特集:女性監督ならではの、キラリと光る作品を味わう。 一挙、19作品!
2010年01月02日 公開

女性監督による「いい映画」を集めてみました。
どの作品も、繊細な心の動きを、とても上手く表現しています。
こうして並べてみて、気づくことは、これら監督が脚本も書いていること。(これは偶然じゃない)
それと、日本の女性監督作品にいいものが少ない。がんばれ!
アリスの出発 フランス|監督・脚本:レティシア・マッソン|

10ページくらいの短編小説をもとに、サクッと映画化した感じ。
その手際よさが憎い。
女性監督らしさがうまく出た作品。肩肘張らない。
ハッピーエンドです。お気軽にどうぞ。
落ち込むアリスがひとり、モロッコ人たちの集まるバーで、
アラビックな音楽をバックにひとり、ゆるゆる舞うシーンが凄くいいね!!

アンジェラ / Angela アメリカ|監督・脚本:レベッカ・ミラー|

アンジェラと、その妹エリーが主人公。
姉妹の両親は、かつてはミュージシャン。母親メイは、マリリン・モンローに似ていて、それが売りのバンドだった。
だが、その後、彼女は精神的に病みだした。そしてついに、精神病院に入院。
そんな中、姉妹ふたりは、「ふたりだけの世界」に逃避して、救いを求め、さ迷う。
ほんとうに、無垢なこころの姉妹のお話です。

無花果の顔 監督・脚本・主演:桃井かおり|

今までにないタイプの喜劇映画です。
いくつものエピソードが絡みます。
それと、お伽噺の要素を持ち合わせていて、ちょっとシュールです。
音楽はいいセンス。

カケラ 監督・脚本:安藤モモ子(安藤桃子)|出演:満島ひかり|

その喪失感。
欠けて行った、あっちがカケラ。こっちは私。カケラと私。
目の前にいる彼では、こころのどこかが満たされない、北川はる。(満島ひかり)
自分に無いものを、相手が持っていて、満たしてくれる、そんな相手は・・・。
他人の肉体のカケラを作る仕事、坂田リコ(中村映里子)の職場。
リコは、はるの「欠けた」ものを与えようとする。

記憶が私を見る 中国|監督・脚本:ソン・ファン|製作:ジャ・ジャンクー|

観る者の感性を試される映画かもしれない。
主人公や登場する親や兄ら身内に、なんの事件も起きない。なんでもないごく日常的な生活の日々が流れるだけ。
しかし、その何んでもない日常の奥にひっそりたたずむ、精神の有り様、感情の細やかさみたいなものを、僅かなセリフで静かに描いて、映画になっているから凄い。
映画に現れるのは、敢えて言えば、親子の絆、人生、老い支度、そして主人公ファンが人生をやり直したいと思う悲しい気持ち。 だが、映画が描いていることは、これだけじゃない。
製作はジャ・ジャンクー。

キャラメル レバノン|監督・脚本・主演:ナディーン・ラバキー|

たくさんの女が登場する。女でムンムンしそうだが、さらりとした描写。女性監督の映画だ。
ベイルートにあるヘアエステサロン。この店の女性オーナーが主人公ラヤール、30歳独身。
演ずるは、この映画の監督、ナディーン・ラバキー。その美貌と、俳優としての堂々たる存在感は大したものだ。圧巻。
そしてこの映画にスパイスな味付けをするのが「キャラメル」。ムダ毛処理に使う。柔らかく熱いキャラメルを皮膚に塗りつけてムダ毛と一緒にギャッと剥がす!
エピソードが並行していくつも語られていきます。

グッド・ハーブ メキシコ|監督・脚本:マリア・ノバロ|

女性が監督した、こまやかな情感が素晴らしい。美しい映像が目を引きます。
ダリアの母親は長年ハーブを研究し、インディオが古代から伝承する医療治療法を習得して来たが、最近、母の認知症が進む。
母の周囲には、孫、お手伝いさんなど、思いをひとつにする人々がいる。いることのやさしさ。しかし、当事者ダリアは・・・・。
人はいつも後になって気づく。母親に聞いておくべきことが、たくさんあったことを。
この映画はマリア・ノバロ監督自身の体験をもとにしているらしい。ディティールがしっかりしている。
重い感じの映画じゃないです。

