映画「緋ざくら大名」  監督:加藤泰

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  いい映画。時代劇を見慣れぬ方でも楽しめる、ハッピーエンド娯楽映画。
  お約束はきっちり押さえながらも、同種の映画では群を抜いていい。

組0  落語に出てくるような長屋に、三さまと呼ばれる男(大川橋蔵)が住んでいる。気立てが良く誰からも慕われ、その上 周りの女が放って置かないいい男。浅草寺の境内で居合抜きの見世物をしているお松(故里やよい)は、三さまに「あたしのこと、好き?」と迫り、「好きだ」と言わせる間柄。彼は、浅草の芝居小屋の舞台のそでで、太鼓を叩き鐘をつく、言わば音響効果のアルバイトをしてる、お気楽な日々。
  そんなある日、誰が見てもお姫様という女が、浪人たちに追われて芝居小屋に駆け込んで来て、公演中の舞台に上がり込む。竹光の刀のお芝居が、一瞬にして真剣を振りかざす光景に芝居小屋はてんやわんや。さて、ここで三さまが登場し、姫を救う。三さま、腕もたつ。姫は口を閉ざすばかりで一向に状況が分からないが、長屋の連中の協力で、姫を長屋にかくまうことになる。
  さてこの姫、名は鶴姫、その屋敷は、北条五万石の大名だ。亡き父の遺言は、とある名家に姫を嫁がせることであった。祝言の日は迫っていた。家老が姫を説得するが、この姫、うんと言わない。礼儀正しくおしとやかだが、内心はなかなかのはねっ返りの現代っ子。
  さらには、北条家では内紛が起きていて、この姫をめとって北条家の殿様に成り上がろうとする一派が、家老をはじめとする正統派を抑え込んでいた。殿様になりたい男が姫を手籠めにしようと乱暴する。な、わけで彼女は屋敷を飛び出したが、江戸市中など出たこともなく、おろおろするばかりのところを三さまに助けられたという次第。逃げた姫の追っ手は、謀反一派が雇う浪人たち。

  三さまは、長屋の浅吉(千秋実)と賭場で丁半博打。ついにふたり、すっからかんの丸裸。胴元からの借金20両を工面すべく、三さまはふんどし姿で籠に乗り、大きな屋敷に入ってい行く。そう、三さまは、なんと名家・桑名十一万石松平家の次男坊・千代三郎その方であった。あとを継いで殿になった兄に、千代三郎はまたもや耳タコの苦言を言われる。「武士の結婚は恋愛じゃない。いいな、祝言の日取りを決めるぞ。」 千代三郎は前々から兄の言うべきこと、つまり結婚相手の情報を遮って来た。めとる女など、誰でもいいと。それよりも三郎は、自身のモラトリアムが終わろうとしていることを惜しんでいた。一方彼は、あの姫が忘れられない。

  姫の所在を知った謀反一派は、総出で長屋に押しかけてきた。三さま、切った張ったで立ち回り、長屋の一同もへっぴり腰でこん棒を振り回す。ついに撃退。鶴姫は屋敷へと無事戻って行った。
  ある吉日、花嫁行列のお輿から、鶴姫が花嫁衣裳そのままで脱走する。目指すは、あの長屋だ。
  一方、その日その時分、松平家の屋敷では、千代三郎の祝言が行われていて、花嫁のお輿入れを今かと待っていた。その途中「やっぱり、嫌だ!」 て、ことで三さまは、花嫁も見ずに、衣装そのままの姿で屋敷をあとに住み慣れた長屋へと。そんなことで、長屋小路の入り口で、ふたりは、ばったり鉢合わせ、互いに大いに驚く。花嫁・花婿が逃げたあとを追って来た、それぞれご両家の家臣も、長屋で鉢合わせ。え! なにやらご両家、穏やかに挨拶を交わしている。ああ! 実はなんと、この日は、千代三郎と鶴姫ふたり、本人たち同士の祝言だったのでありました。めでたしめでたし。

  この映画、鶴姫の立場からみての、ひねったシンデレラ・ストーリーと見て取れる。苦難を助け願いを叶えた魔女やネズミたちは、千代三郎の分身・三さまや長屋の人々、船宿の女将や船頭。雲の上の大名の話だが、市井の人々の生き様が描かれている。おしまいに言うべきは、三さまを愛した、居合抜きのお松は、どうしようもない悲しみに沈むのであった。 

  時代劇ってのは一見、縁遠く敷居が高そうだが、そうでもないでしょ。
  この映画、予算が十分にあって、俳優陣もセットも申し分なく豪華です。プロの仕事です。

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監督:加藤泰|1958年|58分|
原作:山手樹一郎|脚色:斎木祝|撮影:松井鴻|
出演:松平千代三郎:大川橋蔵|鶴姫:大川恵子|お松:故里やよい|
北崎外記:大河内傳次郎|松平越中守:波島進|丹波内蔵助:杉狂児|藤尾圭之介:尾上鯉之助|おたみ岡村文子|北条紀五郎:立松晃|浅吉:千秋実|小林平太郎:岸井明|五十嵐富太郎:富久井一朗|円助:香島ラッキー|ぴん助:ヤシロセブン|素天堂典斎:野々浩介|久八:岸田一夫|おかつ:太田優子|甚さん:団徳麿|源さん:佐々木松之丞|越中守の奥方:常盤光世|舟宿のおかみ:赤木春恵|舟頭徳:浜田伸一|馬場三十郎:加賀邦男|菊島:浦里はるみ|亀田半蔵:津村礼司|北条信濃守:明石潮|楓:北村曙美|五月:千舟しづか|石倉角之進:海江田譲二|浪人河合:中野文男|浪人堀内:小金井修|浪人植村:浅野光男|お米:八汐路佳子|なきめの金兵衛:大文字秀介|中盆:山内八郎|市村田五郎:中村時之介|木戸番:島田秀雄|お照:若水美子|門番:尾上華丈|

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