映画「少年」 監督:大島渚
2013年09月13日 公開

主人公の中学生と幼児、その父母の、家族4人の話。

当たり屋とは、走る自動車に故意に接触して大げさに倒れ込み、オロオロする運転手の弱みに付け込み、事故の損害賠償金を、示談で得る商売。
母親が車に当たり、息子がそばでわめき、幼児を抱いた父親が離れたところから駆け寄る。相手の車で病院に駆け込み、医師の診断後にその結果を、父親は運転手に告げ、ああだこうだ嘆いて示談に持ち込む。 相手が警察に話を持ち込もうとすれば、おどして止める。
「当る車」を選ぶ母。
背中を押される瞬間を待つ少年。

一家は金を得ると、すぐにこの街を立ち去る。逃げる。 そんなだから、街から街へと転々と移動している。列車に乗り、駅で降り、旅館に泊まり、外食し、車に当たり、これが彼らの日常である。当然、少年は学校に通っていない。

父母は、中学生の少年に、そろそろ仕事をしないか、つまり車に当ってみないか、と持ちかける。日ごろ見慣れているとは言え、いざ自分が当たると思うと怖い。
だが、初仕事をやり終えた。なかなかのものであった。医師の診察を誤魔化すため、あらかじめ父は少年の腕に注射をする。これで打撲傷のあざができる。

母が妊娠した。母と言っても少年の継母である。よって稼ぎ主は少年になるケースが増える。一件当たりの金額も上昇しだす。
当たり屋稼業を続ける中で、家庭内に精神的・肉体的軋轢が生じ始める。父母の関係がきしみ出す。少年の気持ちが揺れる。当然だ。そもそも家というものが無い、とても不安定な家庭だ。相談する相手もなく彼は思い余って幾度か「家出」を試みた。少年は心の中で、どうバランスをとっているのだろうか? 観ていて関心はそこへ行く。とにかく賢い少年だ。父母や義弟への、彼の視線を観察していないと映画の深層に入れない。難しい役どころだ。

ある一件で、相手が警察に通報した。腕に三角巾をした少年はじめ家族全員が現場検証に立ち会わされる。写真まで撮られた。前科のある父母は、危険を感じて翌朝に一家して街を離れ、列車で遠方へ逃避行。指名手配の可能性もあって、仕事はしばらく休業する。

思い返せば、彼らが住んでいた高知を出てのち、広島、岡山、福岡、松江、城崎、天橋立、福井、群馬、山形、秋田と渡り歩いた。
そして今、家族は北海道最北端宗谷岬にいた。この一家のこの先を暗示する印象的なシーンだ。

少年が母側に付き始め、父母の対立が深まる。そんないさかいのさ中、下の男の子が、ふらり雪道を歩き出した。向こうから車が来た! 車は雪の土手に激突。巻き込まれたくない。その場を逃げる一家。実に皮肉なことだ。
その後、この一家は大阪にいた。狭いながらもアパートに住んでいる。そこへ、ついに警察が来る・・・。
この話は実話に基づいている。少年を当たり屋にしたこの事件は、当時大いに注目されたらしい。
全編、各地のロケで成り立っていて、そこがリアリティを醸し出していて、映像に力と奥行きがある。
ところどころ、監督独特のシーンがあるが、今となっては舞台劇の1シーンのようで浮いて見える。
最後に、この映画、この少年を演じる阿部哲夫で成り立っている。素人俳優。この方の出自や、下記以降のその後は、礼儀としてもう言わない方がいい。
◆それよりも、『実際に起きた事件の、本当の一家』 の 「その後」 は・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
◆継母は子宮がんにて死去(享年37歳)。
◆父親は出所後行商をしていたが、継母の死去後、24歳年下の女性と同棲。しかしそれも長くは続かず、行方不明。
◆「少年」の弟(チビ=父と継母との間の子)は、兄(「少年」)の援助を得て通っていた職業訓練校に向かう途上で交通事故死(享年16歳)。
◆「少年」は、両親の逮捕後、伯母に預けられ、そこから小学校・中学校に通い、中学校を卒業後に運送会社に勤務。大型特殊免許を取得後は14歳年上の女性と結婚し、長距離トラックを運転しながらささやかな家庭を築いている。 彼の家の仏壇には、実母、義母、そして16歳という若さで亡くなった弟の位牌が収められていますが、父親の思い出に繋がるものは何一つない。
・・・らしい。
以上、貴重な情報は、こちらのサイトを参照させていただきました。(外部リンクです)
http://okkoclassical.blog.so-net.ne.jp/archive/20130520

脚本:田村孟|撮影:吉岡康弘、仙元誠三|
出演:父:渡辺文雄|母:小山明子|少年:阿部哲夫|チビ:木下剛志|
南海電車のターミナル駅・難波駅と球場 (1969年当時!!)
逮捕された後、この電車で護送される。

◆ATGの映画はいいですね。
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大島渚 監督の映画
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