恋物語 韓国|監督・脚本:イ・ヒョンジュ|

原題「Our Love Story」とは、女性同士のLove Story。
だから不快に思う向きは、この時点で脱落してしまうが、とてもうまく描けているLove Storyです。
女性監督ならではの、心のこもった きめ細やかな描写。しかも、監督の長編第1作なのだから驚く。
ユンジュと言う名の美大生と、ジスという女性とが、ソウルの街で出会い、恋をする。
ユンジュにとって、これは初恋であり同時に初めての女性との関係であった。かつ、愛することの喜びを初めて知るのですが‥。

さくらん 監督:蜷川実花|脚本:タナダユキ|

江戸時代や時代劇や遊郭モノが好きな人は敬遠するかもしれないけれど、たまにはこういう映画もそれなりに悪くない。

桃さんのしあわせ 中国|監督:アン・ホイ|

主人公・桃(タオ)さんは、ベテランの家政婦さん。
彼女はロジャーのアパートに住込みで、彼の生活一切の面倒をみている。ロジャーと桃さんは以心伝心、何も言わずに、お互いの心と心が通じ合う、母子のよう。
それもそのはず、桃さんは、ロジャーが赤ん坊のころオムツを取り替えて以来、ずっと続いている間柄。
そもそも桃さんは、ロジャーの両親・兄妹などロジャーの一家の家政婦さんだったが、ロジャー以外はみな、香港を離れ外国に移住して行った。残ったロジャーは、有名な映画監督で香港と中国を行き来しながら、映画プロデュースの毎日だ。

妻の愛、娘の時(相愛相親) 中国|監督・脚本・主演:シルヴィア・チャン|

喜劇的な場面があり、映画館では女性観客の間から、時折クスクス笑いが聞こえました。
この映画、シーンの切り返しに独特のリズムがあって、これが心地良い印象を与えています。
中年の主人公が母親の遺骨を、父親が眠る故郷の墓に埋葬しようとするが、故郷に住む父親の先妻に断固反対される話なのですが‥。

扉の少女 韓国|監督・脚本:チョン・ジュリ|

訳あって、ソウル市内から韓国南端の小さな港町に、署長の肩書で赴任して来た警察官ヨンナム(ペ・ドゥナ)。
年上の警官が数人いる小さな署。町は過疎化高齢化が進んだ保守的な風土。さして大きな事件はない。
話は、彼女がこの町に来たことで問題が起こり、事件へと発展します。

夏をゆく人々 イタリア|監督・脚本:アリーチェ・ロルヴァケル|

湖周辺の広々とした草原、ここで一家7人は養蜂で生計を立てている。
でも、男手は父さんだけで、母さんとその子4人姉妹と居候のおばさんの、女6人の家。
そのうえ、長女ジェルソミーナの下の娘たちは、まだ幼い。
父さんは女手しかいないことで、いつもイライラしている。(そして家族に対して、しょっちゅうワンマンなふるまい)
そんな父親をみて、ジェルソミーナは懸命に養蜂の仕事をこなしている。口にこそ出さないが、父親も長女のそんな様子を力強く思っている。
そしてある日、無口な少年が少年院からこの家にやって来た‥。

犯罪「幸運」 ドイツ|監督・脚本:ドリス・デリエ|

民族紛争が始まっていた。
家に帰ってイリーナが見たものは、射殺され床に転がった両親の姿であった。 と、その瞬間、後ろから現れた数人の兵士たちによって、イリーナは羽交い絞めにされ、レイプされてしまった。
我に返ったイリーナは、すぐそばの湖へ走った。そして入水を試みたが、死ねなかった。
間もなく、彼女は村を出た。
ベルリン。生まれて初めての大都会。ビザなし、不法入国のイリーナは娼婦にしかなれなかった。
そんなある日、イリーナは黒いラブラドールを連れたホームレス青年に出会う。名をカッレと言った。
彼は、道行く人々に小銭をせびる日々。ビール臭い飲んだくれで、犬と路上生活。
そんな彼にイリーナは安い赤の毛布をあげた。彼はすなおに喜び、おどけてみせる。二人の愛が始まった。

