映画「才女気質」(さいじょかたぎ) 監督:中平康

上
左から、母親の登代(轟夕起子)、次男の令吉(長門裕之)、妹の宏子(中原早苗)、父親の市松(大坂志郎)
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 主人公、登代(轟夕起子)をさして、映画は「才女気質(かたぎ)」と呼んでいるのですが、勝ち気で親分的判断力があり、ただし性格が細かい登代が、おっとり「肝っ玉かあさん気質」じゃないがゆえに、周囲の人々の様子が喜劇になるのであります。テンポのよい、しっかりした脚本の味が楽しめます。

 時は昭和30年半ば、話は、京都・高瀬川沿いの古い町屋(商家)に住む家族の話です。松江堂という名で表具店を営んでいます。(下記地図)
 
 この家の家族は、こんな人々なのです。(京都の市井の人々の様子を垣間見れます)
 主人の市松は、障子やふすま、掛軸の仕立てや修理をする表具師で、弟子一人を住み込みで雇っています。ぼんやりなところはありますが腕は鴨川筋で一番(という妻のセリフがある)。彼の楽しみはイノダのコーヒ(喫茶店)へ行くこと。(大のコーヒー好きなのです)
12_20190715090539a99.png 妻の登代は、専業主婦です。彼女の振る舞いが、本作の柱になっています。夫を尻に敷き、子供たちや彼女の弟妹、親せき、住み込みの弟子にまで細かい小言を面と向かって言い、その皆を統率します。皆は彼女を頭の回転が速い先を読む(口うるさい)女と言いますが、登代は夫市松の母つねにはかないません。一方で市松の母親は登代には一目置いています。(登代言うに、あの母親に、市松みたいなボンヤリが生まれたのが不思議)
 次に子たちですが‥
 次男の令吉は、無職でフラフラしてましたが、麻雀仲間からその人が勤めていた放送局テレビ大阪のスタッフの職を10万円で譲り受けて、就職できました。(彼が物語の引き金を引く役柄です)
 妹の宏子は、京都のデパートの食品売り場で働いていますが‥。(彼女も物語の引き金を引く役柄です)
 長男の尚男は‥、残念なことにシベリアで戦死しました。兄妹3人中一番頭がよく、京都一中(旧制中学)から医大(京都府立医科大学)を卒業しましたが戦死。(医大は京大医学部より格上でした)
 ちなみに、‥‥
 家の奥庭にある離れには、スミというばあさんが15年間、間借りして独り住まいしています。昔、未熟な市松を仕込んだ表具師の師匠の奥さんです。スミは中国へ出征した一人息子の一夫の帰りを17年間経った今も、ひとり待っているのです。
 市松の母さんつねは、高齢ながら祇園で芸妓置屋をひとりで営んでいる。利にさとく、渋ちんです。
3_2019071320572283c.png 登代の弟の成次(殿山泰司)は近所で婦人物洋品の小さな店を開いていて、同じく登代の妹の辰江(渡辺美佐子)は独身で、やはり近所で「高瀬舟」という飲み屋をやっています。だいぶ惚れっぽい女です。

 さて、この映画のみどころは、以上のように登場人物の背景がしっかり設定されていて、それぞれの生きざまが明快に見えてくるところです。ですから、彼ら登場人物を見ているだけで、昭和の京都の高瀬川沿いあたりにいる気分が味わえます。

2_20190713205015478.jpg さあ、映画に戻りましょう。
 これから彼らに起こりますことは、まるでボーリングのボールが、ピンをなぎ倒すように、3つの事が次々に登場人物の身の上に起こり、てんやわんやの大騒動喜劇になるのです。結果は、まさにストライクでした!
 そのひとつは令吉の結婚、二つめはスミばあさんの一人息子一夫の突然の帰国、三つめは‥この一夫と宏子に生まれた愛そして結婚でした。
 このどれもが才女気質の登代の意に沿わず、怒らせ悩ませます。

