映画「逃げた女」 監督:ホン・サンス
2022年07月31日 公開
題名の「逃げた女」とは、誰?
結婚して5年になるというガミ(キム・ミニ)が、敬愛する先輩二人や昔の恋敵(こいがたき)に久々に会った、お話。
何も飾らない隠さない、女たちの語らい三つ。そのなかで、まずは旧友3人の生き様が浮かびあがってくる。
そしてガミの不思議。
ガミは、旧友に会った時に、決まって同じセリフを言う。
私は結婚して以来この5年、一度も夫と離れたことがない、なぜなら夫は私と一緒にいることが一番幸せだと言うし、私もそう。
だけど今、夫が出張中で家を離れている、だからその間に、私はこうしてあなたに会いに来た、という。
本当にそう?
と、映画はほのかに観客にそう思わせる。
一方で、ガミと旧友3人との語らいで、映画は何を伝えようとしているのか?
いやいや、そもそもそんなことは、そうたいしたことじゃ‥‥。
★
さて、ともかく、ガミが最初に会いに行ったのは、ソウル郊外に住む、離婚した先輩のヨンスン。(ソ・ヨンファ)人当たりのいい先輩。
ガミを見るなり、髪切ったのねと茶化し気味に言われる。
新築の戸建てに住んでいる。家の裏は地主の土地と地続きで、鶏小屋が近くにある所。窓からいい景色が見渡せる。
お手伝いさんなのか、先輩の若い友人か、それとも愛人?が、美味しい料理を作ってくれた。そして一晩泊めてもらった。
★ ★
次に会いに行ったのは、これも郊外、丘の上に住む先輩のスヨン、気ままな独身。(ソン・ソンミ)粋な建築家がデザインしたような、おしゃれなマンション。見晴らしもいい。
スヨンは、近くの飲み屋がお気に入りらしい。近所に住む文化人たちが集う店。
★ ★ ★
三人目。ある日、ガミはソウル郊外、と言ってもそう遠くない住宅街にあるミニシアターに、アート系の映画を観に行った。
そこでガミは昔の恋敵のウジンに出会った。
それもそのはず、この映画館はウジン夫婦が運営する映画館&文化センター。(ガミは知らなかった様子)
そして、ウジンの夫は、その昔、ガミの元カレ。ウジンが奪った。(いま夫は階下で講演中らしい)
だから、会うなり、ウジンは遅蒔きながらも、ガミに謝った。
だけどガミは、そうなの程度に軽く受け止める、だってもう過ぎ去ったこと。
ところで、ガミが先輩に会いに行った時に遭遇した、先輩二人が抱える揉め事、ふたつ。
ガミがヨンスンの家にいる時、近隣の男がクレームを言いに来た。「あんたが野良猫にエサをやるので、俺の家の周りでも猫がうろつくんだ。それで、猫嫌いの妻が嫌がってる」と。
だがヨンスンは、穏やかな口調ながら毅然とした態度で男を帰らせた。野良猫クレームは何かの暗示か?
スヨンのマンションでは、スヨンに恋焦がれる若い男がストーカー状態で会いに来たが、彼女は男を押し返した。
ガミは先輩スヨンの恋多きに拍手の気持ちでみていた。
さて、恋敵のウジンのシアターでは、ガミは‥。
映画館の階下で講演していた元カレが休憩時間に喫煙スペースにいた。
それを知ってか、ガミは階下に降りてきて、元カレに‥‥。
そしてすぐさま、ガミはその場を去りシアターを出た、が、また引き返してシアターへ入って行く。どこへ。
予告編をどうぞ
https://nigetaonna-movie.com/
題名の「逃げた女」とは、誰? (The Woman Who Ran)
そう思えば、ガミの先輩二人は女ひとり身、ソウルから遠く離れて住んでいる。何かを求めながらも、なにやら逃げて来た、あるいは逃げている印象。
恋敵のウジンは、夫婦間のことはあっても、逃げるほどの様子はない。
じゃ、ガミは?
ガミが会った女たちへ言ったことは、本当にそう?
離婚した先輩ヨンスンの家で、ガミ。
挿入音楽は監督自演。
いかにも楽器が出来ない人が、てすさび的に楽器に触った演奏。これをチープなラジカセでカセットに録音した感じ。
だけど、これが妙に映画にベストマッチ。シーンに静かに稚拙に流れる。
ふとすれば、難解な現代音楽に聴こえなくもない、か。
もはや、プロのミュージシャンは要らない、いや出来ない。ホン・サンス監督の演奏だからね、って。
原題:도망친 여자|The Woman Who Ran|La femme qui s'est enfuie
監督・脚本・編集・音楽:ホン・サンス|韓国|2020年|77分|
撮影:キム・スミン
出演:ガミ(キム・ミニ)|ヨンスン(ソ・ヨンファ)|ウジン(キム・セビョク)|ウジンの夫チョン先生(クォン・ヘヒョ)|ほか
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