「ベルリン・天使の詩」 監督:ヴィム・ヴェンダース
2012年01月05日 公開

一日を振り返ると、口から出た言葉より、心でつぶやいた言葉の方がずっと多い。

共産圏、東ドイツの国土の、真っただ中に位置した都市ベルリン。そのベルリンの西半分が、飛び地の西ドイツ領だった。だから戦後も都市復興が遅れていた。住む人間にとって、つぶやくことは多かった。
その昔、ひとりの天使が三人の賢者の夢の中でささやいたという。ここベルリンの天使たちは人々のつぶやきは聞けるが、人とコミュニケーションがとれない霊たちである。人にはその姿は見えない気配さえ感じない。建物の高みから街を眺め、人々の雑踏の中に分け入り、人々のつぶやきに耳を傾ける、そんな毎日、永遠の命。人々にとって何の役にも立たない、いなくてもいいフワフワした存在。そして経済的に自由、つまり働かなくても生活できる。ヴィム・ベンダース監督が好む人物設定だ。
そんな無用な天使だが、幼い子供達にはその姿が見える。そして「元」天使には、気配が感じられる。もうひとつ、天使が人間に恋すると、その人間は天使を感じられる。(好きなら)

天使のひとりが人間の女性に恋した。
天使が恋をすると、その天使は死に、人間になる。そして人間となった男は女を探す。やっと出会え、女はひと目で天使であった男を理解できた。

ドイツ統一後、ベルリンに行った。ブランデンブルク門を抜け、旧東ドイツ側を歩いてみた。石造りの巨大な建物が並んでいるせいか、空気が重い。人影はまばらに観光客が見えるだけ。ふと見上げると、建物の屋上に神々の石像が並んでいる。そんな建物をいくつか見た。ところどころ石像が落下していて、建物の脇にまとめて置いてあった。あの石像の影に混じって天使がいたかもしれない。

原題:Der Himmel über Berlin
脚本:ヴィム・ヴェンダース、ペーター・ハントケ|撮影:アンリ・アルカン
出演:ブルーノ・ガンツ (Damiel)|ソルヴェイグ・ドマルタン (Marion)|オットー・ザンダー (Cassiel)|クルト・ボウワ (Homer)|ピーター・フォーク (Peter Falk)|ラジョス・コヴァーチ (Marion's Trainer)
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