映画「ふたつの時、ふたりの時間」 監督:ツァイ・ミンリャン
2012年02月15日 公開



遠心力と、わずかな求心力。
お互いが反発しあうんじゃなく、何か外部からの大きな力で離されてしまう、例えば遠心力的な作用。一方、お互いがすすんで求め合うんじゃなく、何か外部からの力で背中を押されるようにして前に進み合い、結果、ある場所で出会う、いわば求心力的な作用。
亭主が死んで、その悲しみを すなおに同居の一人息子に向けられず、他にも振れず、自分の中にしまい込もうとする母親。そんな母親を受け止めようとしない息子。同じ家に住んでいるのに、母と息子の距離は、おそろしく遠い。家族の絆に遠心力が作用する台北。

最小限の略式葬儀。一人息子のシャオカン(リー・カンション)はひとりで葬儀儀礼を済ませたところから映画は始まる。そこに母親の姿は、なぜかない。御骨が家に着いてから母親が登場し息子と食事をしている。位牌に母親は亭主分の食事を置いて拝んでいる。数日後か? 初七日なのだろう、道教の坊主が家に来て位牌の前で儀式を執り行う。母と息子がそれを見守っている。
この頃から母親の精神状態が危なっかしくなって来る。亭主の霊が来ている、亭主が輪廻転生で生まれ変わり水槽の魚になってここにいる、「部屋の明りがまぶしすぎる」と言っているから家の明りをすべて消すなど、母親のあまりの変化にシャオカンは 「狂ってる!」
シャオカンは台北の街の路上で細々と腕時計を売っている。

彼女はその後、いくつか店を見て回ったのだろうか、気に入った時計が見つからない。シャオカンに電話して売ってもらえることになった。翌日、店に来たシアンチーにシャオカンは約束どおり売った。

パリに着いたシアンチー。観光だと言っているがホテルに閉じこもりがち。近くの雑貨屋でバナナや菓子を買い込みベッドの上で食べている。台北から離れたかったわけは、分からない。体調が崩れてくるし、精神的にもつらそう。だが帰国しようとは思わない。ある日、何か紙切れを探してあちこち手探るが見つからない。たぶんシャオカンの連絡先を書いたメモだろうか。

一方、台北のシャオカンは、なにやら奇行に走っている。
家で夜中、売り物の腕時計を全部パリ時間に合わせている。昼はよその時計屋の店先でも同じ事を始める。映画館のロビーの壁にある時計を盗み、映画館の席でパリ時間に合わせている。家に帰って映画「大人は判ってくれない」のビデオを見た。
台北から遠くへ、なぜか離れていかねばならなかったシアンチー。希望が無い台北の日常から脱したいがためにシャオカンがたまたま試したパリへの時間軸移動妄想。
それは、すれ違った程度のお互いが離れて行きながらも、一方はっきりした意志もあてもない、いわば微力で無機的な求心力。恋愛というには、ほど遠過ぎる。

映画はここで終わるので何とも言えないが、シアンチーとシャオカンに明るい明日をもたらす気配。
こっちとむこうに長~い板を渡すと、板はたわみます。冒頭の父親の死、ラストのラストに登場する父親の霊(使者)。その冒頭とラストに渡す話としては、中身が薄く、話がたわんでしまっているのが残念。

英題:What Time Is It There?|
脚本:ツァイ・ミンリャン、ヤン・ピーイン|撮影:ブノワ・ドゥローム|
出演:リー・カンション (シャオカン)|チェン・シアンチー (シアンチー)|ルー・イーチン (シャオカンの母親)|ミャオ・ティエン (シャオカンの父親)|イップ・トン (パリの香港女)|ジャン=ピエール・レオ (ジャン・ピエール)|チェン・チャオロン (パリの地下鉄の男)|ツァイ・クェイ (台北の娼婦)
←映画館の時計を盗むシャオカン
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