映画「宵待草」 監督:神代辰巳
2022年05月05日 公開
1970年代はじめ当時、一部の人々の間で、「終わってしまった」と感じていた同時代感の共有も早々と消え去り、それから、かれこれ半世紀経つ。
1974年公開の本作「宵待草」は、そんな当時の同時代感の上に立っている。
しかし何が同時代感なの?という問いに答えようもない今、その手の人が、あらためてこの映画を観るのは、いささか勇気がいる。
一方、真面目にこの映画を理解しようと、大正時代から1960年代までの現代史に目を通してみても、たぶん、靴の上から足のかゆいところをかく(隔靴掻痒)の感、だろう。この映画の分かりづらさがここにある。
そのうえ、そもそも宵待草はマツヨイグサでしょと言われれば、身もふたもない。
その点、「あらかじめ失われた恋人たちよ」(監督:清水邦夫/田原総一朗)は、「宵待草」の3年前1971年の映画だけに、そしてストーリーを現代(当時の)にしたため、同時代感がより先鋭的に焦燥感を伴って描かれていた。
そういう意味で、たった3年の差だが、「宵待草」は遅れて来た映画。つまり、だから「あらかじめ‥」より、角が丸い話にしないと、映画としてもう成り立ちにくかったんだろう。
さて、物語は大正時代。映画はなにやら喜劇の様相です。(ただし悲しい結末を迎える)
主人公は、北条寺しの(高橋洋子)と、谷川国彦(高岡健二)。
北条寺しのは、右翼の大物、富豪の北条寺の孫娘。
谷川国彦も、成り上がりのブルジョアの息子で大学生。
そんなふたりがなぜ、憲兵の格好でサイドカーなのか。(バイクの横にもう一輪の車台を取り付けた三輪バイク)
ふたりは、アナーキスト集団の副団長、平田(夏八木勲)ともに東北銀行を襲撃。札束を強奪。
資金がいるのだ。なぜ?
予告編ではないですが‥銀行強盗シーン
https://www.youtube.com/watch?v=RzmchJfFNRQ
アナーキスト集団のボスは、映画館の筆頭活動弁士、黒木(青木義朗)。
実は政界の大物暗殺を画策している。日本刀以上の武器がいる。
その集団に新人の谷川国彦がいる。北条寺しのとの出会いは、偶然で牧歌的でかつ互いに一目ぼれ。
そして黒木は、その北条寺しのを誘拐、人質にして北条寺から金を巻き上げようと、しのを拉致。
アナーキスト集団の隠れ家に連れて来られた しのは、ここで谷川国彦と再会とあいなった。
ここから、黒木と、日和った平田の確執で、平田は谷川国彦と北条寺しのを連れて、てんやわんやの逃亡。
結果3人は、北条寺とその私兵に、黒木一味に、さらには警察や村の自警団に追われます。
あとの顛末は、観てのお楽しみ。
平田の父(殿山泰司)は3人が隠れる洞窟に現れた。
本作を、「あらかじめ失われた恋人たちよ」と観くらべると、高橋洋子らより、「あらかじめ‥」主演の石橋蓮司と桃井かおりの方が、キャラの強さが引き立つ。よって話は先鋭的にみえる。
本作の音楽担当は、細野晴臣。いかにも彼らしいサウンドが聴こえてくる。気づけば、映画を観る楽しみの1/4くらいは、細野サウンドを味わうことだった。
それから、のぞきからくりの口上。「宵待草」に出て来るが、夏目雅子主演の「時代屋の女房」(監督:森崎東)でも、この口上が印象的だった。好きだな、こういう口上。
監督:神代辰巳|1974年|96分|
脚本:長谷川和彦|撮影:姫田真佐久|音楽:細野晴臣(ティン・パン・アレー)|
出演:北条寺しの=高橋洋子|谷川国彦=高岡健二|平田玄二=夏八木勲|黒木大次郎=青木義朗|玄二の父=殿山泰司|北条寺=浜村純|谷川武彦=仲谷昇|ほか多数
「あらかじめ失われた恋人たちよ」は、こちらから。
予告編が観れます。

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