映画は、フィリピン人, 韓国人という “外人”をどう描いたか。「愛しのアイリーン」「異邦人の河」
2021年09月23日 公開
2018年製作の「愛しのアイリーン」と、1975年製作の「異邦人の河」の2作品を取り上げます。
「愛しのアイリーン」は、フィリピン人との国際結婚を、すったもんだの喜劇風味に、時にシリアスに描きます。
「異邦人の河」は、在日韓国人の一世二世の物語をじっくり語ります。
ともに話の軸はラブストーリーですが、映画は登場人物に、それを乗り越えるか否かの決断を迫る高い壁を用意しています。「私がフィリピン人だからなの!」、「半朝鮮人!」という台詞が印象に残ります。
2作品に40年以上の開きはありますが、それぞれの登場人物の外人(そとの人)は日本社会の中で、何をどう考え行動したのでしょうか。同様に日本人たちは‥。
ちなみに、「愛しのアイリーン」では、東京フィルメックス設立者の市川尚三がプロデューサー陣に名を連ね、かたや「異邦人の河」では俳優の中村敦夫がプロデューサーを務め、製作費も出したらしい。両氏ともに、出演もしています。
なお、このページの末尾に関連作品として「月はどっちに出ている」と「ママは日本へ嫁に行っちゃダメと言うけれど。」を用意しました。
それではまずは、「愛しのアイリーン」から。
愛しのアイリーン
農村に生まれ育った岩男(安田顕)は、ずっとこの地を離れずに今に至る。42歳、一人っ子で、未だに独身。
父親は認知症で、母親(木野花)は岩男の嫁探しに残りの人生をささげている。親を大切にする嫁がいい。孫の顔を見てから死にたい、と。でも母親の友人(左時枝)が時折持ってくるお見合いの話はどれも気に入らない。
岩男はパチンコ店の店員だ。同僚の従業員で、シングルマザーの吉岡愛子(河井青葉)が以前から気になっていた。だが彼女の誘いもあったが、結局振られた。失恋、岩男は失意のどん底だった。
さらには、岩男の母は耳ざとい。そんなこんなを知って母親の嫁探しはさらに熱が入るが、岩男も42歳、ここに来て母のお節介がたまらない。八方ふさがりの岩男は仕事を休み、ふいと家を出て雲隠れ。
そんな岩男は、どこで聞いたか、フィリピン女性と集団見合いができるフィリピン・ツアーに、母に内緒で参加した。参加費300万円。
だが、いざ30人もの女性と見合いが始まると、岩男の気持ちはどんどん萎えていく。彼がこの子がいいとヤケッパチ気味に選んだのが、アイリーン・ゴンザレス(ナッツ・シトイ)18歳だった。
同行の斡旋業者は、本当にこの子でいいのかと、岩男に念押ししたくらい。
次の日、さっそく岩男は斡旋業者に連れられてアイリーンの家に行く。家は夫を亡くした母親と子供たち、貧しい村貧しい家庭。
先方の母親と相談の上、月々の仕送り付きで、岩男の嫁になることが承諾される。さてそうと決まると、村ですぐさま結婚式が執り行われた。
好きや愛の結婚ではない。アイリーンは家族のために岩男との結婚の道を選んだ。いわば金で買われた身。だけど彼女はベッドを共にしません。
フィリピン帰りの岩男は、そんなアイリーンを連れて意気揚々、我が家に帰って来たが‥。
家では父親の葬儀の真っ最中。2週間ほどの留守の間に父は脳卒中で亡くなっていた。
と同時に、この場は母親とアイリーンとの初対面、戦慄の場でもあった。見守る喪服姿の親戚、村人を押しのけて、母親は猟銃を持ってアイリーンの前に現れる。
さあ、このあたりで予告編を観てみましょう。話は盛だくさんです。
予告編です
http://irene-movie.jp/
予告編のとおり、映画は後半になって、思いがけない事件が起き、話はドラマチックになって行きます。
そのことは、下の登場人物紹介をご覧になってください。

パチンコ店勤務、42歳
一人っ子で独身。アイリー
ンとの愛は徐々に育つ。
ある事件をきっかけに二人
は真に結ばれるが、母は未
だにアイリーンとの結婚を
承知しない。

フィリピン生まれ、18歳
愛があっての結婚を貫く。
岩男の死が、義母ツルへの
妊娠告白とツルの死が彼女
に宍戸家の人となったこと
を自覚させる。義母と心が
通じ合えたのに悲しい最期

気丈な性格で岩男の嫁探し
が生き甲斐だがフィリピン
人を受け入れられない。
認知度合いが雨時々曇りの
夫の死は人生の一区切りで
あったが、岩男の突然の死
は骨身にこたえた。

