映画「僕は天使ぢゃないよ」 & 「あがた森魚」のコンサートに行ってきた。
2013年11月28日 公開
あがた森魚が監督した「僕は天使ぢゃないよ」という映画と、関連して、あがた森魚のコンサートのご報告です。
◆映画 「僕は天使ぢゃないよ」
実にマニアックな映画だ。
1974年のこの映画を表わすに、「昭和」や「フォーク」だ、などという形容詞を言うのは、やめてくれ。
・「昭和」と一口に言うが、昭和は64年もあって、戦後の昭和は45年もある。少なくとも1970年代と言ってくれ。 加えて、1970年代前半の、政治経済的背景や同時代的空気を知って、とりわけ音楽・漫画などの文化の魅力を楽しんでから言ってもらいたい。
・「フォーク」と一口に言うのは、やめてくれ。
あがた森魚という男がフォークギター1本で歌うのは、さだまさしや吉田拓郎と同じだ。また、若くて貧しい男女を暗く歌う、この頃のあがた森魚の歌は、「神田川」のかぐや姫(南こうせつ)と似ている。
だが、この程度の認識でこの映画を観ても、よくわからないだろう。
そう、つまり、次に言うが基本的に違うんだ。

まず、この映画の原作、林静一の漫画を見て欲しい。 そして漫画雑誌「ガロ」(1964-2002年・青林堂)を楽しんでほしい。それからこの映画を観ても遅くはない。(蛇足だが、青林堂創業者の長井勝一氏が、この映画に出演している。)
次に、この映画の音楽を「フォーク」と一口と言わないで欲しい。
「僕は天使ぢゃないよ」の背景にあるのは、日本のミュージック・シーンにおけるロックの台頭だ。最初期、まずは、フォーク歌手(シンガー・ソングライター)のバックバンドとして、ロックがステージに上がる。そして次第に、そのロックバンドが、自分たちで曲や歌詞を自作自演しだした。例えばサザンオールスターズって感じかな。
実のところ、フォーク歌手は、オリジナル曲は作れたが自分じゃできない「ロック」のサウンドが欲しかった。片や、ロックバンドは、外国のかっこいいサウンドはコピー再現できたが、当初「自分たちの曲」は作れなかった。表現者と演奏者、それぞれの出自が違った。つまり、フォークとロックが互いに刺激し合い、その音楽性が急成長した時期を背景に、この映画があった。
さて、この映画の音楽バックグラウンドを、下記の<映画データ>にある「音楽」という項目を見て確かめて欲しい。松本隆、大瀧詠一、・・・とたくさんの名が並んでいる。彼らの音楽を楽しんでから、この映画を観ても遅くはない。
とりわけ、「はちみつぱい」と「ティンパウン・アレイ」というロックバンドに注目。一言で言えば、「はちみつぱい」とは、「ムーンライダーズ」の前身、「ティンパウン・アレイ」とは、元「はっぴいえんど」の細野晴臣、鈴木茂がいる。その「はっぴいえんど」には、「僕は天使ぢゃないよ」に参加している松本隆、大瀧詠一もいた。細野晴臣はのちにYMOの一員になって時代を継いでいく。
当時、ミュージシャンの横のつながりは強かった。例えば、あがた森魚はロック人脈をはじめ、プラス映画や漫画の人脈にも通じていたようだ。そんなジャンルの総体が当時、何となく文化らしきものの部分を作っていたのかもしれない。
その上で、その上でだ。この映画、つまらない。でも、関心ある方には、観て欲しい。
当時は、音楽や漫画、そして紅テント・黒テントなどの芝居等々の文化は、今じゃ考えられないほどに凄い活気があった。 そんな残り香を楽しもう。
<映画データ>
監督・脚本:あがた森魚|1974年|86分|
原作:林静一「赤色エレジー」|撮影:宮崎哲郎|
音楽:あがた森魚、松本隆、大瀧詠一、矢野誠、西岡恭蔵、友部正人、はちみつぱい(鈴木慶一、武川雅寛、岡田徹、駒沢裕城、本多信介)、ティンパウン・アレイ(細野晴臣、鈴木茂、林達夫)|
