映画「マルコヴィッチの穴」 監督:スパイク・ジョーンズ
2014年03月04日 公開

話の立ち上がりが緩慢で、やっと中盤くらいになって話を理解する手がかりが紹介される、それも散発的に語られるので、しっかり観てないと、どうなってんだか分からなくなる。そんな意地悪な仕掛けの映画だが、実に面白い!! 観る者の集中力が、どこで途絶えるかによって、感想が分かれる。
私たちが知らない摩訶不思議なことがあるものだ。
他人の頭の中に勝手に入って行ける、特別な入口(穴)がある。入り込まれた当の本人は、それに気付かない。なぜなら本人の意識は、入られた瞬間に入り込んだ人の意識に入れ替わるからだ。
これを利用すると、我が身がほろびる前に他人の中に入り込んで、生きながらえる事ができる。

◆まずは、第1のエピソード。これを理解しえないと話が皆目分からない。
ニューヨークはマンハッタンにある、この古いビルは、19世紀後半にマーティンという男が建てた。このマーティンが、実は今も生きている。このビルに会社を構えるレスター社長の中にいる。特別な入口(穴)の発見者は、マーティンだった。
マーティンは、レスター社長の姿をして会社を経営する傍ら、「他人の中に入って行けるこのシステム」を管理している。つまり、こうだ。現在入り込んでいるレスター社長はもう老人だ。老い先短い。マーティンは、次に乗り移る人間を前もって人選し、出生直後からずーっと観察している。だから彼の家の壁には、次に乗り移る男(マルコヴィッチ)の幼年期から現在までの写真がズラリと飾られている。要するに、乗り移れる準備が整う「その日」を期待して待っているのだ。
乗り移る準備が整う「その日」とは、マルコヴィッチが44歳になる誕生日その一日だけ。当日の深夜12時までに入り込まねばならない。これを過ぎて入ると、マルコヴィッチではない別人、つまりさらに44年後に乗り移る予定の胎児に入ってしまう。そうすると、赤ん坊の方の意識が勝るために、入り込んだ人の意識は赤ん坊に反映されない。入った人は、赤ん坊が見るものをただただ見続けるしかない。この受け身状況はその後の44年間続く。さらには、44歳になる前の人間に非正規に入り込むと、15分間で穴から吐き出されてしまう。
これが、マルコヴィッチの穴

レスター社長の会社に就職してきた男・クレイグは、書類キャビネットと背後の壁のすき間にファイルを落としたことで、偶然「入り口の穴」を発見する。恐々だったが入ってみた。するとある男の目に見える情景、男の声、男が聞く音や男が感じる感触がリアルに伝わってくる。これには驚いた。さらに驚いたのは、この男は著名な俳優・マルコヴィッチその人であった。15分後、クレイグは穴の中の急斜面を転げ落ち、マンハッタンが向こうに見えるハイウェイ脇に転げ落ちた。さっそく妻のロッテに話す。深夜、夫婦はオフィスに侵入し、今度はロッテがひとり穴に入って行った。クレイグは、穴から転げ落ちてくるハイウェイ脇に待機しロッテを待つ。15分後、興奮したロッテがハイウェイの土手に落ちてきた。帰宅への車中、妻は夫に告白する。「私は男になりたい」・・・。驚くクレイグ。
クレイグは、オフィスの美人上司・マキシンにことの次第を話す。マキシンは商売の才覚がある女。ふたりはさっそく、ペーパーカンパニーの名で、不思議な体験募集の広告を打つ。一回15分間200ドル。自分が嫌で他人になってみたい人、スターのマルコヴィッチになってみたい人たちが、指定した深夜に続々と集まって来た。客はみな興奮の体験ができた。
一方、クレイグはマキシンに一目惚れしていた。そしてロッテもマキシンに一目惚れしていた。ある日、ロッテが入っているマルコヴィッチにマキシンは会いに行った。

ふたりの女性から見限られたクレイグは、腹いせにマルコヴィッチに入って、マキシンと愛を交わしたが、マキシンはロッテが入っていると感じた。クレイグは、実はマリオネット使いの名人。だが、まったく売れない芸人であった。これまでに身に付けたテクニックを利用して、彼は体内からマルコヴィッチを繰るコツを徐々に会得し出す。つまりマルコヴィッチ本人の意識を消して、クレイグの意識でマルコビッチのすべてを完全に乗っ取ることができた。もう15分で穴から吐き出されることは無くなった。