パチンコ店勤務、シングル
マザーで岩男の同僚。岩
男を誘うが振ってしまう。
男女関係が一定しない、
影のある色っぽい女性。

フィリピンパブの女性。ア
イリーンと親しくなり日本
のことを教えたりタガログ
語日本語辞典をあげたりの
相談役。岩男との一夜も‥

アイリーンを受け入れぬ岩
男の母が嫁にと目星を付け
た女性。映画はこの女性に
何やら謎めいた味付けをす
る。

フィリピンパブへ女性を斡
旋をするヤクザ。アイリー
ンに目をつけてツルに接触
するが唾を吐きつけられる。
その後アイリーンを拉致し
逃げるが岩男に射殺される。
この時、真に惚れるアイリーン!
アイリーンは日本語を覚えようと努力し、そして笑顔でもって、少しずつ岩男に周囲に日本に馴染んでいきます。
総じて言うと、アイリーン役のナッツ・シトイが懸命に牽引する映画です。
一方で、アイリーン誘拐事件はじめ、岩男やツルの急死という、取って付けたようなエピソードを通過しないと、国際結婚から始まる話が着地しなかったことが、残念です。
まあ、話が地味になってしまうことを嫌ったのかもしれないですが。
ちなみに、この物語の中に、日本が抱える問題を幾つ見出せましたか?
監督:吉田恵輔|2018年|137分|
原作:新井英樹|脚本:吉田恵輔|撮影:志田貴之|
出演:宍戸岩男 - 安田顕|アイリーン・ゴンザレス - ナッツ・シトイ|吉岡愛子 - 河井青葉|マリーン - ディオンヌ・モンサント|正宗 - 福士誠治|宍戸源造 - 品川徹|竜野 - 田中要次|塩崎裕次郎 - 伊勢谷友介|宍戸ツル - 木野花|斉藤 - 古賀シュウ|真嶋琴美ー桜まゆみ|お見合い話を持ってくるおばあさん-左時枝|
異邦人の河
本作は、自動車修理工の山本23歳と、手提げバッグの縫製所で働く方順紅との、辛いラブロマンス。
さらに、二人の愛を話の柱に据えながら映画は、山本、方順紅、双方の両親(在日一世)の過去とその後の様子を語り、後半には山本の在日韓国人としての目覚めを語ります。
また、母親の死、それに朴政権退陣の街頭署名運動、KCIAの襲撃、そしてジョニー大倉の弾き語りもあり、内容は盛りだくさんです。
修理工場で働き始めて7年の山本(ジョニー大倉)は、工場長(米倉斉加年)から一定の信頼を得ている一方で、なにやらヤクザに狙われている。
映画は、暗い路地でぶっ倒れていた山本が意識を取り戻したところから始まる。
山本はおもむろに歩き出し、踏切で電車の通過を待っているその時、突然ヤクザに刺される。腹を押さえ、ふら付きながらも歩いていると、橋から川へ飛び込む女を目撃した。山本は、わが身をかえりみず、岸から飛び込みその女を助けた。これが方順紅(佳那晃子)との出会いであった。
その後、病院へも行かずに翌朝、工場へ出勤した山本は腹から血を流し倒れ、強制的に病院へ搬送された。
このシーンから映画は、方順紅が在日韓国人として、しっかりしたアイデンティティーの持ち主であり、山本は李史礼という本名を表に出さない男であることを徐々に語りだす。
ある日、山本は工場長から戸籍謄本を持って来いと言われる。新たに工場を設けるため、お前を主任にしてやるからだと。日ごろを評価された嬉しさはあるものの、戸籍謄本で在日だと知れると、クビになると山本は恐れる。だから帰化したい!
そんな山本に在日のアイデンティティーを教え込んだのは、修理工場のお得意先の、韓国食材店のあるじ池法石(中村敦夫)であった。
彼は金芝河を友人にもつジャーナリストであったが、政権暴露で身に危険が迫り、日本へやってきたのだ。
さてその続きは映画をご覧ください。作品の雰囲気はこの予告編で、どうぞ。
予告編です
https://www.youtube.com/watch?v=PJPh7HlkfcI
総じて、作り手の熱意、気持ちは今も伝わってきます。
しかし、あれこれと内容を詰め込み過ぎて、あれとこれの継ぎはぎが目につく残念さは拭えません。
監督・脚本:李学仁|1975年|115分|16mm
撮影:アン・スンミン安承攻(安承)|音楽:ジョニー大倉|
出演:山本/李史礼(ジョニー大倉)|方順紅(佳那晃子、別名義:大関優子)|池法石(中村敦夫)|方相一(菅貫太郎)|柳恵栄(宇津宮雅代)|馬渕晴子|修理工場長(米倉斉加年)|河原崎長一郎|常田富士男|新しい雇い主(小松方正)|絵沢萠子|粟津號|柳生博|藤田敏八|東野孝彦(英心)|ほか
なおジョニー大倉は出生名:朴雲煥でも記載されています。
関連作品
「月はどっちに出ている」
いい映画です。
タクシー運転手で、在日二世の姜忠男(岸谷五朗)を主人公にした喜劇映画。
そして、忠男と、フィリピンからの出稼ぎ女性・コニー(ルビー・モレノ)との、可笑しいラブストーリー。

「ママは日本へ嫁に行っちゃダメと言うけれど。」
Facebookで知り合い、その後、二人は数回しか会ってない、台湾日本の遠距離恋愛。

「ATGだけじゃない、1970年代日本映画の心意気」
という特集をこちらでやってます。
という特集をこちらでやってます。
【 一夜一話の歩き方 】
下記、タップしてお読みください。
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