映画「秀子の車掌さん」(1941) 主演:高峰秀子 監督:成瀬巳喜男
2021年08月22日 公開
いい映画です。
すなおに撮った映画は、時に永遠の命を授かる。「秀子の車掌さん」は、そんな作品。尺は54分。
時は戦前、1941年(昭和16年)の夏か秋でしょうか、舞台は甲府。(しかし同年12月8日の真珠湾攻撃によって太平洋戦争が勃発)
とは言え、ほのぼのとしたユーモラスな、そして静かな物語です。
農家の娘、おこまさん(高峰秀子)が車掌をする「甲北乗合」というバス会社は、保有するバスが1台っきり。それもだいぶくたびれている。
これを修理維持しているのが運転手の園田(藤原釜足)。
要するにバスの社員はおこまさんと園田の2人っきり。
そのうえ、最近、この地域の路線に台頭してきたバス会社は車両が新しいので、甲北乗合のバスは追い抜かれるし、運行本数は甲北乗合より多いので乗客を持って行かれている。
こんな様子はこの冒頭シーンをご覧ください。
映画の冒頭シーン
https://www.youtube.com/watch?v=zEy4eAQtSM8
さて、そんなある日、おこまさんは甲北乗合の劣勢をなんとかしようと、バスの中で乗客に名所案内をしてみたらと思いつく。ハイキング客も乗って来るのだ。
さっそく園田と一緒に社長に相談。すぐさま、いいねの回答。二人は、ちょっと拍子抜け。でもよかった!
さあ、でもガイドの案内文句はどうしようかと考えあぐね思案の末、たまたまこの町の旅館に宿泊中の小説家に頼んでみた。これもすぐさまオーケーの回答を得る。小説家が面白がってくれたのだ。
彼が書き上げた内容は、地元の人もあまり知らないことも取り上げた なかなかの観光ガイドになった。さらには、抑揚をつけ、こんなふうに流れるようにと、小説家自ら、ガイドの手本を示してくれた。
おこまさんは恥ずかしながらも、小説家の前でやってみたし、家で繰り返し練習もした。
さらに、小説家もバスに乗り込んで、この場所を通る時、この文言を言うといった実地のガイド練習もした。運転手の園田もウキウキいている。
ところがその最中、村の子供が急に道路に飛び出してきて、園田は急ブレーキを踏んだ!
子供にケガは無かったが、バスは路肩からはみだして片輪が畑に落ちた。園田は近くの電話で社長に報告。ところが社長はバスにかけている保険金欲しさに、バス車体に事故損傷の証拠を細工しろと命令した。しかし正直者の園田は大いに戸惑う。

し社長に直談判しに行こう
と言う

の小説家と知って態度一変
新聞沙汰を恐れたのだ

へ。だが見送った二人は何
となく うすら寂しい感じ。
それは陽が陰る様な不安感

おこまさんはバス車内に飾
る花を買う。園田もやる気
満々だったのだが‥

を片田舎のバス会社に売っ
てバス事業から手を引こう
としていたのだった
以上で、おしまいのお話。
ただ、この年の暮れに真珠湾攻撃が起こるとは誰も思っていなかったでしょうね。
ちなみに成瀬巳喜男は清水宏監督の映画「有りがたうさん」(1936年)を観ていたかもしれい。
そして「有りがたうさん」の原作は川端康成の小説『有難う』で、「秀子の車掌さん」の原作者の井伏鱒二はこの小説を読んでいたかもしれない。
さらには、ユーゴスラビア映画「歌っているのはだれ?」(1980年)のスロボダン・シャン監督は、「有りがたうさん」「秀子の車掌さん」を観たかもしれない。と思うとちょっと楽しくなる。(題名をタップし紹介記事へどうぞ)
監督・脚本:成瀬巳喜男|1941年|54分|
原作:井伏鱒二作:おこまさん(1941)|撮影:東健
出演:おこまさん(高峰秀子)|園田(藤原鶏太(変名前は釜足)|小説家の井川(夏川大二郎)|おばさん(清川玉枝)|社長(勝見庸太郎)|





こちらで、高峰秀子が出演の映画をまとめています。
井伏鱒二の小説が原作の映画です。

監督:川島雄三
フランキー堺、淡島千景

監督:豊田四郎
森繁久彌、フランキー堺

監督:中村登
佐田啓二、岡田茉莉子

監督:豊田四郎
淡島千景、森繁久彌

監督:成瀬巳喜男
高峰秀子、藤原釜足
【 一夜一話の歩き方 】
下記、タップしてお読みください。
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