ロッテがマーティン入りのレスター社長に相談し、これまでの事情を話した。一方、マスコミがマルコヴィッチの転身と活躍を報道するを見て、マーティンは焦っていた。なぜならマルコヴィッチ44歳の誕生日が迫っていた。邪魔者クレイグを早くマルコヴィッチから追い出さないと、自分が乗り移れない。マキシンを誘拐し、その脅しでクレイグはマルコヴィッチから出た。
マキシンとロッテが、穴があるオフィスで出くわした。ロッテは愛する憎っくきマキシンに飛びかかる。マキシンは、そこに開いていた穴に飛び込む。拳銃片手にロッテもマキシンを追いかけ穴に飛び込む。後ろでレスター社長が叫ぶ。「マキシンを殺すな! マキシンは妊娠している、その赤ん坊は、マルコヴィッチの次に入る予定の人だ。」
44歳の誕生日当日、穴の前にたくさんの老人たちがいた。マルコヴィッチの幼い頃からの写真を幾度も眺めては、その日を心待ちにしていた人々だ。その皆がマルコヴィッチの穴へぞろぞろ入って行く。もちろんマーティン入りのレスター社長も入って行った。ウム、そういうことだったんだ。
さてマキシンとロッテは、穴の中を駆け巡った末に15分後、ハイウェイの土手に吐き出されてきた。ののしるロッテにマキシンは言う。「このお腹の子は、あなたが入っていた時の子よ。」 この事実を知ってロッテは、マキシンを強く抱きしめるのであった。

7年後、プールサイドでロッテとマキシンと、その娘が夏を楽しんでいる。娘は楽しそうなロッテとマキシン、つまり両親を眺めている。その娘の中にいるクレイグは声にならない声で言う。「そんなにふたりを見るな!」
ある家で、2人の男が壁の写真を眺めている。幼い女の子の可愛らしい写真。まだ7歳だから壁に飾るスペースが大きく空いている・・・。
マキシンと銃を持つロッテが、マルコヴィッチの穴の中を駆け巡るシーンが印象に残る。彼の潜在意識の世界を、時空を越えて駆け巡る2人は、マルコヴィッチの知られざる側面を見る。初デートで彼女に「気色悪い」と言われている場面の脇を走り抜けるマキシンとロッテは次に、走るスクールバス内に飛び出してきて、お漏らしをして車内の生徒たちに囃し立てられるているシーンに出くわす。次のシーンでは、マルコヴィッチが密かにパンティに、ほお擦りしている。こんなシーンがスピーディに続く。ことほど左様に、映像と脚本が異様に輝いています。
予告編は、こちらからご覧になれます。
(下の写真)
マルコヴィッチが44歳になるのを長年待ってきた老人たち。
この年老いた一人ひとりの体中には、これまで いくつもの身体を乗り継いで長生きしてきた人々がいるわけだ。
中央に座るのは、マーティンが入っているレスター社長。
そしてレスターに助けを求めたクレイグの元妻。ロッテ。

オリジナル・タイトル:Being John Malkovich
監督:スパイク・ジョーンズ|アメリカ|1999年|112分|
脚本:チャーリー・カウフマン|撮影:ランス・アコード|
出演:クレイグ・シュワルツ:ジョン・キューザック|ロッテ・シュワルツ:キャメロン・ディアス|マキシン:キャサリン・キーナー|ジョン・ホレイショ・マルコヴィッチ:ジョン・マルコヴィッチ|レスター社長:オーソン・ビーン|チャーリー:チャーリー・シーン|フロリス:メアリー・ケイ・プレイス|初めての客:W・アール・ブラウン|ドン:レジナルド・C・ヘイズ|マーティン船長:バーン・ピヴェン|ラリー(エージェント):カルロス・ジャコット|ジョンソン・ヘイワード:リチャード・ファンシー|タクシーの運転手:ケヴィン・キャロル|
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