出演:あがた森魚:一郎|斉藤沙稚子:幸子|緑魔子:倖子、一郎の母|桃井かおり:悠紀|横尾忠則:荒川|大瀧詠一:大滝|鈴木慶一|友部正人|西岡恭蔵|泉谷しげる|三上寛|井上堯之|山本コウタロー|下田逸郎|中川五郎|渡辺勝(元・はちみつぱいメンバー)|岡本喜八|長井勝一|
言い残したことを、この辺に書いとく。
フォークとロックの話。Bob DylanとThe Bandの関係、ザ・バンドの名前がまさにフォークとロックの関係を言ってるかもしれない。
◆ライブコンサート あがた森魚 ~神奈川県・座間ハーモニーホール
ほんとに久々にロックのコンサートに行ってきた。
正直なところ、主役のあがた森魚には関心はなく、そのバックバンドを聴きたかった。
彼らのサウンド、いいいい、実に巧い、味がある演奏、ほとんどが還暦過ぎた人達。
このメンバーのうち、上記の映画「僕は天使ぢゃないよ」には、次の人が関係していた。元・はっぴいえんどの鈴木茂、元・はちみつぱいの武川雅寛、駒沢裕城。そして矢野誠の計4人。
あわせて、元・はちみつぱい、現・ムーンライダーズの鈴木慶一の弟で、ムーンライダーズ創設時からの鈴木博文、後から加入の白井良明、そしてドラムの矢部浩志の計3人。以上7名で構成されたバックバンドだった。
演奏された曲のうち、いくつかは、はちみつぱい/ムーンライダーズの持ち歌だ。特に「大寒町」(作詞・作曲:鈴木博文)が涙! 鈴木博文もあがたと一緒に歌った。メドレー曲はアレンジがいい。さすがムーンライダーズ。
あと、武川雅寛のトランペットが良かった。ニューオリンズ・ジャズ風のオールドタイミーな音色に加えて、チンドン風な陰り、さらにはソウル・サウンドのブラス隊的なフレーズ。
おっと、忘れちゃいけない鈴木茂。しっかし、変わんないな、この男! 駒沢裕城も。以上。
出演:あがた森魚(Vo., A.G.)|駒沢裕城(Pedal Steel G.)|白井良明(G.)|鈴木茂(G.)|鈴木博文(B.)|武川雅寛(Vn.,Tp)|矢野誠(Pf., Key.)|矢部浩志(Dr.)|
◆映画 「僕は天使ぢゃないよ」

1974年のこの映画を表わすに、「昭和」や「フォーク」だ、などという形容詞を言うのは、やめてくれ。
・「昭和」と一口に言うが、昭和は64年もあって、戦後の昭和は45年もある。少なくとも1970年代と言ってくれ。 加えて、1970年代前半の、政治経済的背景や同時代的空気を知って、とりわけ音楽・漫画などの文化の魅力を楽しんでから言ってもらいたい。
・「フォーク」と一口に言うのは、やめてくれ。
あがた森魚という男がフォークギター1本で歌うのは、さだまさしや吉田拓郎と同じだ。また、若くて貧しい男女を暗く歌う、この頃のあがた森魚の歌は、「神田川」のかぐや姫(南こうせつ)と似ている。
だが、この程度の認識でこの映画を観ても、よくわからないだろう。
そう、つまり、次に言うが基本的に違うんだ。

まず、この映画の原作、林静一の漫画を見て欲しい。 そして漫画雑誌「ガロ」(1964-2002年・青林堂)を楽しんでほしい。それからこの映画を観ても遅くはない。(蛇足だが、青林堂創業者の長井勝一氏が、この映画に出演している。)
次に、この映画の音楽を「フォーク」と一口と言わないで欲しい。
「僕は天使ぢゃないよ」の背景にあるのは、日本のミュージック・シーンにおけるロックの台頭だ。最初期、まずは、フォーク歌手(シンガー・ソングライター)のバックバンドとして、ロックがステージに上がる。そして次第に、そのロックバンドが、自分たちで曲や歌詞を自作自演しだした。例えばサザンオールスターズって感じかな。
実のところ、フォーク歌手は、オリジナル曲は作れたが自分じゃできない「ロック」のサウンドが欲しかった。片や、ロックバンドは、外国のかっこいいサウンドはコピー再現できたが、当初「自分たちの曲」は作れなかった。表現者と演奏者、それぞれの出自が違った。つまり、フォークとロックが互いに刺激し合い、その音楽性が急成長した時期を背景に、この映画があった。
