映画「宇宙飛行士の医者」 監督:アレクセイ・ゲルマン・ジュニア

上
医師ダニエル。辺境の地の基地にて。あたりは見渡す限り一面、ぬかるむ荒涼たる大地だ。


 いい映画ですね。
 1961年、人類初の有人衛星、ソビエト連邦の宇宙船が、飛行士1名を乗せ地球一周に成功する。これに至るまでの物語です。
 ただしこの映画は、科学技術の進歩や未知への挑戦、あるいは飛行士の選ばれし使命感を、うたい上げるものではありません。また、ロケット全様も発射台などの基地建屋も、人類初の宇宙飛行士ガガーリンの名さえ出てこない等、ソビエト連邦の歴史的成果を誇らしく顧みる作品でもない。
 むしろ、その逆。華々しい成果の裏側を描きます。国家的な宇宙飛行プロジェクトの成果を急ぐあまりの人命軽視、その渦中にいて懐疑的になる人々の弱さに注目し優しく寄り添います。

 さて、この映画の見どころは、アレクセイ・ゲルマン・ジュニア監督の父親である故アレクセイ・ゲルマン監督の血筋を引き継ぐ、魅力的な作風にあります。
 例えばそれはカメラの前での、一人の俳優と、周りにいる数人の俳優との会話シーン。その会話はほぼ意味無い短い台詞で、断片的で一時的で刹那的で、かつ、お道化た滑稽さを交えるリズム感がある。
 たぶん、父親の「フルスタリョフ、車を!」が好みの人にはたまらない。ただし、本作「宇宙飛行士の医者」は、それよりずっとライトな作風で、もちろん、もっと現代的な描写の作品です。

あ 話は、カザフスタンの辺境の地にある極秘の基地から始まります。カザフスタンが、カザフ・ソビエト社会主義共和国だった1961年のこと。
 モスクワに住む主人公のダニエルは有人衛星プロジェクトの一員で、カザフスタンに赴き、最先端医療の医者として、宇宙飛行士たちの訓練に関わり、重大な任務を担う男。最終的に、この中のひとりがロケットに搭乗する。その人選にもダニエルは関わっている。

い しかし、これまでの宇宙飛行実験ではさまざまな事故があり、技術的には完ぺきではない。直近の飛行実験(人体模型搭載)でも、大気圏再突入後の着地時、再突入用カプセルのパラシュートが開かなかった。
 使命感と恐怖との板挟みに苛まれる宇宙飛行士たち。そんな彼らに寄り添う誠実なダニエルは苦悩する。アメリカと競い合うソビエトの国家プロジェクトとは言え、心では事故死の可能性が大であると悲観しながらも、日々彼らを励ますのです。
う 物語は発射当日までのダニエルや宇宙飛行士たちの、心の有り様を描いていくのですが、週を追うごとに、当のダニエルの精神が病み始めます。そして、その当日、‥‥。

 映画は主に、ダニエルの変調を注視しますが、話の進捗はゆっくりで穏やかに包み込む表現です。
 また、3人の女性関係もエピソードとして加え、一方でダニエルの友人たちの話やダニエルの亡き両親との幻想シーンなども加えてドラマを豊かにしています。
 その3人の女性たちとは。モスクワ在住の妻ニーナ、美人で聡明な医師。ダニエルの苦悩を癒すカザフスタンの若い女性ヴェラ。さらには、ダニエルに思いを寄せるカザフスタンの基地スタッフの女性です。
 
 この映画の予告編は見つけられなかったのですが、下記はシーンを寄せ集めた映像です。作風は味わえると思います。
予告編 決め
https://www.dailymotion.com/video/x247ie3/

え
妻ニーナ
お
カザフスタンの若い女性ヴェラ
か
基地の周辺で自転車に乗るダニエル

1961年4月12日 - 人類初の有人衛星、ソビエト連邦宇宙船ボストーク1号が、ユーリイ・ガガーリン飛行士を乗せ地球一周に成功。
1961年5月5日 - アラン・シェパードを乗せた宇宙船マーキュリー・レッドストーン3号が打ち上げられる(アメリカ合衆国初の有人宇宙飛行)。

オリジナルタイトル:Бумажный солдат / Paper Soldier / Bumazhnyy Soldat
監督:アレクセイ・ゲルマン・ジュニア|ロシア|2008年|118分|
脚本:アレクセイ・ゲルマン・ジュニア、ウラジミール・アルコーシャ、ユリア・ギレゾロヴァ
撮影:マクシム・ドロゾフ、アリシャー・カミドコジャエフ
出演:ダニエル(メラーブ・ニニッゼ)|ニーナ(チュルパン・ハマートヴァ)|ヴェラ(アナスタシア・シェベレワ)|ほか

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やまなか
Posted byやまなか