映画「ビッグ・シティ」(インド1963)  監督:サタジット・レイ (別タイトル「大都会」)

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時は、1950年代のインド。
イギリスの植民地だったインドが独立したのが1947年ですから、それから間もない頃です。
そして舞台となるのは、「ビッグ・シティ」と映画が呼ぶ、インド東部の大都会、コルカタ。隣国バングラデシュにほど近い。

主人公は主婦のアロティ。
夫は大卒で新インド銀行の課長職、そして二人には一人息子がいて、一家三人は市内で借り住まい。
そこへ、年老いた夫の両親と、夫の妹が、故郷からこの家に転がり込んでいる。都合6人、三世代家族になったこの家を嫁アロティが支える。

中1

ところが、夫の収入は少なく、この一家は家計が相当厳しい。次の給料日はまだ先だが、手元にはこの先三日分の生活費しかない状態。
義父は元教師、プライドがある。狭い家で一部屋を自身の部屋に占有して、毎日、賞金付きのクロスワードパズル。次の新しいパズルを買うのに、義母の僅かなへそくりから小銭をお願いする始末。しょぼくれる日々。義母は夫に従うのみ。

そんなある日、アロティは夫から、知り合いの奥さんが働きに出たという話を聞いた。
これがアロティを動かした。戸惑いながらも、私も働こうと‥‥。
しかし、夫も、義父も即・大反対、女が家を守らず外で働くとは、なんぞや!という具合。

とはいえ、背に腹は代えられない。誰もが、心の底では生活費が欲しい。義母はすすんで家事をするだろう。
ついに夫が動き出す。新聞の求人欄からセールスレディ募集の広告を見つけ、アロティにすすめた。(上の画像)
ただし、夫が副職の家庭教師の職を見つけるまで、という条件付き。

面接、初出勤と事は進み、真面目なアロティは秘めていた持ち前の能力を発揮し出す。

中2

仕事は、家庭用の編み機を、ハイソな家の奥様相手に訪問販売。大邸宅の大きな門構えはアロティには躊躇の壁以外の何ものでもなかったが、あとは慣れ。販売会社の社長もアロティを評価し始めた。
アロティにとって社会で評価されることは生まれて初めて。その喜び、そしてグッとくる面白味が心から沸き出でる。
中3

初の給料日。成約数に対しての成果報酬も付いた。
今まで息子に買ってやれなかったオモチャと、家族にもちょっとしたお土産。それは自慢げな行動では無かったはず。
だが、夫と義父は、プレゼントを嬉しく思わないし、彼らにとっては彼女の給料は想定外の多さだった。
良かれとして働き始めたことが、ご苦労様もなく、彼らがこんな対応になるとは‥‥彼女は悩む、思いもしなかったのだ。

中5

さあ、一方でここから始まる夫と義父の、男としての嫉妬、それは社会的成功に対しての、じわーッとした嫉妬だった。
その上、アロティが浮気しているのでは?という夫の疑い。なぜなら、彼女のバッグに口紅が‥。実はこれ、営業用のもの。同僚の女性から貰ったもの。(アロティは口紅をしたことがない)

で、義父はどうしたか?、かつての教え子たちを訪ねて、遠回しの金銭のおねだり行動を始めた。夫は、遅ればせながら、友人に家庭教師の口の斡旋をお願いしだす。

さらには、事件が。
夫の勤務先の銀行が突然、取り付け騒ぎを起こす。よって、夫は無職に。

中6

それで、アロティは入社間もないのに、度胸だ、昇給を社長に願い出る。
アロティの夫が無職になったことを聞いた社長は、同郷のよしみだといって夫に職を紹介する。とはいっても、これは社長がアロティという人材を確保したいがため。

中8

さて、アロティのこの表情。
社長から働き口の紹介をしてもらってほっとした夫が会社を出た直後、営業外回りから帰社したアロティは、一番親しい同僚が不当解雇になったことを知り、その勢いで社長室に入って社長を非難し、退職願を突き付けた。当の本人も経験したことのない直情さ。
バックからすぐに出たその退職願は、夫や義父からの批判に耐え切れずに以前に書いたものだった。
中9

そして、この表情。
感情高ぶるアロティが、社長室を出て、会社のフロアから足早にビルの階段を下りてくる。その少しの時間に彼女は後悔の念を抱き始める。
その時、夫が目のまえに。
夫の優しい対応と、この先も夫婦で頑張ろうと‥。

ということで、ほかのエピソードを含めて、あとは予告編をご覧ください。

予告編
著名監督たちの推薦と、前半に別作「チャルラータ」後半に「ビッグ・シティ」の予告編です。
予告編 決め
https://www.youtube.com/watch?v=-76Stod9V48

予告編 その2
こちらが「ビッグ・シティ」だけの予告編、必見!
予告編 決め
https://www.youtube.com/watch?v=IszWRnZ5XGo
★    ★
観終わって、ジンワリと感じる、この映画の大きさ。
と同時に、どれひとつ取っても、冗長さの無いエピソード。
総じて、よく計算された脚本と演出に驚く。
この映画には、当時の家族の有り様の変化、夫婦の機微、世間の風潮、近代ビジネスの胎動、新たな動きをする人々が集まりだした大都会の変動の波が、よく描かれている。
サタジット・レイ監督は、例えば小津なんかよりずっと広い視野で社会をよく見ていて、それを明確に描写しようとしている。
中10
ラストシーン。
ビッグ・シティ、大都会のコルカタ。意味ありげな街灯が、
ぽおっと。


ご参考:【世界の映画館めぐり】インドの黒澤明、サタジット・レイを生んだコルカタでシネコンを体験(映画.comより)
https://eiga.com/news/20200405/3/

原題:Mahanagar|The Big City
監督・脚本:サタジット・レイ|インド|1963年|131分|
原作:ナレンドラナート・ミットラ|撮影:スブラタ・ミットラ|
出演:妻アロティ・モジュムダルArati Mazumdar(マドビ・ムカージ)|夫Subrata Mazumdar(アニル・チャタージー)|ほか

さらに、ご興味があれば‥‥。
予告編 その3
予告編 決め
https://www.youtube.com/watch?v=HGA8WBTvQco

予告編 その4
予告編 決め
https://www.youtube.com/watch?v=tx5MsyAYcMk


【 一夜一話の歩き方 】
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やまなか
Posted byやまなか