映画「東京おにぎり娘」 主演:若尾文子  監督:田中重雄

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 銀座のお隣、新橋の駅前、烏森の商店街をちょっと入ったあたりに、テーラー直江がある。
 この店はここで30年営む、戦前からの紳士服の仕立て屋で、昔は偉いお方の注文が多かった。
 この映画は、そのあるじで、自称大阪生まれの江戸っ子、直江鶴吉(中村鴈治郎)、そのひとり娘まり子(若尾文子)の父子のお話。

 時は昭和36年ごろ、頑固で昔気質で職人気質の鶴吉の店は、いまや閑古鳥が鳴く。
 一方、そろそろ嫁に行く年ごろのまり子は、叔母から縁談話がしきり。それを軽く受け流して来たある日、幼なじみの「五郎ちゃん(川口浩)はどう?」と言われる。「五郎ちゃんもまんざらじゃないらしい」とも言う。「そう言われても‥」と、はにかむ まり子。
 さらには別の日、叔母は兄の鶴吉にこの縁談話をし、鶴吉はそれはいいとその場で二つ返事、了解を得た。(いい根回し)

1 (2) しかし実はこれ、叔母と五郎の母との はかりごとだった。そうとは知らず、まり子はこんな話があるのと言って五郎と二人だけで会うが、互いに笑い合うだけで、その場は終わった。しかし、五郎には好きな女性がいるのでした。

 二人が会った店は当時流行りのおにぎり屋で商売繁盛していた。これに刺激を受けたまり子は、テーラー直江をおにぎり屋にすることを思い立つ。もちろん、父の猛反対を受けるが、開店にこぎつけた。

 さて、開店に至るまでには、3つの話がありました。
 ひとつは、まり子が結婚しそうなことになって、父・娘その弟の3人だけの家族を抱えてきた鶴吉は、ここへ来て、もうろくを実感し出したこと。(強気な鶴吉がこんな弱音を吐ける相手は、近所で雀荘をやってる、元芸者で昔馴染みの女(藤間紫)であった)

 二つめは、テーラー直江には大きな借金があったこと。これがまり子を商売に駆り立てた。そして、テーラー直江の元・仕立て職人村田幸吉(川崎敬三)から、まり子はまとまった金を借りれたこと。村田は既製服の会社を立ち上げうまく行っている。彼は世話になった鶴吉に恩返しをしたかったのです。ただし内緒でした。なぜなら、その昔、村田は鶴吉の怒りを買い追い出された身でした。

 三つめは、鶴吉の腹違いの娘が現れたこと。鶴吉の商売はかつて金を稼いでいました。そんなことで芸者遊びから、一人の女に産ませた子でした。ところがこの娘が五郎の恋人なのでした。事の次第を鶴吉は五郎に話しましたし、鶴吉はまり子にその娘(まり子の妹)を紹介します。大失恋と破談とで、まり子は大いに悲しみました。

 ですが、結果的には、鶴吉が解雇した村田から、まり子が無断で金を借りたことの鶴吉の怒りは、自身の過去の弱みの発覚で、帳消しになったようで、収まるところに収まりました。

 さて、ここに至って、鶴吉はまり子と五郎の縁談話破談が自身のせいだと思い悩みます。
 しかし、どうやら、まり子は白馬の騎士、村田幸吉と、うまくいきそうな気配です。(終わり)

 しっかりした脚本と中村鴈治郎のうまい渋い演技が柱になっています。あの頃の新橋、人々はこんなでしたという映画でもありました。


監督:田中重雄|1961年|91分|
脚本:長瀬喜伴 、 高岡尚平|撮影:高橋通夫|
出演:直江まり子(若尾文子)|父鶴吉(中村鴈治郎)|弟太郎(瀬川雅人)|まり子の幼馴染み白井五郎(川口浩)|テーラー直江の元・仕立て職人村田幸吉(川崎敬三)|鶴吉の娘、五郎の恋人みどり(叶順子)|まり子の幼馴染みでちょっとやさぐれの三平(ジェリー藤尾)・・・おにぎり屋を手伝う|まり子の叔母かめ(沢村貞子)|鶴吉馴染みの雀荘女将はま(藤間紫)|五郎の母親梅子(村田知栄子)|テーラー直江を売れと来店した不動産屋(八波むと志)|ほか多数

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