映画「蜜月」 ATG映画 監督:橋浦方人
2020年04月01日 公開
哲明とみつ子のラブストーリー。
哲明は地方出身の早大生。
築地市場や、新宿西口高層ビルの建設現場で働き、学費生活費を得ている。
哲明の同期はもう社会に出てサラリーマン。だが、彼は小説家志望。早稲田文芸の編集室に出入りし作品を読んでもらっている。また、舞踏劇団の団員にもなりたくて稽古場へ通っている。
一方、みつ子は、閑静な住宅街に建つ、風格ある大邸宅で育ったお嬢さん。(一人娘かもしれない)
出会いは、編集室。
みつ子は事務員として、ここに勤めている。
初めは、哲明の一目ぼれ。
その時、みつ子の方は親の薦めの縁談中、いわゆるいい縁談が進行中、結婚するらしい。
だが、みつ子はこの相手に不満を抱き始める。
世間の言う「良い相手」を絵に書いたような、そして常識の型にハマったような男だからだ。
そういう思いのみつ子が、道を外れて生きる哲明に惹かれ始める。デートを重ねた。
そんな折、ふたりの交際を知る編集室の女性編集長から、「哲明の小説はダメね才能無い」と、みつ子は聞かされたが、「いい人なのよ」。
しかし、みつ子が哲明の様子を知り始めると、今度は、あなたは怖い危険すぎる、と気持ちが揺れ始める。「私は所詮 普通の女なのよ」と。
それでも、ある日、みつ子は母親に小説家志望の哲明のことを打ち明けた。母はおとうさんと相談してみると言う。こんな家庭内混乱が進む中、みつ子は縁談の断りを母親に申し出た。母親言うに、自分を大切にしなさいよ。

哲明の妹が短大入学で上京してきたため、哲明はそれまで居た貸間を妹に譲り、みつ子と同棲する部屋を探した。
その部屋は、国鉄線路際で、哲明が住んでいた貸間よりずっとレベルが落ちる物件、荒れた部屋。だが、みつ子には部屋のことより、哲明と一緒の幸せの方が大きい。そして、おままごとのような日々が始まるのでした。蜜月。<終>
★ ★
映画は基本、哲明とみつ子のラブストーリーなのだが、みつ子に寄り添う世間的視点から見ると、上流育ちのみつ子の、落ちゆく青春物語。(ただし暗い演出にはしていない)

本作はこれらを哲明の姿に託しているのです。ここん所がこの映画の要です。
そして、こんな危なっかしい、哲明とみつ子の生き方に、ある種、共鳴できる観客がいた1984年。(だから映画にしたわけだが、でも、もう古い話になった)
ちなみに橋浦方人監督は、小説家の立松和平、舞踏家の麿赤兒(舞踏集団 大駱駝艦)、ジャズピアニスト山下洋輔の人脈をこの映画に生かしている。いや、このお三方がこの映画の基盤となっているといっていい。
例えば、立松和平と麿赤兒は1971年に自主制作として、山下洋輔トリオのLPレコードを発売していた。(早稲田大学構内でのコンサートライブ盤)。この事になぞらえて、この映画には哲明が前衛ジャズのLPを売って回っているシーンがある。
次いで付け加えるなら、映画の中で、立松和平はバスの乗客として出演している。また山下洋輔は、学園紛争当時、バリケード封鎖内に集まったヘルメット姿の学生たちが聴き入るコンサート風景(この部分は当時の記録映像)に演奏者として、そして舞踏劇&フリージャズ演奏公演の立ち見の客としてそれぞれ登場している。
麿赤兒による舞踏指導にも注目を。(築地市場の仲買いのオヤジ役もやっている)
ま、この辺の、暗黙の理解がないと、この映画は、ラブストーリーに舞踏劇やフリージャズのシーンを無理やりくっ付けたようで、よう分からんとなる。
このように作り手自身以外の、他から力を借りてくる姿勢や思い入れによる作品は、作品として長生き出来ないかな。(と思う)
監督:橋浦方人|1984年|113分|
原作・脚本:立松和平|撮影:中堀正夫|音楽・演奏:山下洋輔(p)+小山彰太(ds)、武田和命(ts)、林栄一(sax)(ただし舞踏劇&フリージャズ公演の演奏メンバーは別のグループ)|舞踏指導:麿赤兒|協力:舞踏集団 大駱駝艦|
出演:村上哲明(佐藤浩市)|星みつ子(中村久美)|みつ子の母(河内桃子)|哲明の父(財津一郎)|哲明の母(三田登喜子)|哲明の妹(川上麻衣子)|哲明の下宿のおばさん(楠トシエ)|仲買いの社長(麿赤兒)|その妻(白川和子)|作家の役で出演(福島泰樹‥‥僧侶、歌人、朗読家)|ほか多数

家出し駈け落ちし、親に同棲を隠していた みつ子は、やっと母親に連絡を取った。
母親は「哲明さんを電話に出して」とみつ子に言う。そして母親は哲明に、ぜひ家に来てほしいと言った。蜜月‥同棲して間もない幸せいっぱいの頃。

哲明はみつ子に、入団したい舞踏劇団のメンバーを紹介した。
しかし、みつ子は彼らの有様に思わず退いた。

舞踏劇団の公演が始まった。前衛的なフリージャズのバンド演奏をバックにする芝居だ。公演場所は、工場廃屋のような建物の二階。
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