映画「ガン・シティ 動乱のバルセロナ」 (スペイン2018)  監督:ダニー・デ・ラ・トレ

上

時は1921年のスペイン。
カタルーニャ州バルセロナの「動乱」の謎を解明する物語。
映画を観始めて、すぐ気づくことは、1920年代の衣装を着た大勢のエキストラが各場面に登場します。作り手の気合いの波動が伝わってきます。
なかなかのフィルム・ノワールな娯楽映画になっています。
まずは、そこんところを、予告編で味わってください。
予告編をどうぞ
予告編 決め
https://www.youtube.com/watch?v=Hql_Q6s88u8

中1

では、物語に入りましょう。
当時、あのサグラダ・ファミリア上空には、国を大きく変えるかもしれない社会的潮流が3つ、暗雲のごとく渦巻いていました。

そのひとつは‥‥
第一次世界大戦後、スペイン経済は降下の一途。欧州6大国に発展の差をつけられ、一方、国内各地方の民族運動は激しさを増し、スペイン国民の結束が揺るぎ始めていました。

そんな情勢のなか、強権的な君主として知られたアルフォンソ13世の元、国威発揚を目指す対外進出が図られる。それは、ベルベル人による反乱が続くスペイン領モロッコ(北アフリカ)の支配強化でしたが、スペイン軍の軍内の混乱もあり、1921年、あえなく戦争に敗れます。(アンワールの戦い)

と、まあ、1921年のスペインは、あれもこれもがあって、どうしようもない有様。
(この状況は、映画では街頭の新聞売りの売り声を通して何度も伝わってきます)

ふたつ目は‥‥
不況の世、労働運動の全国展開が勢いを増していた。工場労働者の賃金問題・超過労働は、自ずと労働組合に加わる人々を増やしていた。
ですからバルセロナでも、工場主と労働者の対立が日に日に目立ってきていて、争議騒動のたびに警察が出動しています。

中3

三つ目は‥‥
軍の話。こういう国情を憂うバルセロナの総督、アニードが率いる軍幹部は密かに、クーデターで時の政権を奪い取ろうと画策を始めています。(総督とはバルセロナの政治軍事を統括する地位の者)
その画策とは、まずスペインを揺るがしかねない大敵を作り上げ、国民に恐れを抱かせ、そののち、これを叩き国民の絶賛と支持を得ようとするストーリー。
それには、労働組合運動の中から生まれた、一部の過激派グループがまさしく最適で、まずは彼らに力をつけ祭り上げる計画。
(バルセロナはスペイン政治変動の中心地なのです)

中4


さあ、ここから物語が始まる。
その夜、軍隊の武器を多量に積んだ貨物列車が、荒野を走行中に、過激派グループともくされる一団に襲われ、武器が強奪されるという一大事件が起こります。

日ごろ、労働争議と、やりたいことをするヤクザ問題に手いっぱいのバルセロナ警察は、武器強奪事件で、刑事の人手が足らず、応援を求めていました。
そんなある日、マドリードから派遣されてきた刑事が、アニバル・ウリアルテ刑事(ルイス・トサル)。彼は、この映画の凄腕・主人公で、バスク人です。どこか謎めいた男。

中5

そして、主人公の次に注目すべき人物は、人々が男爵と呼ぶ、高級キャバレー・エデンの経営者。ヤクザを多数抱えている。
だが、大物が大勢登場するこの映画で、なぜキャバレーの男爵なのか?
このキャバレーは、バルセロナ周辺の軍幹部、政治家、産業界(工場主)、警察幹部が、こぞって憩う場なのです。
だから、男爵と彼ら重鎮の間に、何かしらの関係が生まれても、おかしくないし、重鎮間でも何やら動きがある‥。
(中央で踊るは店の看板娘ローラ)
ローラの彼氏は、工場勤めで労働組合員。工場主に背き、それがもとで彼氏は男爵のヤクザに殺されたことが後でわかるのです。

中2

ついで、そんな男爵と警察のレディウ警部との関係は‥‥。
オモテ向きは、男爵が抱えるヤクザと警察の関係は、市中でドンパチ やり合う関係ですが、ウラでは持ちつ持たれつで、結果、警部側に金が動く。もちろん署内では、警部とその部下以外は誰も知らない。
(その部下には、主人公のアニバル・ウリアルテ刑事もいます)

