映画「ディア・ドクター」 監督 西川美和

横顔deardoctor1 いい映画だ。
 TVドラマな映画だと勝手に思っていて、観てなかった。

 俳優全員のセリフが、演技の話し方じゃなく、普通生活の話し方。語尾が不明瞭、時にはつぶやくよう、トツトツとリアル。思えば、今どき、はっきりモノ言う、言い切る人なんか、少ない。問題が複雑極まりないから。この映画のテーマは医療。

 みどりの里山を背景に村道を、あるいは闇夜の中をライトを光らせながら、伊野医師(鶴瓶)のスーパーカブがひとり走る。その点景を、遠くから広角でずーっと追っていくシーン。これを観て思う・・・・、人間なんて、うーん所詮ひとりでちっぽけなもの。
 医者も、その個人にスポットを当てれば、ちっぽけで小さな存在、迷いや雑欲もある。しかしいったん医者という看板を上げるやいなや、周囲は彼を頼り始める。頼られると彼は看板どおりに動かざるを得ない。一度このやり取りが始まると、もう止めようがない。得意不得意なくどんな症状病気でも24時間対応、オールマイティな診療が期待される=スーパーマン。人の生死を託される。やりがいと圧迫感。失敗もある。医者が自身をちっぽけな存在と思っていようがいまいが関係なく、医者の看板は勝手に大きくなり一人歩きし始める。まして「偽」となれば心境はさらに複雑だ。
 
 偽医者であっても、患者の全人格を受け止めて診療しようとする伊野医師の診療姿勢は人々に問いかけている。
 偽医者が1500人の村を助けている事実、東京からの研修医も賛同する医療とは。
 高齢者に対する長期間の診療、がん終末医療、自宅での看取りについて、大病院ができること、やっていることは何? かかりつけ医(開業医)ができることは何? 
 医師資格はあるが部位の症状しか診ない大病院医師と伊野医師、どちらがどう?

 ある夜、相馬研修医(瑛太)は伊野医師に言う。
 研修医:「親父は自分の病院の経営しか考えていない。親父に医師の資格はない」
 伊野医師:「俺も資格はないんや・・・・・」

 後日、伊野は、村から姿をくらます。そして、思わぬところである人の前に姿をあらわすのだった。
 
 偽医者伊野の存在を通して、日本の医療にはさまざまな難問があることを、映画は訴えている。
 過疎地の医療、高齢化に対する医療、医師・看護師などの医療資源の偏在、がんの緩和ケアと終末医療、急性期大病院と開業医の地域連携、その開業医の力量アップ、訪問治療、訪問看護支援、などなど様々。

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八千草p006 監督:西川美和|2009年|127分|
 出演:笑福亭鶴瓶(伊野)|瑛太(相馬)|余貴美子(大竹)|八千草薫|井川遙|松重豊|岩松了|笹野高史|十八代目中村勘三郎|香川照之|

メイン7L-kUL

      偽と新014
          女医03
本当の医者と、偽・かかりつけ医との緊張する場面、ここから話は急展開
パスp007   くるまp012


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