さて、この映画の音楽バックグラウンドを、下記の<映画データ>にある「音楽」という項目を見て確かめて欲しい。松本隆、大瀧詠一、・・・とたくさんの名が並んでいる。彼らの音楽を楽しんでから、この映画を観ても遅くはない。
とりわけ、「はちみつぱい」と「ティンパウン・アレイ」というロックバンドに注目。一言で言えば、「はちみつぱい」とは、「ムーンライダーズ」の前身、「ティンパウン・アレイ」とは、元「はっぴいえんど」の細野晴臣、鈴木茂がいる。その「はっぴいえんど」には、「僕は天使ぢゃないよ」に参加している松本隆、大瀧詠一もいた。細野晴臣はのちにYMOの一員になって時代を継いでいく。
当時、ミュージシャンの横のつながりは強かった。例えば、あがた森魚はロック人脈をはじめ、プラス映画や漫画の人脈にも通じていたようだ。そんなジャンルの総体が当時、何となく文化らしきものの部分を作っていたのかもしれない。
その上で、その上でだ。この映画、つまらない。でも、関心ある方には、観て欲しい。
当時は、音楽や漫画、そして紅テント・黒テントなどの芝居等々の文化は、今じゃ考えられないほどに凄い活気があった。 そんな残り香を楽しもう。
<映画データ>
監督・脚本:あがた森魚|1974年|86分|
原作:林静一「赤色エレジー」|撮影:宮崎哲郎|
音楽:あがた森魚、松本隆、大瀧詠一、矢野誠、西岡恭蔵、友部正人、はちみつぱい(鈴木慶一、武川雅寛、岡田徹、駒沢裕城、本多信介)、ティンパウン・アレイ(細野晴臣、鈴木茂、林達夫)|
出演:あがた森魚:一郎|斉藤沙稚子:幸子|緑魔子:倖子、一郎の母|桃井かおり:悠紀|横尾忠則:荒川|大瀧詠一:大滝|鈴木慶一|友部正人|西岡恭蔵|泉谷しげる|三上寛|井上堯之|山本コウタロー|下田逸郎|中川五郎|渡辺勝(元・はちみつぱいメンバー)|岡本喜八|長井勝一|
言い残したことを、この辺に書いとく。
フォークとロックの話。Bob DylanとThe Bandの関係、ザ・バンドの名前がまさにフォークとロックの関係を言ってるかもしれない。
◆ライブコンサート あがた森魚 ~神奈川県・座間ハーモニーホール

正直なところ、主役のあがた森魚には関心はなく、そのバックバンドを聴きたかった。
彼らのサウンド、いいいい、実に巧い、味がある演奏、ほとんどが還暦過ぎた人達。
このメンバーのうち、上記の映画「僕は天使ぢゃないよ」には、次の人が関係していた。元・はっぴいえんどの鈴木茂、元・はちみつぱいの武川雅寛、駒沢裕城。そして矢野誠の計4人。
あわせて、元・はちみつぱい、現・ムーンライダーズの鈴木慶一の弟で、ムーンライダーズ創設時からの鈴木博文、後から加入の白井良明、そしてドラムの矢部浩志の計3人。以上7名で構成されたバックバンドだった。
演奏された曲のうち、いくつかは、はちみつぱい/ムーンライダーズの持ち歌だ。特に「大寒町」(作詞・作曲:鈴木博文)が涙! 鈴木博文もあがたと一緒に歌った。メドレー曲はアレンジがいい。さすがムーンライダーズ。
あと、武川雅寛のトランペットが良かった。ニューオリンズ・ジャズ風のオールドタイミーな音色に加えて、チンドン風な陰り、さらにはソウル・サウンドのブラス隊的なフレーズ。
おっと、忘れちゃいけない鈴木茂。しっかし、変わんないな、この男! 駒沢裕城も。以上。
出演:あがた森魚(Vo., A.G.)|駒沢裕城(Pedal Steel G.)|白井良明(G.)|鈴木茂(G.)|鈴木博文(B.)|武川雅寛(Vn.,Tp)|矢野誠(Pf., Key.)|矢部浩志(Dr.)|
1970年代の日本映画を、こちらでまとめています。
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