映画「モンド」 監督:トニー・ガトリフ
2011年09月15日 公開

だが、どこか肌寒い、この町の誰もがそう感じていた。
何も変わらぬようだが、何かが違っていた。
目に見えない雲が、大地に届く光をさえぎっているかのように。
月日がモンド不在のまま過ぎていった。
それは非常に長くて短い時間で、誰かが来るのを待っていた。
人ごみの中や街角に彼の姿を捜し求め、また浜辺や海をながめるのだった。
しかし、それもいつか忘れ去られていった・・・・・・。
<ラストのナレーションより>
少年が路上で病に倒れるシーンがある。その時少年の姿は一瞬、野良犬の姿に映る。加えて官憲に追われ取り締まられる野犬狩りのシーンがある。つまりモンドは、法的に排除されるべき対象なのだ。
一方モンドとともに、映画が暖かい視線を注ぐのは、家が無い老人、船が無い船乗り、不法入国の大道芸人一家たち。街の人々も彼らに暖かい視線を送る。毎朝モンドに一切れを分けてくれるパン屋をはじめ、街は彼らを排除しない。もちろん、一定の領域を越えると、いい顔をしない市民もいるが。
モンド自身は、友好的な「ただの越境者」でいたいらしい。
しかし取り締まるべき不法入国者なのだ。一方、街の人はモンドに既視感から来る親しみを抱く。
映画を読むとモンドは、急速な現代化のなかで、街が捨てて行かねばならなかったものの象徴になっている。振り返ってはならない、閉じ込めたはずの世界からモンドはやって来て、なぜか懐かしさのある、ささやかな香りを街に漂わせていたのだ。街は幸せだった。
モンドを救った、ベトナム生まれのユダヤ人老婆ティ・シンの包容力は、東欧、トルコから東アジアまでの非西欧文化の謎めいた深淵さを現している。映画で流れる音楽にも現れる。東方教会の聖歌も美しい、中央アジアのサウンドも出てくる。要するに監督のロマンを表現している。
モンド役の少年は、実際にフランスのロマ出身らしい。「モンド」に託した、捨て去りし良きものへの郷愁、に重ねて、ロマ以東の文化への憧れをあらわしたくて、監督はこの俳優を起用したのだろう。
監督の父親はフランス人、母親はロマ人らしい。
イメージ先行で完成度は高くないが、若き日の監督のロマンをすなおに感じれる作品。
https://www.youtube.com/watch?v=Akjr19WB5kU

出演:オヴィデュー・バラン(Mondo)|フィリップ・プティ(Le Magicien)|ピエレット・フェシュ(Thi-Chin)|スカラ・アーラム(Compagne du Magicien)|ジェリー・スミス(Dadi)
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