映画「明日は咲こう花咲こう」 主演:吉永小百合 監督:江崎実生

上

山奥の村を舞台とする喜劇です。
吉永小百合が主演の映画だが、けっこう泥臭い。
その泥臭いドタバタの中で、唯一、清純な花を咲かせる吉永小百合、という作り。
村で起こる、様々なエピソードを巧みに織り込んだ力作。魅力ある作品です。

時は、昭和40年ごろ。
ひろ子(吉永小百合)は、保健婦。
まず、押さえておきたいのは、保健婦とは、です。(今の名称は保健師)
保健婦とは、病気の予防、健康増進など公衆衛生のために活動を行う地域看護の専門家。多くの勤務先は病院、保健所、企業ですが‥。


さて話の発端は、ひろ子が彼氏としゃべっていた話のなかで、
「都会育ちのひろ子が、僻地の村で保健婦するなんて、出来っこない、すぐに音を上げて東京へ戻ってくる」
「いや、そんなこと、絶対ないわよ!」
(僻地(小規模自治体)に派遣される保健師は現在でもいて、一人体制)
中1

てなことで勢い、ひろ子は長野県の山奥に単身赴任した。姫虎村という貧しい村。
中2赴任してすぐさま気付いたこと。それは村に井戸が無い。
それなので、小川の水を飲料水とし、同時に炊事や洗濯に使っているが、それぞれの用途に分けて、上流から下流の順に、洗い場が決められていない。これじゃ飲料水として衛生上、良くない、ひろ子はそう思った。(これがのちに赤痢発生の原因になった)

その上、村には新興宗教の信者が多く、疫病があっても何があっても、神様がお守りくださると信じている。科学、医学をまったく信用しない風潮。
高熱が出た子に母親は、病気退散を願う、有難いお札を食べさせる。この現場を見たひろ子は慌てた。

さらには、村民が二分していて、何かにつけ村民はゴタゴタ対立している。(ドタバタ風味です)
村長(花澤徳衛)の率いる観光派と、助役(金子信雄)が率いる合併派だ。
中4おまけに合併派には、新興宗教の教祖(伊藤雄之助)がいて、教祖は、隣村との合併が進めば、信者が増えると踏んでいる。
ので、助役と教祖はタッグを組み、多くの村人を味方につけ、観光派を排除しようとしているのだ。これを助役と教祖は、双方の思惑を実現するための「政治」だと言っている。

ひろ子が赴任したその日、観光派と合併派はそれぞれに、ひろ子が降りるバス停まで向かいを出す。
新任歓迎会も、競い合うように両派が催し、両派はひろ子を奪い合う有様。どちらも、保健婦を味方につけたいのだ。
しかしその夜、ひろ子は夜這い(未遂)にあう。それは合併派の助役であった。
こんな村だから、これまで単身赴任した新任の保健婦は、皆すぐ村を去って行ったのです。

だが、ひろ子は持ち前の気丈さで保健婦の使命を貫こうとする。それを支援する観光派。
よって合併派はひろ子の活動を阻止しようと嫌がらせをする。
子供を使って、道に細い綱を張って、自転車のひろ子を転倒させる。
貧しい村人の出産の日に、助産婦を呼ぶ金が無いので、ひろ子が呼ばれたことを指摘して、法律違反だと訴えを起こす。実際は、すんでの所で助産婦(武智豊子)が駆けつけてくれた。(保健師助産師看護師法)

中3(上)産児制限の村内講習会がまもなく始まる。緊張する講師のひろ子。
ただし役場のこの会場には、興味本位の村の男たちが大勢集まり、講師ひろ子が見せるだろうエッチなスライド映像を期待した。
これも合併派の策略であった。


さて、こんな修羅場のなか、さらに、事態は悪化する。
高熱、下痢の子供が運ばれて来て、赤痢が発覚する。村中、騒然。
そのうち、患者が増え出し、診療所に村人が押し寄せごった返す。
この時、教祖は人々に「赤痢じゃない、これは大腸カタルだ」と言い放った。教祖は疫病退散のご利益の効果、信者の信仰心維持、自身の宗教を守ろうとする。
さらには、忖度するイジケた村医者も「これは赤痢じゃない、大腸カタルだ」と、ひろ子に言う。
これを聞いて村人たちは、赤痢じゃないと一安心するも、子たちは高熱、下痢。
ここで、ひろ子は一計を案じた。ひろ子も「赤痢じゃない、大腸カタルだ」と言うことで村民の不安を抑え込み、治療がスムーズに進むと。

そんな騒ぎの中、やっと救急車やらの応援部隊が到着したのでした。(合併派は、赤痢発生の事実を隠蔽すべく、密かに電話線を切ったが、離村へ走り、事態を知らせた者がいたのです)
そして、村人たちの心は教祖から離れ始める。教祖の仮面が剥がれていくようでありました。


ちなみに、この作品は娯楽映画なので、この村出身のスター歌手・三田明(本人役)や、ひろ子の彼氏(中尾彬)が話に絡んで来ます。また、村の孤児が優しいひろ子に懐くというサブストーリーもついています。
最後に、この映画、観客を笑わせる類いの喜劇ではないですが、上質な喜劇です。ここが肝です!
喜劇を感じないと、こころ惹かれる映画にならないだろう。
また、公開当時、配給側は、吉永小百合と三田明の歌謡青春映画として宣伝したんでしょうが、作品紹介としては、的を外してます。これが、この映画の不幸であり、この映画の良さを見えにくいものにしているように思えます。

こちらは、映画の冒頭シーンです
予告編 決め
https://www.nikkatsu.com/movie/20876.html


中6ひろ子と彼氏の浜野新樹



中5 (2)監督:江崎実生|1965年|89分|
原作:由起しげ子|脚色:宮内婦貴子、山田信夫|撮影:姫田真佐久|
出演:小日山ひろ子=吉永小百合|スター歌手三田明=三田明|塩谷今朝雄=山内賢|卓美=頭師佳孝|ひろ子の学友・田中美代子=山本陽子|小川チエ=西尾三枝子|ひろ子の彼氏・浜野新樹=中尾彬|塩谷村長=花沢徳衛|大竹助産婦=武智豊子|尊道教・教祖=伊藤雄之助|藪本助役=金子信雄|有賀医師=垂水悟郎|ほか

<吉永小百合が出演の映画>
画像をタッチしてお進みください。
写真
1960
ガラスの中の少女
写真
1962
ひとりぼっちの二人だが
写真
1964
風と樹と空と
写真
1965
明日は咲こう花咲こう
写真
1966
愛と死の記録
写真
1984
天国の駅


【 一夜一話の歩き方 】
下記、クリックしてお読みください。

写真
写真
写真
写真
写真
関連記事
やまなか
Posted byやまなか