映画「道中の点検 」  監督:アレクセイ・ゲルマン

上

  1942年の話だ。
  ナチスの領土拡張が進んで行く。ナチス・ドイツ軍はソ連北西部に侵攻し、この地を占領していた。占領下において、ユダヤ人に迫害を加えると共に、反ナチスの動きをするロシア人を徹底的に抑え込んだ。強制労働、絞首刑、銃殺なんでもありだ。
  一方、この占領下地域には、ソ連軍が支援するパルチザン(ゲリラ)が潜伏していて、ナチス軍やドイツ協力者(つまり地元住民)を日夜攻撃していた。もちろん、パルチザンに協力する「住民」も多かった。

ナチスのポスター
共産主義をやっつけている図。

ポスター  映画の背景は、ナチス・ドイツとソ連の争いだ。だが占領下の地元ユダヤ人・地元ロシア人は、否応なくこの争いに巻き込まれていく。
  まずは、この地のユダヤ人の悲劇。
  ユダヤ人地元住民や、ドイツ軍の捕虜となったソ連軍ユダヤ人兵士は、酷い扱いを受ける。(映画ではユダヤ人問題は取り上げられていない。)
捕虜10  そしてロシア人の悲劇。
  ナチスはユダヤ人同様に、ロシア人をも非文明人として人種差別した。だからだろう、ユダヤ人迫害に協力する親ナチスなロシア人が現れる。
  また、もともと過激な共産主義を嫌うロシア人が、ナチスの口車に乗り、親ナチス側に立ってドイツ兵として共産主義をやっつける・・・。だが、戦争の実態は、パルチザン兵やその支援をする地元住民を、つまり自身の故郷の人々を、殺りくする毎日だ。
  おかしい変だ、そう考える人々もいた。だから、反共なのだが、共産主義のロシア兵やパルチザンとなって、反ナチスとして行動しはじめる。この辺りが複雑だ。だが、個人的な日和見主義ではない事は知っておきたい。
  映画では、ロシア兵捕虜を溢れんばかりに乗せたドイツ軍の船が、河を下って行くシーンがあった。ナチス・ドイツ軍の捕虜となった多くのロシア人兵士は決して安泰ではなかった。
  
主人公  さて、映画の主人公、ラザレフ。
  元は「ソ連軍兵士」と本人は言う。そして、ドイツ軍兵士となった。そのラザレフが、ドイツ軍兵士の鉄兜と軍服を着て、あるパルチザン部隊に投降して来た。ここから話が始まる。パルチザンの兵士たちは、ラザレフをドイツ軍捕虜として扱う。当然だろう。
  そしてある日、ドイツ軍のスパイかどうかテストされる。ドイツ将校を乗せた敵のサイドカーを、ラザレフひとりに、襲撃させる。次は、ドイツ軍が厳重に管理する操車場に入り込み、食料を満載したドイツ軍の輸送列車を強奪する、大きな計画だ。ラザレフ本人が、この計画に志願した。どうやら彼がドイツ兵として所属していた場所らしい。内部の様子に詳しい。もっと言えば、顔がきく。さて、綿密な計画のもと、作戦は実行される・・・。
捕虜扱い  このパルチザン部隊には、部隊を指揮するロコトコフ隊長と、ソ連軍少佐べトゥシコフがいる。ロコトコフ隊長は戦争前は、地元の刑事であった。人を見る目を持っている。で、ラザレフはドイツのスパイでもない、彼は正直だと見抜いていた。べトゥシコフ少佐は、共産党から派遣された政治将校かもしれない。紋切り型にものを見る。このふたりの葛藤の中、ラザレフはロコトコフ隊長のおかげで、なんとかここまでは、生きながらえている・・・。

  戦争娯楽映画として観ても、十分にいい作品です。

ドイツ軍施設である軍列車操車場へ、
ドイツ兵に変装して正面ゲートから侵入したラザレフ。
ドイツ兵時代の同僚に遭遇してしまい、企てがばれる。
ラザレフと行動を共にしていたドイツ語通訳の女性も、
この場で決して遭遇してはならない人物と出会ってしまう。
悲しくも、地元の人々がふたつにひき裂かれて、それぞれの立場で戦っていた。

列車

英語タイトル:The Trial On The Road
監督:アレクセイ・ゲルマン|ソ連|1971年|97分|
原作:ユーリー・ゲルマン|脚本:エドゥァルド・ヴォロダルスキー|撮影:L・コルガノフ、B・アレクサンドロフスキー、V・ミローノフ|
出演:ロコトコフ(パルチザンの隊長:ロラン・ブイコフ)|ラザレフ(ウラジーミル・ザマンスキー)|ぺトゥシコフ少佐(アナトーリー・ソロニーツイン)|インガ(アンダ・ザイツェ)|ミーチカ(ゲンナジー・ジュジャエフ)|少年(ニコライ・ブルリャーエフ)|

wikiより。http://ja.wikipedia.org/wiki/スラヴ人
地図












  なにしろ、ややこしい。
  上では、ロシア人としたが、スラヴ人だ。
  詳しく言うと、ロシア人、ウクライナ人、ベラルーシ人。これらの人々の総称を「東スラヴ人」というらしい。
  あのヒトラーは、東欧・ソ連に「ドイツの生存圏」を構築して、ドイツ民族がこの地に入植することを1925年著の「わが闘争」に書いているらしい。
  そして、東欧からソ連にかけては、古来多くのユダヤ人やロマ人が住んでいるのである。その多くのユダヤ人はソ連によってシベリアに送られた。このことは当然映画には出てこない。

  (ちなみにスロバキア人、チェコ人、ポーランド人が西スラヴ人。クロアチア人、セルビア人、ブルガリア人などが南スラヴ人らしい。)

アレクセイ・ゲルマン監督の映画をこちらにまとめています。
バナー2


【 一夜一話の歩き方 】
下記、クリックしてお読みください。

写真
写真
写真
写真
写真
関連記事
やまなか
Posted byやまなか

Comments 0

There are no comments yet.

Leave a reply