映画「さゞなみ (さざなみ)」  監督:長尾直樹

稲子80
母






  静かな映画だ。

  稲子(唯野未歩子)は、無口な一人っ子。
  山形県米沢で市役所に勤めている。一人住まい。実家は和歌山で、母・澄江(松坂慶子)がカメラ店を継いでいる。
  稲子に父親はいない。 稲子の父は、稲子が幼い頃にブラジルのサンパウロに渡って行った。そして彼の地で事故に会い死亡した。母や親戚から、そう聞かされてきた。葬儀は挙げずじまいで今に至っている。17年経った。

職場  山形に住んでいる義理の叔父、つまり父の妹の夫は、米沢市役所の役職を務めている。たぶん稲子は叔父の斡旋で、ここ米沢で職員をしているのだろう。彼女の仕事は、水質検査、特に、新たな温泉源の現地調査・成分分析をしている。 気の優しい叔父は、遠巻きだが稲子の父親代わりのように稲子を見守っている。この間、叔父は、見合いの世話もした。交際範囲の狭い稲子を心配した妻が持ってきた縁談話だった。
母電話  ある日、叔父の家にサンパウロから手紙が来た。
  稲子の父が病床で書いた手紙を、サンパウロ日本人会が代理で送付してきたらしい。余命いくばくもない、稲子の母・澄江に来てほしい。そんな内容だった。ベッドサイドには、ひとりの女性が付き添っているらしい。叔父は逡巡したが、澄江に電話をかけた。澄江は、電話口でブラジル行を静かに断った。もちろん稲子には何も知らせなかった。

組  ある温泉源の現地調査で稲子は、米沢に住む玉水という男(豊川悦司)に出会う。
  玉水は、温泉源を依頼されて見つける仕事をしている。あちこちを渡り歩く玉水という男は、温泉源の利権にかかわる男たちから妬みを買うこともある、裏の影を持つ風来坊だ。だが、稲子は玉水に好意を抱くようになる。交際が始まる。新しい服を買った。家にも行った。
  小さな街だ、ふたりのことが叔父の耳に入る。叔父は玉水に会い、身を引いてくれと頼む。玉水には、逃げられた妻との間に生まれた小学生の男の子がいて、父子家庭だった。

組2  稲子が和歌山に帰省した。母が沈んでいる様子。そんな母から凌雲峡に行かないかと言われる。山と渓谷の温泉旅館。母に連れられて、稲子は何回も来たことがある。旅館の裏手の山には、両親が式を挙げたという小さな神社がある。久々に、ふたりして温泉に入り、床を並べた。何も話さないふたり。だが、母は夫の死を、稲子は玉水を思い、ふたりの心には、さゞなみが立っていた。さらに稲子の心は、父が生きていたこと、母が今も父を静かに愛していることに、震えていた。叔父の家で、偶然にもサンパウロからの手紙の封筒を、稲子は見ていたのだ。

組3  床に入ったが眠れずにいる母娘。稲子は、部屋を出て廊下にある電話口から、玉水に電報を打った。そして翌朝、彼女はひとり宿を後にした。
  一方、身を引くべく引っ越し中の玉水に、その電報が届く。軽トラに子供を乗せ、見渡す限り田んぼの中を疾走する玉水は急に車を止め、あぜ道に降り立った。迷っている・・・。どうすんだよ、あんた。

下

監督・脚本:長尾直樹|2002年|112分|
原案:中山加奈子|撮影:藤井保、松島孝助|
出演:唯野未歩子:夏井稲子|豊川悦司:玉水龍男|松坂慶子:夏井澄江|岸部一徳:尾花先生|きたろう:三益修平|天光眞弓:三益貞子|岩間謙二:玉水暁|高橋幹夫:奥津館主人|玉置こまゑ:凌雲閣女将|

こちらで、本作のような「静かな映画」(邦画編)を
厳選し、まとめています。
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