映画「旅人は休まない」 監督:イ・チャンホ
2011年09月03日 公開

スンソクの妻の故郷は、38度線近くの北朝鮮側にあった。スンソクは妻の骨壷をかかえ、江原道の東海岸までひとりやってきた。国境付近、少しでも妻の故郷の近くへと思い、海岸から海に骨をまく(散骨)しようと思った。しかし、海辺で監視の警備兵に夕方6時以降は、浜辺に一般人は入れないと、追い払われる。彼は近くに一軒だけあるさびしい食堂/飲み屋で夜を迎えていた。
ソウルで商売に成功した会長は老齢で、ソウルの自宅で寝たきり状態であった。会長看病専任の看護師が病院から派遣されていた。会長は北朝鮮出身で、生地に帰郷して死を迎えたい。会長は看護師に頼んでふたりで北へ向かって逃避行を始めていた。しかし北側に行けるはずは無く、38度線近くの小さな街の宿で、容態が悪化した会長と疲れ果てた看護師は沈黙の夜を迎えていた。
そこでスンソクは看護師チェと出会う。チェの姿は、亡くした妻に似ていた。(イ・ボヒ:一人二役)

スンソクの抱える悩みは説明されないが、彼はあてどなく38度線付近を放浪し始める。看護師の悩みも同様に分からない。そんななか、会長を探してソウルから追っ手が来てのひと騒動など、いくつかのシーンを加えながら、一方で韓国の土俗的・民族宗教的空間がスクリーンから感じられる。
結局、会長は願いが達成されずソウルに。スンソクは納骨できず看護師とともに、やはりソウルへ。
映画の冒頭、スンソクはこの看護師と二人連れで、田舎道を歩いている。ソウルに戻ろうとしている途中のようだ。会長の看護についての契約話など看護師はスンソクに親しげに話している。
映画前半での、スンソクや看護師の暗鬱とした様子と、映画冒頭シーンとのギャップが理解不能。
ストーリーを説明しない脚本である。だから映像から何かを好きに読み取り、自分で感じてソシャクする映画。では観客が物語をふくらませることが出来るかというと、いささか心もとない。なぜなら映像が語る情報量が少なく、見た目も平坦なのだ。そこが残念。モノクロ映像をオレンジに着色した感じのシーンが多い。カラーネガフィルムを見る感じだ。デリケートな撮影表現で彫りの深い情報を伝えるか、例えば写真家森山大道みたく、陰影の強弱にメリハリを持たせるのか、そういったことでもないため、映像に託したメッセージが観客側に届きにくい。

原題:A Man with Three Coffins
出演:スンソク:キム・ミョンゴン|看護婦チェ、スンソクの妻:イ・ボヒ|会長:コ・ソルボン|ムルチ食堂の主人:チュ・ソクヤン|
原題でThree Coffins =「三つの棺おけ」とあるが、亡妻・宿で急死した娼婦・そして・・・・・・。



「江原道」の東海岸は、韓国の右上、国境に接しているようだ。
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