映画「当りや大将」 監督:中平康 なんとかここで精いっぱい、生きるしかない人々。“三丁目の夕日” じゃない昭和。
2022年10月15日 公開
あの“三丁目の夕日” だけが昭和じゃない。これも昭和30年代。
監督は中平康、脚本は新藤兼人。
舞台は、大阪の通天閣近く、釜ヶ崎。
大将(長門裕之)と呼ばれ、釜ヶ崎じゃ名の通った男の本業は、当たり屋。
当たり屋というのは、走りくる自動車に向かって故意に接触して ころんで、大げさに痛みを叫んで交通事故のケガを演技して、相手に治療費や慰謝料、示談金やら損害賠償を請求しようとする者。身体を張った商売だ。
チームプレーがいる仕事だが、稼ぎはいい。だから、周りの衆から大将と呼ばれる。
こんな大将の住まいは、釜ヶ崎のど真ん中、ホルモン鍋屋の向かいにある。それは掘っ立て小屋とも言えないくらいに小さい。足を延ばしてなんとか寝れる狭さの、自作の箱。だが独り者にはちょうどいい。
左:ホルモン鍋屋のおばはん、右:大将、小屋の板戸を引き上げたところ。
当たり屋で稼いだ金は、その日すぐ、チームの皆で飲んでは歌いの、どんちゃん騒ぎをして、ハイ、たちまちのからっけつ。
だから大将は、いつもスカンピン。でも大将は、釜ヶ崎で常設の博打が好き。元手の小銭がいる。
で、大将の副業は、ガラスを数枚背負って売り歩く、ガラス屋。
ホルモン鍋屋のおばはんの息子、チビ勝と手を組んで、人通りの無いところを選んで、まず、チビ勝が他人んちの窓ガラスに石を投げて割る。
そこへたまたま通りかかった素振りで大将が「ガラス屋、えーガラス屋」と、、、あま、段取りのよすぎる小銭稼ぎ。
そんな大将の話に、映画は、これも釜ヶ崎で名をはせるベンテンのお初(中原早苗)、ホルモン鍋屋のおばはん(轟夕起子)、それと山内刑事(浜村純)を登場させて、話はこんがらがって行きます。
ラストは、通天閣のネオンサインを向こうに見ながら、暗闇の釜ヶ崎の夜がしんみりと更けていきます。
大将と、ホルモン鍋屋のおばはんとの話が、観終わったあとに、どうも喉に刺さった小骨の印象で、もう一工夫の筋書きが欲しいところ。
ちなみに、シーンの後ろを、しきりに走り抜ける国電(環状線)、蒸気機関車が走る当時非電化の大和路線、路面電車の阪堺線、そして南海電車もお見逃しなく。
それから、本作と同じく「当たり屋」を稼業としている家族の話がある。
大島渚監督の「少年」がそうです。こちらから記事をご覧ください。
監督:中平康|1962年|87分|
脚本:新藤兼人|撮影:姫田真佐久|
出演:大将(長門裕之)|ホルモン鍋屋のおばはん(轟夕起子)|おばはんの一人息子のチビ勝(頭師佳孝)|どぶのキリストの愛称の山内刑事(浜村純)|ベンテンのお初(中原早苗)|王様(山茶花究)|ほか多数
大阪を舞台にした映画をここに集めました。
(兵庫・和歌山・奈良も含めました)
中平 康監督の映画
【 一夜一話の歩き方 】
下記、タップしてお読みください。
- 関連記事
-
-
映画「マイ・ブロークン・マリコ」(2022年) 監督:タナダユキ 2023/05/10
-
映画「人も歩けば」 監督:川島雄三 2023/04/30
-
映画「こちらあみ子」(2022) 監督:森井勇佑 2023/03/30
-
映画「青べか物語」 監督:川島雄三 2023/03/25
-
映画「鉄コン筋クリート」 監督:マイケル・アリアス 2022/11/15
-
映画「ぐれん隊純情派」 監督:増村保造 2022/11/06
-
映画「素足の娘」 監督:阿部豊 主演:南田洋子 2022/10/30
-
映画「当りや大将」 監督:中平康 なんとかここで精いっぱい、生きるしかない人々。“三丁目の夕日” じゃない昭和。 2022/10/15
-
映画「潤の街」 (ユンの街) 監督:金佑宣 2022/09/15
-
【特集】1930年代の日本映画は、いかがですか。 (まとめ) 2022/09/05
-
【特集】アジアへ進出する、日本の映画監督。 2022/07/16
-
映画「ちょっと思い出しただけ」(2022) 監督:松居大悟 2022/07/06
-
映画「國士無双」(1932) 監督:伊丹万作 2022/06/21
-
映画「ホテルニュームーン」 (日本・イラン2019) 監督 筒井武文 2022/06/05
-
「小津安二郎」その作品の魅力に迫る。 《日本映画監督 特集》 2022/05/26
-