映画「かあちゃん ~“粘土のお面”より 」(1961) 監督:中川信夫

上

ここは、東京の下町、荒川と隅田川に挟まれる曳舟あたり。
お人好しのぼんくら亭主と、かかあ天下の女房を主人公にしたこの話は、荒川土手近くの貧乏長屋に住む一家四人の貧しさを、努めて明るく描く物語。
時は敗戦間もない昭和24年の年末か。家主の家賃催促や、借金取りが訪れる。
落語の長屋生活の話を、戦後の混乱期に移したような話だが、原作者の自伝小説をもとにしている。

中1

由五郎(伊藤雄之助)は、真面目なブリキ職人。仕事が無くての中で、やっと来た仕事で賃金不払いにあったりしてクサクサしている。埼玉県の浦和の仕事もいとわず、早朝暗いうちに弁当持って自転車で行く。
女房のお雪(望月優子)は、手内職でセルロイドの小さなキューピー人形に彩色している。
長女の正子(二木てるみ)は利発な小学生。親の言う事も素直に聞くが、担任の木村先生(北沢典子)と話することで心のバランスが取れている。弟の稔坊はまだまだ幼い。
中2

映画は由五郎の家の両隣の話もする。
同じく長屋住まいの金谷の家は、集めたボロ布で作った雑巾を売って商いしている。
木村先生が下宿で駄菓子屋の二階を間借りしているが、その店の兄さんは金谷家の一人娘トシエと幼馴染みでトシエが好き。
トシエは浅草で踊り子をしているが、それを父親は良く思ってない、でもそれで一家はなんとか食べていける。
そんなトシエに男が出来て、ある日トシエの実家を見に来たシーン。しかしそして振られる。
中3

それから金谷家と反対側のお隣は街を流して歩く傘の修繕屋。
その奥さんは長年、病で伏せていて、由五郎の女房お雪も世話していたが、医者に掛からずついに死ぬ。夫は幼子を抱えて家を捨て、行商しながら遠くの遠縁を頼って去って行った。
そのあと、長屋のこのアキに入ったのが自転車修理屋、開業祝でどんちゃん騒ぎ。
中4

さて、他人の事は言えぬ。由五郎の家もにっちもさっちも、いかなくなる。
米も尽き、イモをふかして食い、その夜、お隣のどんちゃん騒ぎが収まったころ、一家は夜逃げ。大家が物陰からそっと見送る。
リヤカーにわずかな家財を積んでの道すがら、やはり夜逃げの同じような家族に出会う。
そして夜明け前、小さな神社の鳥居下で、一休み。明日に希望を持ちようもない一家だが、表立って悲しまない。その踏ん張りが伝わるラストシーンが観る者の心に沁みる。

下

「地獄」「憲兵と幽霊」など怪談・復讐ものや毒婦もので知られる監督、中川信夫だが、怪談以外に、本作や「草を刈る娘 (思春の泉)」といったいい映画も撮っています。
それに、最晩年の作「怪異談 生きてゐる小平次」もいい。

監督:中川信夫|1961年|88分|
原作:豊田正子(著) 小説「粘土のお面」1941年|脚色:館岡謙之助|撮影:平野好美
出演:豊田由五郎(伊藤雄之助)|その女房お雪(望月優子)|その娘正子(二木てるみ)|その弟稔坊(津沢彰秀)|木村芳子先生(北沢典子)|金谷トシエ(浜野桂子)|トシエの父親(河合英二郎)|トシエの母親(花岡菊子)|山崎( 鶴丸睦彦)|山崎の女房(西朱実)|夜回りの巡査(宇津井健)|ほか

中川信夫監督の映画

写真
思春の泉
主演:左幸子
のちに「草を刈る娘」と改題
1953年
写真
かあちゃん
“粘土のお面”より

伊藤雄之助, 望月優子
1961年
写真
怪異談 生きてゐる小平次
主演:宮下順子
ATG映画
1982年
写真
地獄
1960年

【 一夜一話の歩き方 】
下記、タップしてお読みください。

写真
写真
写真
写真
写真
関連記事
やまなか
Posted byやまなか