわけで、エッ!と驚く事になる。かつ、これが幾重にも‥。
つまり次々に思わぬ展開をし始めるように見えるのです。巧い!
そして、登場人物5人の真実が徐々に暴かれていきます。
ゆったりした空気が流れる、タイム・スパイラル・ムービー。喜々としてご覧ください。

ロサンゼルスに住む5人の女性についての、5つの話。
大人の女の愛の話です。淡々とした色合いの物憂げなストーリーが5つの話に通底しています、いい映画です。

それぞれの話の主人公とその登場人物は、医師とタロット占い師、銀行支店長とホームレスの女、息子と2人暮らしの女とサーカスの男、タロット占い師とそのパートナー、刑事と全盲の妹。
話はそれぞれ独立していますが、登場人物にわずかな関係性があって、話に余韻を持たせています。総じて大人の映画だな。

ある街が舞台となって群像劇が展開されます。
3つのストーリーが自然な接点を介して互いに作用しあい、どこにでもある『普通の街が内包する多面性』を、無理なく引き出しています。

また、3つの話を語ることで、その地域のリアリティが一点ではなく面として感じ取れる。だから、身近な話と感じとれます。
原作の短編小説3作を一本の映画に仕立てたらしいが、それが功を奏したと言えます。
一見、暗そうな社会派ドラマにみえますが、至って明るくあっさりした感触。ラストはあたたかく、涙かも‥。

監督・原案:ポール・ハギス|脚本:ポール・ハギス、ボビー・モレスコ
白人と黒人の二項対立だけでなく、アメリカの様々な人種間のギクシャクを群像劇で観せる映画。
ストーリーは、数多くのエピソードがパッチワークされ、それぞれに関連を持たせています。

そこには、拳銃による殺人が3件、交通事故が3件、ハッピーエンドが2件、盛り込まれています。
貧富による分断、車社会、銃社会のアメリカも映し出します。
2時間足らずのこの映画で、いわばアメリカの縮図を観せようとするのだから大変。話は複雑を極めますが、とても巧くまとめています。そしてメッセージは細部に宿っています!!

いい映画だ。
新宿歌舞伎町のラブホテルを舞台に、ホテルに来るさまざまな人々が、それぞれに抱く夢と、背負う問題を活写するグランド・ホテル形式の映画。

荒井晴彦の脚本が素晴らしい。これを一字一句たがわずに映画に仕上げた廣木隆一監督がいいし、それを支えた俳優陣。とりわけホテルで働く主役の染谷将太と、客の女優イ・ウヌがいい。
映画は、七つのラブストーリーを描いている。そして、話の軸となる三組の男女に、二組のペアと五人の人々、合わせて15人が登場する。

映画は、題名「10話」が示す通り、10章から成り立っています。
主人公は、自家用車を運転する女性ドライバーで、彼女が全ての章に登場し運転し、主役を演じます。
他の登場人物は、この車の助手席に同乗する人々です。彼女の息子もそのひとり。

映画は、イランの首都テヘランに住む女性たちを登場させ、女性ならではの諸問題を、リアルに時にコミカルに描き出そうとする、素晴らしい作品です。
特徴は、ドキュメンタリー風な、さらりとした描写と、斬新な映像表現です。
特に、映画のすべてのシーンは、主人公が運転する自動車車内に限られ、かつ助手席に座る人との会話シーンだけで話は終始します。

監督・脚本:ダミアン・ジフロン|アルゼンチン・スペイン合作
ユーモアたっぷり、かつスパイスの利いたブラック風味の小話6つから成る、いい娯楽映画。
どれも監督自身の脚本で、どの話もハズレ無く、シャキッと締まった展開です。一気に観れます。

冒頭の1話から、驚きの展開で観客の心をつかむ趣向が憎いし(字数上、中は飛ばして)ラスト6話の「HAPPY WEDDING」は意外な展開。
6話を並べただけだが、全編にわたっての、この高揚感とスピードは他には無い!