次に男爵は、工場ストライキに悩む工場主とも、総督とも関係している。
軍の武器強奪事件の犯人は、実は過激派ではなく、男爵のヤクザ達だった。(いや、ヤクザというより銃器を持つ私兵。)
しかし、真実を知らぬ新聞はこの事件を過激派の犯行だと騒ぎ、世間は過激派を憎みだし‥、これは総督の思うつぼ。
一方、男爵は盗んだ武器を過激派に売ろうとする。これも総督の思うつぼ。
しかし、男爵の私兵が市中でぶっぱなす銃弾と、盗まれた銃器の銃弾が同じであることが、バルセロナ警察が突き止める。

さてさて、こんな状況の中、主人公のアニバル・ウリアルテ刑事によって、武器強奪事件にかかわる総督や男爵の行動が、少しずつ解明されて行きます。刑事は、モロッコで兵士として鍛えた腕力にプラスして、頭脳明晰。

中6

アニバル・ウリアルテ刑事は、工場主からの依頼で、ヤクザを使い、労働組合を密かに潰そうとするキャバレー主の男爵と、労働組合のボスで人望が厚いサルバドールそれぞれに会い話をつけ、知りたい情報をつかみます。
ちなみに、サルバドールの娘サラは、女性解放運動のリーダー的存在で、彼女の彼氏レオンは、過激派グループを率いる男でした。よって、サルバドールとレオンは、互いに相手を知る、犬猿の仲。娘サラは父親と彼氏の間で蛇行します。
それから、まだまだ、その先がありますが‥‥。

中7

中8


この物語の要素は、モロッコでの敗戦、不況、国民の失意、多発する民族運動、アニード総督率いる軍のクーデター画策、労働争議を解消したい産業界(工場主)、腐敗する警察、力増す労働運動、先鋭化する過激派グループ、そして男爵ですが、映画はこれらの話を大きく束ね、一筋の潮流に集約するかのようです。
あわせて、アニバル・ウリアルテ刑事の心境の揺れも、おぼろげですが映画は表現しています。

そして、ラスト近くに、こんなシーンがあります。
アニバル・ウリアルテ刑事は、ひとけの無い教会の中で、マドリードから来たという、とある大臣に、武器強奪事件の真相と「バルセロナの動乱」の背景を報告しています。
そうです、マドリードには王宮がある。大臣とは、君主アルフォンソ13世の政権に仕える大臣で、刑事はこの大臣の命で動いたエージェントでありました。
そして大臣は言う「お前の仕事は、これで済んだ。マドリードへ帰れ」と。
つまり、これから先は、大臣としての私の仕事だ、さあ国政のかじ取りだと、言いたかったのだろう。
これ以降、スペインは大きく政治変動していくのです。この映画は、その前夜を描いています。

ちなみに、バルセロナ警察の優れた長官は、アニバル・ウリアルテ刑事の働きをみて、ついに信頼を寄せるに至ったが、「君が一体何者なのかは、いつか分かる日が来るだろう」という台詞があった。
(アニバル・ウリアルテ刑事と長官)
中10

さあ、あとは、もう一度、予告編を観て、この映画をご想像ください。
予告編をどうぞ
予告編 決め
https://www.youtube.com/watch?v=Hql_Q6s88u8

中9



原題:La sombra de la ley /Gun City
監督:ダニー・デ・ラ・トレ|スペイン・フランス|2018年|126分|
脚本:パチ・アメスクア|撮影:ホス・インチャウステギ|
出演:アニバル・ウリアルテ刑事(ルイス・トサル)|バルセロナ警察の直属の上司レディウ警部(ビセンテ・ロメロ)|男爵((マノロ・ソロ))|労組リーダーのサルバドール(パコ・トウス)|その娘サラ(ミシェル・ジェネール)|その彼氏で過激派リーダーのレオン((ハイメ・ロレンテ)|踊り子ローラ(アドリアナ・トレベハノ)|バルセロナ警察長官(Pep Tosar)|大臣(Fernando Cayo)|ほか多数

【 一夜一話の歩き方 】
下記、タップしてお読みください。

写真
写真
写真
写真
写真
関連記事
やまなか
Posted byやまなか