百万円と苦虫女 監督・脚本:タナダユキ|主演:蒼井優|

ぼんやりとバイトの日々を送る彼女は、繊細なだけに今後の目標も自信もない。ただ漠とした疎外感、取り残され感を持つに至る。
鈴子は家を出たかった。ルームシェアの話が舞いこみ、渡りに船で転居するが、シェア相手とのいざこざから、鈴子は器物破損で訴えられ、罰金が払えず東京拘置所に留置されてしまう。
世の中、一寸先は闇だ。世間から前科者扱い、家族は彼女を守ってやれない。でも出所して「娑婆ダバダ、シャバダバダ、パ~ダバ」って、鈴子、スキャット口ずさめば、さらりと流せる・・・。
家に居づらい鈴子。とにかく百万円貯めて、家を出るんだ。
貯金通帳に印字された金額をながめると落ち着く。頼るものが何もない中で、具体的な数字が安心をくれる。がむしゃらに働いた。そして、ついに貯まった1,000,000円。

フィッシュ・タンク イギリス|監督・脚本:アンドレア・アーノルド|

映像はカラーコーディネートされていて気持ち良い。
ストーリーはさらりとしていて、後でジンワリ系。
主人公ミア15歳は、若い母と妹の三人暮らし。郊外のアパートに住んでいる。
郊外と言ってもローカルな駅があるだけの田舎だ。周辺は雑草が生える荒涼とした空き地が多い。空と風が寂しい。
ミアはダンスが得意。アパートにある空き室に入り込む。ここがミアの秘密のレッスンスタジオ。ひとり、ヒップホップやソウルで踊る練習をしている。ミアにとって一番充実した時間だ。
ミアは窓から外をぼんやり眺めることが多い。こんな詰まらないところで、いつまでもツッパッていてもしようがない。自分の、この先を探している。

マーサの幸せレシピ ドイツ|監督・脚本:サンドラ・ネットルベック|

なかでも、この映画は素直な作品で、完成度も高い、いい映画です。ラブストーリーです。
映画の舞台は、ドイツの街にある高級フランス料理店。
主人公のマーサは、この店の有名シェフ。抜群の才能あって、美しいひと。
店のオーナーも常連客誰もが認める、彼女あってのレストラン。
さて、どんなお話が展開しますやら‥、観てのお楽しみ!

マチルド、翼を広げ フランス|監督・脚本:ノエミ・ルヴォウスキー|

監督は、主人公の少女マチルドの母親役もこなしている。
パリに住むマチルドは母親と二人暮らしだ。
母親には、精神障害がある。(娘を身ごもった頃に発病したようだ)
ふらっと街に出た彼女は、時々一人で奇行を繰り返すが、そのたびに、帰宅後ベッドで自身の障害に嘆き悲しむのである。
こんな母親を、なんの偏見もなく温かく見守るのが娘のマチルド。
時に友達の様に、時に親のような大きな愛で、母親を包むマチルドであった。
そしてもうひとり、遠くからではあるが母親を見守る男がいた。
離婚しているが、マチルドの父(マチュー・アマルリック)である。

理髪店の娘 マレーシア|監督:シャーロット・リム|

小さな美容院を営む母と、一人娘フェイ、二人暮らしだ。
フェイは、母親のずいぶん若い時の子だろう、親子に大きな歳の差がない。
母親に、また彼氏ができた。
母は若い格好して、いそいそと出かけていく。相手はだいぶ年下らしい。近所で噂は広まっている。彼氏は酒を呑むと人格変わって暴力をふるうらしい。デートして怪我して帰ってくる。
それでも母の愛は冷えないでいる。
フェイは初潮を迎えている。
二階の寝室で、窓を開け放ち、板の間に伏せっている。静かな街。陽射しが透明だ。
孤独な者同士の親子。
互いに、言い争いはするものの、寄り添って生きてきた。
何があっても、これからも寄り添って生きていきたい。そう思う。口に出さない、ふたりの本音。
ふたりでひとつ。どちらかが、欠けると成り立たない。
映像は実に繊細で細やかだが、その芯はキリリとしている。

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