映画「歌女おぼえ書 (うたじょ)」  監督:清水宏

  明治34年(1901)、東海道を目指して信濃の南、遠江の北、青崩峠を越ゆ。

  山深く杉の巨木を縫うように山道は緩やかに下っている。男3人、遅れて女1人が疲れた足取り。みすぼらしい旅芸人たちだ。 (冒頭のこのシーンのカメラワークは素晴らしい)
  旅芸人にも自ずと等級がある。彼らだけじゃ小さな村々で小屋がけ芝居が精一杯。東海道に出て、名の知れた一座に加われる手はずになっていた。山を下り天竜川に出たところの宿で旅芸人たちは一泊する。
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  お茶の問屋「ヤマヘイ」の大旦那一行がこのあたりの農家に新茶の買付けに来ていて、この宿に逗留していた。この地の主は一行の接待のため芸者を天竜川川下の街から呼んでいたが時間になっても来ない。旅芸人の頭が、場つなぎにひと踊り見せましょうかと名乗り出た。薄暗い田舎の宿の次の間、お歌(水谷八重子)の舞が美しい。大旦那は、舞の様子から、その人となりが判るくらいの目は持っていた。話はここから思わぬ展開となる。


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  翌朝、大旦那は旅芸人たちが困っていることを知り、お歌を踊りの先生として預かることにした。
  そもそも名の知れた一座に加わる話は男だけで女役者は要らなかった。そこでお歌をどこかで売り飛ばそうと旅役者の頭は考えていたのだった。
  お歌は大旦那一行と一緒に天竜川を舟で下っていった。お歌25歳であった。



  茶問屋「ヤマヘイ」は大店であった。大番頭はじめ女たちまで大勢が働いていた。そんな中に放り込まれたお歌への周りからの反感は大変なものだった。まして浜松の街全体にウワサは広まった。
  みすぼらしい、あの旅役者の中でも、売り飛ばすなどといった男女差別があった。そして旅芸人というそのものが、まだまだ差別の対象であった時代だ。一方、大旦那はよそ吹く風の様子。お歌を囲うつもりは毛頭ない。このあたり清水監督が言いたかったことなんだろう。

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  そんな中、大旦那が急死する。残された者は大学生の長男、女学生の長女、そして小学生の次男の3人だけ。そしてもうひとつ、店は大きな借金を抱えていた。東京から長男が戻ってきて、葬儀を終え、店を整理した。大勢いた店は今やがらんとして誰ひとりいない。子供達と、お歌だけ。長男はお歌に妹と弟を預け、店も任せることにして東京に戻る。そんなところにアメリカのトーマス商会日本支社から人が来て、「ヤマヘイ」ブランドがアメリカで評判になっている。今年も「ヤマヘイ」から仕入れたい。さてここで、お歌は女性起業家に大変身。茶問屋「ヤマヘイ」は復活し長男とお歌は結ばれる。

  この映画、冒頭はいいが、それ以降話の展開があまりに安易で粗雑で気に入らない。製作された時代が昭和16年、太平洋戦争真珠湾攻撃があった年だから仕方ないのかもしれない。ただ、明治34年当時、つまり110年前!日本はこんなだったんだ、ということがわかって面白い。カメラワークについては冒頭のシーン以外にも、「ヤマヘイ」店内の様子、葬儀の様子などに素晴らしいものがある。


  明治の当時、茶は生糸に次ぐ主力輸出商品で外貨獲得に大きな貢献をしていた。この映画の時代設定である明治34年の2年前、清水港が開港し茶貿易はその主力が横浜、神戸からは清水に移っていった。特にアメリカへの輸出量が多く、アメリカから見て日本は茶供給国の第1位。第2時大戦前までは日本茶は国内消費向けと言うよりもアメリカ向け輸出商品として生産されてたようです。

  川端康成原作の映画「恋の花咲く 伊豆の踊子」を思い出す。この映画に登場する大旦那は踊り子を、東京の大学を卒業した自分の息子の嫁にと考えていた。五所平之助監督(1933年)

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  天竜川沿いの田舎宿の中のシーンで、お歌が階段の上にいて、下の左右に旅役者がいる構図。これ、「海の幸」で有名な画家青木繁の『わだつみのいろこの宮』が下敷きかも。






監督:清水宏|1941年|98分|
脚本:長瀬喜伴、八木沢武孝|撮影:猪飼助太郎
出演:水谷八重子 (お歌/歌女)|藤野秀夫 (茶問屋「ヤマヘイ」の大旦那・平松庄輔)|上原謙 (長男・平松庄太郎)|朝霧鏡子 (妹縫子)|津田晴彦 (弟次郎)|河村黎吉 (梶川)|春日英子 (綾子)|富本民平 (紋緑)|仲英之助 (鐘之助)|水原弘志 (鯉十郎)|飯田蝶子 (宿のお内儀)|三好栄子 (おたね)|日守新一 (医者)|


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