映画「オクジャ okja」 監督:ポン・ジュノ 少女と家畜の愛の物語
2021年05月16日 公開
トトロと少女メイのような「子供向けのファンタジー映画」かと思いきや、そうじゃない。

しかし、この映画の売りどころは、SFファンタジーと怪獣アクションだけではないようです。
カバより大きな動物オクジャと、少女ミジャの話の起承転結の傍らで、映画は次のことをやんわりと訴えます。
それは基本、動物愛護ですが、食肉用家畜の動物福祉の問題、さらには遺伝子組み換えによる美味い人造家畜の誕生という遺伝子操作の安全性と倫理の問題や、利益・生産性を求める食肉加工業界の企業倫理。
また、ある種の動物愛護団体の過激な活動への疑問。加えてベジタリアンやビーガンに対する疑問も薄っすら語ります。(よく観ると、この映画、奥が深い)
▼愛くるしいオクジャと、そのお腹に乗っかって眠る少女ミジャ

ルーシーは、父親が成した大企業ミランド社の業績を嫌っていた。ミランド社は、世界に公害をもたらし、これまで人々から大いに批判されてきた会社だったからでした。
その後、代が替わり、ルーシーがCEOになって経営を引き継ぎ、ここで心機一転、ミランド社の立て直しにあたった。
ルーシーが構想した新事業、それは最先端のDNA技術で食肉用の人造動物「スーパーピッグ」を作ってその肉を世界に売ること。
のちに、ルーシーは記者会見でこう言っている。「畜産業の革命です。スーパーピッグは大きくて美しいだけではありません。環境に及ぼす影響を最小限にとどめ、エサも少なく済み、排泄物も少ない豚です。そして何より味は最高です!」と。
つまり、これまでの肉牛や豚にとって代わる、自然界に無い、人造、人工の肉用家畜を作る事業。その一方で、大規模飼育によって、家畜の排泄物による悪臭や水質汚濁などの環境汚染問題の深刻化に配慮している。また、自然の動物、牛豚にとっては、家畜、屠殺からの解放とも言える。だが、スーパーピッグにとっては、どうなの?
次に、ルーシーが立てた広報戦略は‥。まず、この新動物スーパーピッグの赤ちゃんを数10頭作って、世界各地で10年間、任意に飼育してもらう。(その1頭が、オクジャなわけ)
もう少し言うと、飼育方法その環境については、各地の風習伝統に委ね、10年経って、どのスーパーピッグの育成状態が良いかコンテストをし優勝を決める。そしてその動物を本社ニューヨークへ回収し表彰式典を催す。その内容は、スーパーピッグの一般公表と、いわゆる人工肉ではない、とても美味い肉の販売促進パレード!
★ ★
そして10年経とうとしていた。ここは韓国の田舎。少女ミジャは幼いころから、このオクジャと一緒に育った。
しかし、ミジャと二人住まいの祖父ヒボンは、ミジャに、ミランド社のことや育成契約のこと一切を全く知らせていない。
▼ミジャの家は奥深い山の頂にポツンとある。家の中から見た祖父とオクジャ。
だから、それは、ミジャにとって寝耳に水であった。
ある日、韓国ミランド社の社員がミジャの家に現れ、オクジャが飼育コンペに優勝したことを知らされる。
▼しかしこの時、ミジャは何も知らず、ほほ笑む。
ここで祖父は一仕事。
ミジャを森の中へ連れ出し、その隙に、韓国ミランド社の社員たちはそっとオクジャを引き取って行った。(このシーンが一番の突っ込み所だが‥)
騙されたミジャは、慌ててオクジャを追いソウルへ出る。(ここでオクジャは暴れた)
しかし、どうやってミジャはソウルへ?
オクジャをソウルへ搬送する大型トラックを見つけたミジャは、(宮崎駿のアニメのように)トラックに飛び乗り‥、かつ、ここで突如、謎の動物愛護団体の数人が現れ、彼らもオクジャの救出奪還を狙うが、失敗する。
だが、この時ミジャは動物愛護団体のリーダー、ジェイと出会ったのです。
一方、ニューヨーク本社にいるCEOのルーシーの耳に、韓国ミランド社の社員が、ミジャから無理やりオクジャを引き離した事態を知って激怒。これがマスコミに知られれば、またミランド社の信用が落ちる。せっかくルーシーが、ミランド社の新事業を、愛と優しさのソフトなイメージで売り出そうとして、やっとの10年。
結局、ルーシーは、ミジャもニューヨークに呼び、表彰式典に出すように、社員に指示した。
そして動物愛護団体のリーダー、ジェイも、ミジャに「ニューヨークでまた会おう、その時、オクジャを取り戻してあげる」と約束したのでした。
さあ、あとは観てのお楽しみですが、以下、予告編をどうぞ。(Netflixの回し者ではありませんが)
予告編です。
https://www.youtube.com/watch?v=ZRdcINw9viw
予告編2
少女とオクジャに焦点をあてた映像
少女とオクジャに焦点をあてた映像
https://www.youtube.com/watch?v=4T0nYWvudaM
▲右は、スーパーピッグの屠殺処理。2005年のドイツ映画「いのちの食べかた」を思い起こすシーンです。
※本作はブラッド・ピットの映画製作会社プランBと組んで手がけたNetflixオリジナル映画。よって製作総指揮にブラッド・ピットの名あり、また共同製作にティルダ・スウィントンの名がある。
原題:Okja(韓: 옥자)
監督・原案:ポン・ジュノ|韓国・アメリカ|2017年|121分|
脚本:ポン・ジュノ、ジョン・ロンスン|撮影:ダリウス・コンジ|
出演:ミジャ(アン・ソヒョン)|ルーシー・ミランド / 双子のナンシー・ミランド(ティルダ・スウィントン)|動物愛護団体のリーダー、ジェイ(ポール・ダノ)|ミジャの祖父ヒボン(ピョン・ヒボン)|ほか多数
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