映画「サウダーヂ」 監督:富田克也
2011年12月21日 公開
いい映画です。 応援してます!
何も気にせず言うと、手練れのベテランには到底手が届かない「素人の素晴らしさ」、あるいは、振り返ってみればファーストアルバムで成しえた事が最高だった、みたいな、そんな領域を大事にしてるんだ、と勝手に思う。「素」の質が高く、芯がしっかりしている。だからストレートで素直、まわりを気にして飾ったりしない。一方、たどたどしいとも言えるが、したたかだ。
<ストーリーの背景>
舞台は、東京に隣接する山梨県甲府市。新宿までJR特急で1時間30分、意外と近い。
公共工事抑制で土建業は右下がり。下請けの下請けで土方してる身に明日はない。短い工期きつい労働。それさえ派遣土方に取って代わろうとしている。ついに倒産。甲府は土建業に限らず、商業誘致、企業誘致など活性化諸策を施してもうまくいかず、甲府全体の斜陽が止まらない。
甲府の近郊にブラジル人タウンがある。彼らは集中してひとところに住んでいるので、地元でもその場所を知らない。○○精機といったいくつかの工場に通う派遣労働者として生活している。しかし派遣期間の延長が切られ生活の糧がない。母国へ帰る人、残る人さまざま。日本フィリピン人を奥さんにしたブラジル一家、子供二人の4人でブラジルに帰るのか? 4人の会話はブラジル語、タガログ語、日本語、英語が混在する。かつて日本に来る時は、金儲けができるとみんなは熱狂的に思って来日した。
夜の街には、昔はフィリピン、今はタイからの出稼ぎ嬢がいる。この商売も昔のようには稼げなくなっている。
みんな、それぞれのコミュニティのなかで、小さく固まり厳しい閉塞感に苦しんでいる。
甲府もラッパーが盛ん。ライブハウスは日本人、ブラジル人それぞれにグループがいくつかあって、ファンがついている。日本/ブラジルの各グループはコミュニティが違い、交わらない。
登場する素人俳優は地元の方々も多く、下手な役者よりずっとリアリティある人物を演じて映画の厚みに貢献している。
映画は、甲府人である監督が真摯な気持ちで、そんな甲府のあれやこれやを一気に見せようとしている。
30歳過ぎた堀精司は地元でずーと土方。いつのまにか、ベテラン。
今回の現場で保坂という土方と出合った。昼に堀が知ってるラーメン屋に保坂を誘った。保坂:「うまいっすね」 堀:「甲府 1!」 初対面同士の控えめなコミュニケーションだが、なんだかウマが合う。
今日から派遣会社より派遣されて来た土方、天野猛が現場のみんなに挨拶している。服装がとび職姿なので冷やかされている。
この派遣の天野猛のもうひとつの顔は、アーミービレッジという名のグループのリーダーでラッパー。地元じゃ有名でライブハウスに出演してる。しかし近ごろ彼はメンバーに不満を持ち始めていた。曲や歌詞の根源は、世に対する怒りだろう。なのに、形だけをなぞった曲つくりをしている! そう言われてもメンバーはキョトンとしてる。
実は甲府にブラジル人達のラッパーグループがある。こちらもいい乗りだ。ライブはブラジル人達でいっぱいになる。歌詞は彼らを取り巻く難題を怒りを込めてラップしている。
土方の堀は嫁さんホッタラカシでタイパブに通い、タイ人ホステスのミャオにご熱心。堀が言うには、タイ人と話していると気持ちが安らぐ、懐かしい感じもしてくる。そして、保坂は最近までタイに住んでいたと来りゃ、堀と保坂は一気に盛り上がる。
堀はミャオにタイで一緒に暮らそうと誘う。土方は経験がものが言う専門職、タイでも稼げると。ミャオは言う、何言ってるの! タイに行けばみんな貧乏、私が日本に残っているのはお金が稼げるからよ! 堀、弱!!