短編5作からなる映画。こういう風合いのパッケージも悪くない。
とりわけ、第1章の松田美由紀と、第5章の市川実日子が光る。
みずみずしいい感性が、真っ直ぐに伝わってくる。

次に続くは、第2章の柄本明。彼の持ち味そのまんまですが。
加えて、以上の三人のナレーションも良い。原稿をただ、それっぽく読み上げるのではなく、自分のモノにしている。
ただ、第3章第4章は、どうにもいただけない。よって、まとまり感は無いな。

台湾の郊外を舞台に3組の男女がそれぞれに繰り広げる、おバカでハチャメチャなコメディ。
この三つの話は、初めは互いに無関係、しかし徐々に関係し合い、そして絡み合い、ラストで合体!
1話は、新築マンションに一番乗りで引っ越してきたのですが、もう、互いのこころが、すれ違い始めた新婚夫婦。

2話は、金持ちの一人娘は、若気の空しさから自殺したいくらいのヤケッパチで、娘の彼氏はチンピラ男というペア。
3話は、1話と同じマンションで同棲している男女、一緒になる願い叶わぬか、幾度も心中を試みるが、上手く行かない。
さあ、それぞれがどう交錯し、いかなる展開になるかは観てのお楽しみ。好きですね、こういう映画。

監督・脚本:ジム・ジャームッシュ|アメリカ
夜を走るタクシー、その運転手と乗客の話。
ロサンゼルス、ニューヨーク、パリ、ローマ、ヘルシンキ、この5つの都市での5つの小話。

独立した5話をまとめるのは、闇の奥から聴こえて来る様な、トム・ウェイツ歌う邪悪なテーマソング、これであなたはジム・ジャームッシュ監督の魔法にかかってしまう。
5話それぞれの運転手と乗客の掛け合いが、奇妙奇天烈であったかくて、エバーグリーンな、いい映画です。

監督:スティーヴン・ソダーバーグ|脚本:コールマン・ハフ|アメリカ
ハリウッドの業界裏話。超人気映画プロデューサーと、その周辺の人々による群像劇。
各シーンは次から次へと立ち現れアップテンポに展開し、話はモザイク模様を呈します。
そして時間経過と共に、それぞれのシーンが、思わぬ関係を見せはじめ、同時に、それぞれの人々の生きざまが分かりだす頃、話は佳境へ。

ラスト近く、意外なハッピーエンドが待ち構えています。
情報量が多くややこしい群像劇をひも解くには、コツがいるかもしれません。
話のスピードについて行ければ‥、とても刺激的ないい映画。

肉親を殺された被害者とその加害者が、長い時間軸を伝って密接にからんで行くお話。
複数のエピソードが抱き合わされていて、ある一点で話は交差する。
話は次の九つの章に分散して語られる。(集中力が欠かせません)
第1章『夏空とオシッコ』 第2章『桜と雪だるま』

第3章『雨粒とRock』 第4章『船とチャリとセミのぬけ殻』
第5章『おち葉と人形』 第6章『クリスマス☆プレゼント』
第7章『空にいちばん近い町1 復讐』
第8章『空にいちばん近い町2 復讐の復讐は何?』
第9章『ヘヴンズ ストーリー』
意気込みは買いますが‥、でもまた観たい映画です。

監督・脚本:ピーター・ボグダノヴィッチ|アメリカ
いやぁ、楽しい喜劇映画です。いいです、笑えます。
これは、脚本の勝利! 手練れの技。
他人に言えない「秘密」がバレたら・・。登場人物それぞれが持つ秘密が、知り合いの繋がりの中で、思わぬ所から、次々にあからさまになって行きます。

観客はたぶん、ドミノ倒しを見るような快感と、スピーディな話の展開を楽しめます。
気分を変えたい時、明るくなりたい時、娯楽にどうぞ。

監督:スパイク・ジョーンズ|脚本:チャーリー・カウフマン|アメリカ
いい喜劇映画だが、なかなか難しい。
しっかり観てないと、どうなってんだか分からなくなる。
そんな意地悪な仕掛けの映画だが、実に面白い!!

この映画、3つのエピソードが絡み合いながら、時間軸を前後して徐々に語られるが、観る者の集中力が、どこで途絶えるかによって、感想が分かれる。
とにもかくにも、映像と脚本が異様に輝いています。

「天使か、悪魔か。おしかけヘルパー VS ジイちゃんズ」てのが、宣伝文句。
話は五話あって、主人公のヘルパー、安藤サクラは、この五話それぞれで、さまざまな老人たちに巡り会います。

その老人たちは一癖二癖もある人々、これをなかなかの俳優たちが演じます。
監督は、安藤サクラの姉さんで、本作で作家デビュー。難しい作に挑戦しています。

オハイオ州クリーブランドの街を舞台に、5人のそれぞれの転機を5話で描きます。
静かな映画。ビターな美味しさが分かる大人の映画。
こういう風合いの映画って、なかなか無いんだな。

こころにゆとりがある時、観てください。
製作総指揮はヴィム・ヴェンダース。
この特集に該当する映画、まだあると思います。
今後、気が向けば追加していきます。
【 一夜一話の歩き方 】
下記、タップしてお読みください。
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