映画「ミスター・ツリー」 監督:ハン・ジェ (第12回東京フィルメックス)
2011年11月27日 公開


外国映画には落とし穴がある。その国じゃ当たり前なことほど、外人にはわからない。
つい最近まで中国吉林省の田舎では、家長制度つまり厳父が家族を支配していた。そして世間では自由恋愛が許されていなかった。この事は映画じゃ説明されない。(上映後の監督スピーチで知った)
主人公のシュウ(樹)は兄をとても慕っていたが、その兄が踊り子と愛に落ちた。父は怒り、体罰として兄を縛り上げ、家の前の木につり上げた。しかし不幸にもロープがずれて兄は死んでしまった。そして父は自ら死を選んだ。シュウは兄の事故死、父の自殺に絶えられず心が折れてしまった。
10年経った今も心はここにあらず、同僚はみな仕事に就いているのに、シュウは何をやらせても半人前。みんなから暇人と言われ、何の用も無くブラブラしている。仲間と酒場で酒を飲む時だけは一人前。みんな、それとなく面倒をみてやっている。
シュウは幻想を見る。このごろは見る頻度が多くなってきた。死んだ兄が彼女と一緒に楽しそうに話しかけてくる。父もドアを開けて入ってきて黙ったままじっと彼を見る。
ある日、シュウはシャオメイという女性に出会う。シュウの心に電撃が走った。シャオメイは耳が不自由。そのうち二人は愛し合う事に。周りが手伝って結婚式までこぎつけたが、式の当日、シュウの顔に表情がない。花嫁シャオメイを置いて会場を出て行ってしまう。
新婚生活は当初から崩れていく。かわいそうにシャオメイはひとりそっと実家へ帰った。
ある日シュウが一人楽しそうに歩いている。彼は幻の世界にいてシャオメイと歩いているのだった。
シュウは精神障がい者である。
精神的弱者が主人公になるということは、裏返せば、それだけ中国人が自分自身に自信と余裕が持てるようななったということだろう。
シュウが住むのは炭鉱のまち。しかし、ここの鉱山会社は中小企業。
地面が時おり轟音と共に揺れる。地下に坑道があるのだろう。たぶん網の目のように。その上に家々が建っているのだ。だから会社が用意した団地への移住が、ほぼ強制的にすすめられている。地元行政が鉱山会社と地域住民の間に入っての移住計画ではなく、鉱山会社が独自にすすめている。会社の宣伝カーが移住と補償金額を訴えて回っている。なんか中国だなって感じがした。

原題:Mr.Tree / Hello! 樹先生
出演:ワン・パオチャン|タン・ジュオ|ホー・ジエ



結婚式、シュウの顔に表情が無い。 シュウはいつになく楽しそう。シャオメイと手をつないで歩いているのだ。

吉林省
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