「雲の上」(2003)、「国道20号線」(2007)と本作の3本を並べて、「サウダーヂ」は「雲の上」に近い、と観た直後に思った。「国道20号線」は商業映画のフォーマットを借用した感じで、イマイチでしたが、きれいにまとまっていました。
その点「サウダーヂ」は散らかっている。幾つもの話を抱え込み意欲的だが、抱え込んだ話をひとつひとつ料理しなくてはならず、力が分散しちゃった感じ。「雲の上」でもあったが、トーンの異なる映像がひょいと挿入される作風は好きです。例えば、鷹野毅が甲府の繁華街を暴走族を背景に歩いていくシーンとか。
立場の違う多くの登場人物の思いを、もう少し描きわけて、甲府という一枚の布に織り込んで欲しかった、かな。
監督:富田克也|2010年|167分||
脚本: 富田克也、相澤虎之助|撮影:高野貴子
出演:鷹野毅 (堀精司)|伊藤仁 (保坂ビン)|田我流 (天野猛)|ディーチャイ・パウイーナ (ミャオ)|尾崎愛 (まひる)|工藤千枝 (堀恵子)|デニス・オリヴェイラ・デ・ハマツ (デニス)|イエダ・デ・アルメイダ・ハマツ (ピンキー)|中島朋人|野口雄介 (天野幸彦)|亜矢乃|川瀬陽太
富田克也監督の映画
何も気にせず言うと、手練れのベテランには到底手が届かない「素人の素晴らしさ」、あるいは、振り返ってみればファーストアルバムで成しえた事が最高だった、みたいな、そんな領域を大事にしてるんだ、と勝手に思う。「素」の質が高く、芯がしっかりしている。だからストレートで素直、まわりを気にして飾ったりしない。一方、たどたどしいとも言えるが、したたかだ。
<ストーリーの背景>
舞台は、東京に隣接する山梨県甲府市。新宿までJR特急で1時間30分、意外と近い。
公共工事抑制で土建業は右下がり。下請けの下請けで土方してる身に明日はない。短い工期きつい労働。それさえ派遣土方に取って代わろうとしている。ついに倒産。甲府は土建業に限らず、商業誘致、企業誘致など活性化諸策を施してもうまくいかず、甲府全体の斜陽が止まらない。
甲府の近郊にブラジル人タウンがある。彼らは集中してひとところに住んでいるので、地元でもその場所を知らない。○○精機といったいくつかの工場に通う派遣労働者として生活している。しかし派遣期間の延長が切られ生活の糧がない。母国へ帰る人、残る人さまざま。
夜の街には、昔はフィリピン、今はタイからの出稼ぎ嬢がいる。この商売も昔のようには稼げなくなっている。
みんな、それぞれのコミュニティのなかで、小さく固まり厳しい閉塞感に苦しんでいる。
甲府もラッパーが盛ん。ライブハウスは日本人、ブラジル人それぞれにグループがいくつかあって、ファンがついている。日本/ブラジルの各グループはコミュニティが違い、交わらない。
登場する素人俳優は地元の方々も多く、下手な役者よりずっとリアリティある人物を演じて映画の厚みに貢献している。
映画は、甲府人である監督が真摯な気持ちで、そんな甲府のあれやこれやを一気に見せようとしている。

30歳過ぎた堀精司は地元でずーと土方。いつのまにか、ベテラン。
今回の現場で保坂という土方と出合った。昼に堀が知ってるラーメン屋に保坂を誘った。保坂:「うまいっすね」 堀:「甲府 1!」 初対面同士の控えめなコミュニケーションだが、なんだかウマが合う。
今日から派遣会社より派遣されて来た土方、天野猛が現場のみんなに挨拶している。服装がとび職姿なので冷やかされている。

実は甲府にブラジル人達のラッパーグループがある。こちらもいい乗りだ。ライブはブラジル人達でいっぱいになる。歌詞は彼らを取り巻く難題を怒りを込めてラップしている。
土方の堀は嫁さんホッタラカシでタイパブに通い、タイ人ホステスのミャオにご熱心。堀が言うには、タイ人と話していると気持ちが安らぐ、懐かしい感じもしてくる。そして、保坂は最近までタイに住んでいたと来りゃ、堀と保坂は一気に盛り上がる。
堀はミャオにタイで一緒に暮らそうと誘う。土方は経験がものが言う専門職、タイでも稼げると。ミャオは言う、何言ってるの! タイに行けばみんな貧乏、私が日本に残っているのはお金が稼げるからよ! 堀、弱!!
「雲の上」(2003)、「国道20号線」(2007)と本作の3本を並べて、「サウダーヂ」は「雲の上」に近い、と観た直後に思った。「国道20号線」は商業映画のフォーマットを借用した感じで、イマイチでしたが、きれいにまとまっていました。
その点「サウダーヂ」は散らかっている。幾つもの話を抱え込み意欲的だが、抱え込んだ話をひとつひとつ料理しなくてはならず、力が分散しちゃった感じ。「雲の上」でもあったが、トーンの異なる映像がひょいと挿入される作風は好きです。例えば、鷹野毅が甲府の繁華街を暴走族を背景に歩いていくシーンとか。
立場の違う多くの登場人物の思いを、もう少し描きわけて、甲府という一枚の布に織り込んで欲しかった、かな。
監督:富田克也|2010年|167分||
脚本: 富田克也、相澤虎之助|撮影:高野貴子
出演:鷹野毅 (堀精司)|伊藤仁 (保坂ビン)|田我流 (天野猛)|ディーチャイ・パウイーナ (ミャオ)|尾崎愛 (まひる)|工藤千枝 (堀恵子)|デニス・オリヴェイラ・デ・ハマツ (デニス)|イエダ・デ・アルメイダ・ハマツ (ピンキー)|中島朋人|野口雄介 (天野幸彦)|亜矢乃|川瀬陽太
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