映画「硝子のジョニー 野獣のように見えて」 主演:芦川いづみ, 宍戸錠 監督:蔵原惟繕
2021年08月14日 公開

とにかく、女優、芦川いづみに拍手を!
可憐、さわやかさの売りで、石原裕次郎の相手役として欠かせない芦川いづみ、年に何本もの映画に出演する日活の大女優を、異色作といわれる本作で汚れ役といってもいい役に起用した気概と、これに応えて熱演する芦川いづみに声援を送りたい。
本作の良さを、共演するアクションスター宍戸錠、人気歌手アイ・ジョージを知らない若い人にこそ、発見してほしい。
まずは予告編をどうぞ。
予告編です。
https://www.youtube.com/watch?v=cSDHuSXMpvY
稚内の昆布漁師の長女みふね(芦川いづみ)は、障害があって昆布干しの手伝いすらできない。
ある日、みふねを迎えに、トラックでやって来た男、秋本(アイ・ジョージ)に彼女は連れられ家を離れた。つまり売られたのです。彼女の家はそんなに貧しい。そのことは彼女も何となく分かっていた。もう二度と帰れないし、帰ってはいけないことも。
物語はここから始まります。
秋本は、なにがしかの金で女性を買い、どこかの売春宿に売る商売人、たまころがし、だ。
その移送中、トラックが駅に着き列車に乗り換えるその時、秋本に買われた他の女が秋本の隙をみてホームを駆けだし、これをみて、みふねも走りだす。秋本はふたりを追う。しかし機敏なみふねだけが、動き出した列車に飛び乗って逃げおおせたのです。
その車内で無賃乗車のみふねは車掌の検札にあうが、ジョー(宍戸錠)と出会い、彼のおかげで車掌に運賃を払ってもらい難を逃れた。が、ジョーは彼女に対し大した意識もしなかった。
列車は終点函館駅に着いた。
見知らぬ街で不安いっぱいのみふねは、再度ジョーを見かけ、彼にすがろうとするが「何だこの女!」と振り払われる。
ジョーは、そんな、どこの馬の骨ともわからない女にかまってはいられない。彼にはやるべきことがあって函館に来たのだ。
函館には競輪場がある。ジョーは、駆け出しの若手競輪選手の宏(平田大三郎)を育てることに執心し続けているのだ。その宏がレースに出る。かつ、ジョーは競馬の予想屋、ここでこの商売を始めなきゃいけない。
さて映画はここから、この函館を舞台に、みふねとジョーの奇妙な出会い、すがる みふね、その都度 振り払うジョーを描きながら、二人の、たどたどしく、危なっかしいラブロマンスを映し出していきます。
だが、二人の前に立ちふさがるは、たまころがしの秋本。みふねは秋本が買った女。そのみふねが脱走中なのだから当然、秋本はみふねの身柄を確保し、売っぱらって早く金に換えたい。
ここで映画は、レース成績が相変わらず悪い競輪選手の宏、以前からジョーに気がある 気丈な食堂の女将、由美(南田洋子)、そして売春宿の女将、おきく(武知豊子)を登場させて話を進める。
宏は新型の自転車ならもっと速く走れるとジョーに訴えたが、それは先輩選手の御下がり中古だが、なにしろ5万円。いつもスッカラカンのジョーには‥。だが宏の手前、買ってやると言い放つ。
ジョーは食堂の由美に5万円貸してくれと頭を下げるが、彼女の条件出しが受け入れられない。その条件は競輪を辞めて以前の様に堅実な板前に戻っておくれ(一緒に店をやろう)なのだ。
ジョーの頭に、宏に対するメンツと5万円の工面しかないところに、売春宿の女将おきくの「いい女だね。あの女(みふね)なら買うよ」の言がよぎる。迷ったがジョーは、みふねをおきくに売った。
さてさてこの先、話は大きく展開し始めます。※
金を手にしたジョーは宏に裏切られ、逮捕後入院中の秋本にみふねは頼ろうとするが、秋本は警察の目を盗んで病院から逃走。再び、みふねは函館で独りぼっちになる。
そしてラスト。
みふねは、頼りにする相手を失い、苦労の末、稚内の実家に戻りますが、そこは既に荒れた空き家に。呆然とするみふねは導かれるように、幼い頃から親しんだ海へ、波の中へ‥。(終)
ジョーに売られ、秋本に逃げられ、親に捨てられた みふねにとって、すがるものは海だけでした。
総じていい映画なのですが、宍戸錠の演技に味が無い。かたや歌手が本業のアイ・ジョージは素人俳優なのに、後半、じわっと味が出ている。俳優稼業とは実に恐ろしい。
芦川いづみについては、本作のような演技ができるのだから、彼女の魅力をもっと引き出す作品があってもよかったのに、と思うと残念だ。
それと、上記※印、このあたりから脚本が弱っちくなるのが残念です。
藤田繁夫(敏八)が助監督で加わっています。いろいろと学んだでしょうね。
ところで映画冒頭は、誰でも分かる。フェデリコ・フェリーニ監督の「道」です。
次に思い浮かぶのは、アイスランドの歌手ビョークが主演の映画「ダンサー・イン・ザ・ダーク」(2000)。
救いようのない不幸に陥っていく女の最期。そんな役を熱演したビョークの姿が、本作の芦川いづみと重なります。
監督:蔵原惟繕|1962年|106分|
脚本:山田信夫|撮影:間宮義雄|音楽:黛敏郎|
出演:ジョー:宍戸錠|深沢みふね:芦川いづみ|秋本孝二:アイ・ジョージ|宏:平田大三郎|由美:南田洋子|おきく:武知豊子/杜代子|ほか
「競輪の予想屋」の映画
小沢昭一が輝く!すばらしい映画。南田洋子が共演。

蔵原惟繕 監督の映画
【 一夜一話の歩き方 】
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