映画「わたしの叔父さん」(デンマーク2019)  監督:フラレ・ピーダセン

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静かな映画です。
ですが悲しい話じゃない。
クリスという女性が、明日に向かって歩む我が道に、確信を持つに至ったという話です。

物語の舞台はデンマーク、見渡す限り広がる田園風景。人口密度はとても低そう。
クリスは27歳独身、年老いた叔父と二人で、酪農と、広い耕地で農業を営んでいます。

その昔、早くに両親を亡くし身寄りがなかった少女クリスは、独り身の叔父に引き取られて、それ以来ずっと、二人は生活を共にしています。まるで父娘のよう。
クリスは、毎日の搾乳や牛の世話、麦畑では大型コンバインに乗っての収穫作業、こんな今の仕事が好きです。そして、足が不自由な叔父の身の回りの世話も苦にならない。
映画はそんな二人の日々の様子を、静かに見守るように淡々と描いて行きます。
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さて、クリスはある迷いを抱いています。
そのひとつは、クリスは酪農、畜産業に関心が強く、とりわけ以前から獣医志望でありました。いまも勉強しています。だが、叔父をひとり置いて、遠くにある学校へは行けない。でも獣医になりたい。
それを知って叔父の友人で獣医のヨハネスは、クリスを診療の臨時助手をさせ始める。もちろんクリスには願ってもないことだし、叔父もそれを喜んだ。
そんななか、クリスの誕生日に、叔父はクリスに獣医用の聴診器をプレゼントした。それを陰で手助けしたのはヨハネスでした。
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もうひとつの、クリスが抱く迷いとは。それは愛。
クリスは、教会の聖歌隊が歌う歌を聴くのが好きで、その教会でクリスはマイクと出会い、互いに一目ぼれ。
彼は養豚農家の息子だが跡継ぎになりたくない。大学で学んだ環境工学をもとにコペンハーゲンで仕事に就きたい。
だから、マイクはクリスに、コペンハーゲンで生活を始めようと誘うのですが‥。クリスは叔父を置いていけない。足が不自由な叔父一人では農業はできないし、生活が成り立たたない。
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映画がクリスに与えたこれらの難題。これに対し彼女はどうしたのか?
ある日、クリスはプレゼントされたあの聴診器と、借りていた獣医学書を、獣医のヨハネスに返してしまう。なぜ?
それはヨハネスが、畜産大学での講義に際し、クリスを聴講に誘って二人でコペンハーゲンへ出かけた留守に、叔父が牛舎で倒れていたことが、クリスに大きく影響しました。脳卒中の再発でした。このことで彼女は獣医学部への進学をあきらめたのです。

一方で、マイクとのこと。
付き合いを始めてからクリスは、迷い続けていました。マイクへの愛と、クリス自身が生きたい道との間で。
叔父のことを差し置いたとしても、クリスにとって、都会はそぐわないし、マイクの生き方、考えにそぐわないのです。
さあ、この辺で予告編をどうぞ。
予告編 決め
https://www.magichour.co.jp/ojisan/

予告編は選択の時が来たと言います。
それは、叔父との生活を選ぶのか、マイクとの生活を選ぶのか、の選択。結局、クリスは叔父との、今までの生活を選びました。

しかしです。ラストシーンで、叔父と食卓テーブルに座っている時の、クリスの眼の動きに注目してほしい。悲しい眼じゃない、喜びの眼をしています。なぜ?
このラストは考えさせられます。
クリスの喜びの眼は、ひとつには、あらためて叔父との絆で結ばれる幸せを感じたからです。
でも、悪く言えば相互依存の影で、クリスの人生選択の自由が失われて行くのじゃないの‥‥いや、そうじゃない。

クリスは、嬉しいのです。その、もうひとつのワケは‥
明日に向かって歩む我が道、地に足をつけた農業従事に、クリスは確信と誇りを持つに至ったのです。
今の世の中、世間は、より良い生活を求めて都会へ都会へとなびき、競い合うビジネスシーンで立身出世し、いい生活と地位といささかの名誉を得ようとしがちです。
でも、クリスの心は、根本的なところで、この浮草のような風潮に馴染めません。
つまり、この映画は、世間の風潮に対し、穏やかながらもアンチテーゼを唱えているのです。
ちなみに、クリスの住むデンマークは、世界に誇る農業国。かつ、世界幸福度ランキング2位の国です。下記参照

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さて、獣医のヨハネスは、クリスに再び診療助手をやらせるでしょうか?たぶんそうでしょうし、クリスは喜んでやるでしょう。
それから、クリスとマイクの初デートに、叔父も参加しましたが、あれは映画の誇張表現でしょう。そのまま受け取らないこと。
また、クリスに対しマイクが心ない発言を幾度かしますが、これはマイクの心境の説明的シーンと理解して観ましょう。

次いで言うと、クリスの叔父を演じる男優ペーダ・ハンセン・テューセンは、クリス役のイェデ・スナゴーの、実の叔父だそうです。

世界幸福度ランキング2021について 引用サイト:(株)グリーンコットンジャパン公式サイト
  日本は56位だそうです。ただしもちろん、幸福度ランキングだけを振り回す気はありませんが。

原題:Onkel (おじさん)
監督・脚本・撮影:フラレ・ピーダセン|デンマーク|2019年|110分|
出演:クリス(イェデ・スナゴー) | 叔父さん(ペーダ・ハンセン・テューセン) |獣医ヨハネス( オーレ・キャスパセン)|青年マイク(トゥーエ・フリスク・ピーダセン)|ほか
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こんな大きな大型農機具コンバインを持っています。
だから、2人だけで農業ができるんだ。


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やまなか
Posted byやまなか