映画「雁」(1966) 主演:若尾文子  監督:池広一夫

上

東京の空を、雁(がん)が群れ飛んでいた時代、明治13年(1880)当時のお話です。

上野不忍池の端から坂道を上がって右側に、しんこ細工屋の娘、お玉(若尾文子)の家がある。とは言っても妾宅。
旦那は高利貸しの末造(小沢栄太郎)
大学の小使い(用務員)をして、教授や学生の使いっ走りで小銭を稼いできた男。
初めて妾を囲い、小ぶりながらも妾宅を用意し、男の甲斐性。足繁く通う。
中0

末造には、本妻・お常(山岡久乃)と二人の幼子がいるが、日々つまらない。
お玉を末造に薦めたのは、おさん(武智豊子)という 婆さんだった。
いい妾を紹介すれば‥、を条件に、末造への返済(借金)を棒引きに‥と、ささやく おさん。末造を相手に一枚上手の交渉成立。
かたや、お玉とその父親・善吉へは「末造は大きな呉服商の主なんだョ」という、おさん発案の嘘の触れ込み。さらには、妻に先立たれていると、これも嘘。
とにかく、借金をゼロにしたい婆さんの口車、悪知恵が働いた。
さてさて、おさんの思い通り、うまい具合に事が運び、さあ、見合いが始まる。父娘は終始うつむき だんまりだったが、応諾。
父親の稼業はしんこ細工の行商、2つの箱に商品を入れ天秤を担いで子供相手に売り歩くが、もう歳だ、息が上がり足元が危なかったのだ。
中1

中3
末造は、父親にも貸家を用意した。こざっぱりとした着物、安定した静かな日々が始まる。今さらもう、しんこ細工稼業へは戻れない。
時折、お玉が父親の家に来て、妾の辛さを訴えても、父親は‥。仕方ない、しょうがない。


中5ここから、お玉を揺さぶる話が2つ始まるのです。
ひとつは、岡田という学生のこと。(東大生だろう、妾宅は東大の裏側)
末造がお玉に買ってきた小鳥と鳥かご。これを通りに面した軒先に吊るしていたが、屋根から降りて来たヘビが小鳥を狙う。これを救ったのが、通りかかった岡田という学生。
淡い恋心が互いに芽生える、初めての恋‥。

もうひとつは、末造の妻・お常に、妾の存在と妾宅が見つかってしまったこと。
なぜバレたか、それは女の勘と一反の反物だった。
末造に金を借りた反物行商のおしげは、困窮し返す金が無くて、代わりに商品の反物を差し出した。気の毒に思った末造の妻・お常はそれを受取ろうとしたが、末造は返済は現金だと言って、おしげを追い返した。
その宙に浮いた反物を、末造がお玉にプレゼント(これがいけなかった)。お玉は早速これを仕立て、着て家の前にいたところを、お常に目撃された。お常は妾宅を探っていたのだ。
そのうえ、妾宅のお隣は反物行商のおしげの上客で、そこへ寄った際、おしげは、あの反物(を仕立て着たお玉)に出くわした。あの女が末造の妾か‥、いい身なり、ちくしょう!。高利貸しは嫌われる。高利貸しの妾も嫌われる。
それ以来、お玉は、お常とおしげの暗い影に怯えるようになった。
さあ、あとは映画を観てください。
★       ★
中2しんこ細工と、妾になる前のお玉
白米を臼で引いた粉(上新粉、製菓材料)を水でこねて甘みを加え蒸し、人形や動物や花の形に細工し絵付けした和菓子の一種。
お玉は妾になる前は、しんこ細工を手伝っていた。この時すでに、お玉は前夫と離婚していた。結婚したあとで、夫に妻がいたことが発覚したのだ。父親よ、周りの言う事を鵜呑みにしちゃいけないよ!

中4

この映画について二つ言いたい。
まず、カメラが気に入らない。若尾文子をうまく撮れていない。女優を撮る繊細さに欠けるのが残念。若尾文子主演「しとやかな獣」(1962年)も宗川信夫撮影で、良くなかった。

次に、森鴎外原作の、この「雁」は、豊田四郎監督、高峰秀子主演の作(1953年)が先にある。
豊田監督作は映像で機微を語るが、池広監督作では台詞で語ってしまう。分かりやすいが映画が平板になる。
それにしても、豊田監督作から13年経っての「雁」に工夫が無い。お玉、末造以外に、もう一人誰かにもスポットを当てて、新鮮味を加え、話に厚みを出すことも出来ただろうに。原作に忠実が良いのか悪いのか。
豊田監督、高峰秀子主演の「雁」はこちらから、どうぞ。
もうひとつの雁
あと、ついでに言うと、挿入音楽が時代劇・的で場違い感あり。
と、ここまで言いながら、一夜一話は池広一夫監督のファンです。監督はやはり喜劇時代劇の人。


下2監督:池広一夫|1966年|87分|
原作:森鴎外|脚色:成澤昌茂|撮影:宗川信夫|
出演:お玉(若尾文子)|その父親・善吉(井伊友三郎)|岡田(山本學)|お梅(姿美千子)|高利貸しの末造(小沢栄太郎)|その妻・お常(山岡久乃)|お玉の住む妾宅の隣家に住む和裁のお師匠・お貞(水戸光子)|反物行商のおしげ(藤原礼子)|おさん(武智豊子、のちに改名 武知杜代子)|木村(井川比佐志)|魚屋・魚金の女将(村田扶実子)|ほか


ここに、若尾文子が出演の作品を集めました。
若尾


池広一夫 監督の映画
写真
影を斬る
写真
薔薇大名
写真
花の兄弟
写真


【 一夜一話の歩き方 】
下記、タップしてお読みください。

写真
写真
写真
写真
写真
関連記事
やまなか
Posted byやまなか