1_201907132011579a6.jpg 令吉は、西陣の織元の老舗・織常という店の娘・久子(吉行和子)と見合いをするのですが‥、見合いを用意した登代は知りませんでしたが‥実は令吉・久子はすでに恋愛中で、かつ久子は宏子と親友でしたから、即結婚が決まります。(平安神宮で挙式)
 そこで登代は息子夫婦を住まわせるには、間借りのスミばあさんに出て行ってもらおうと行動を起こそうとします。(もちろん、市松は、そんな無茶なぁ~と大反対)

4_20190713210217465.jpg そんな時に、スミの息子一夫が突然帰国し家に現れます。ならばと登代は、妹の辰江の店「高瀬舟」の二階を、この母子にあてがいました。一夫は美男子です。辰江はニッコリ‥過ぎて階段から落ちてしまいます。

 一方無事に、家の離れに新居を構えた令吉久子夫婦。登代は久子に家事を教えるのですが、何といっても老舗の娘ですから、からっきし駄目。姑との同居でストレスが溜まる久子は実家に逃げ帰る。さて、これをどうしたものかと、登代は思い切って久子の実家の店先まで出向くのですが‥。これを二階からこっそり見ていたのが久子と令吉でした。

 はたまたそんななか、宏子は勤めのデパートを辞めたことを家に隠して、「高瀬舟」の二階の一夫に頻繁に会いに行きます。(二人は幼なじみ)そしてある日突然に、このふたりは登代市松の前で結婚宣言。怒る登代、喜ぶ市松。
 さてさて映画は戦死した長男、尚男の七回忌。これがクライマックスです。
 登代が七回忌の席に呼んでいない、令吉久子夫婦と宏子一夫が現れます。あとは観てのお楽しみ。

15_201907160841079f0.png 総じていうと、登代は「才女気質」と言われ一見、現代的な女に見えますが、実は戦前までの男尊女卑の風潮を引き継いでいて、昔の女の役割を貫こうとします。しかし、時は昭和の30年半ば、日本が大きく変わろうとする時代。
 令吉久子夫婦や宏子一夫に、時代の変化を気づかされた登代は、ラストシーンで今までの彼女から脱皮します。(この辺りの登代の変化の描写がいささか手薄でありますが)
 気になるのは、この映画の宣伝は、主役の登代が脇役扱いであること。2組の若い男女を前面に打ち出したかったのでしょうが。
 ちなみに、登代が宏子と一夫が一緒になるのを嫌ったのは、中国から帰還した一夫が中国共産党党員になっていると思っていたからでした。
 最後に、登代の弟の成次役、殿山泰司がいい味出しています。
 それと、昭和の京都を知る方は、映画に出てくる街並みや店、京阪電車のシーンが嬉しいでしょう。
下
宏子と久子(家の前で)  宏子の親友久子が、義理の姉になったのです。
表具屋のこの家は、いくつかの映像から読み取ると、高瀬川に架かる高辻橋の南、清水町(町内を南北に貫く細い道・西木屋町通の東側)にある設定です。(地図中の「清水町」の表示の右に記した赤丸が所在地。地図をタッチすると拡大します
ただし実際は、すぐ裏が高瀬川ですから、物語に出てくる鰻の寝床の家は建てられない。家だけは別な場所のロケなのでしょう。
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監督:中平康|1959年|87分|
原作(戯曲):田口竹男|脚色:新藤兼人|撮影:山崎善弘|
出演:轟夕起子(登代)|大坂志郎(市松)|長門裕之(令吉)|中原早苗(宏子)|吉行和子(久子)|葉山良二(一夫)|原ひさ子(スミ)|殿山泰司(成次)|新井麗子(まき)|渡辺美佐子(辰江)|吉川満子(つね)|ほか


しっとり京の街並み、その匂い。
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Posted byやまなか