映画「パラダイス 神」  監督:ウルリッヒ・ザイドル  「パラダイス3部作(愛/神/希望)」より

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宗教をテーマにする、かなりビターな喜劇です。人の業と言いましょうか。
映画は、コミカルな語り口を忘れずに、人の業をえぐり出します。
このコミカルさの妙味がピンと来ないと、ただ重いだけの映画になります。

組0大きな病院でレントゲン技師として勤務する、アンナ・マリアは敬虔なカトリック信者だ。緑多いウィーン郊外の一軒家に住んでいる。ひとりが住むには、相当に広い家だ。家の中のあちこちに十字架がかけてある。アンナ個人の祈りの部屋もある。窓辺にキーボードが置いてあって、毎日ひとりで讃美歌を歌う。家全体が聖なる空間。アンナが作り上げたパラダイス。

家の地下には、特別な部屋がある。東欧・ロシア・トルコなど様々な国から来た移民に、カトリックを普及させる伝道者集団があって、その特別な部屋に伝道者たちが定期的に集まり、祈りをささげる。
アンナは、最近この集団に属して、下層で喘ぐ移民の家、一軒一軒訪問し伝道活動をしている。伝道集団は結構一生懸命で、その思いが時に原理主義のようにもみえる。
組組000この影響からか、アンナの信仰は、日を追って先鋭化する。例えば、祈りの部屋でアンナは、イエス像の前にひざまずき、人々の罪をわが身に引き受け、聖なるムチで半裸のわが身を打つことを日課にしている。また、ロザリオを持ち祈りをささげながら、家の中を膝で歩きまわる・・・。
こうしたアンナの信仰の高ぶりの背景には、ふたつのことがあった。ひとつは、夫ナビルが事故で半身不随になったこと。ふたつ目は、夫が2年前にアンナの前から去った。つまり、半身不随になったことで、夫は酒浸りになって荒れ、夫婦不和が生じたのだ。残されたアンナは、さびしかった。
家の近くの公園で、野外セックスを楽しむ集団を目撃したアンナは、帰宅後、イエス像を壁から外しキスをし、そっと自分のベッドに引き入れるのであった。

さて、何の前触れもなく夫が家に帰って来た。夫ナビルはイスラム教徒だ。そして関白亭主であった。
ナビルは、アンナの態度の異変や、家の中の様子が一変していることに驚いた。ナビルはアンナに、かつての生活態度に戻ること、特にベッドを共にすることを要求し、また家中の十字架を杖を使って外した。
アンナは、がんとして無視し続けた。さらには、ナビルが家中を移動できないよう、車椅子を隠し、階段にある身障者用の椅子型エレベータを使えなくする。

しかし実のところアンナは、ナビルが戻ったことを内心、嬉しく思っていた。抱いてもらいたかった。
だが、アンナの信仰心が邪魔をする。これは、イエスが自分に与えた試練だと、自らに言い聞かせるが、祈りの部屋でアンナは、イエス像を繰り返しムチで激しく打ち続けるのであった。



追0ナビルが、伝道者の集まる部屋に侵入するシーンが印象に残る。このシーンはイスラムの眼で見ているので、カトリックが何やら邪宗に見える。
生活が豊かで知的な移民に、伝道するシーンも面白い。狭い視野で伝道を語るアンナに対し、再婚のこの夫婦は辛辣に反論する。アンナの心境があぶりだされる。
夫に対して剣呑な態度さえみせるアンナであったが、ある深夜、夫が眠るソファーベッドに密かに寄り添うのであった。
予告編
予告編 決め
https://www.youtube.com/watch?v=oF7Tnih0FxE



オリジナル・タイトル:Paradies: Glaube
監督:ウルリッヒ・ザイドル|オーストリア・ドイツ・フランス|2012年|113分|R15+|
脚本:ウルリッヒ・ザイドル、ベロニカ・フランツ|
撮影:ボルフガング・ターラー、エドワード・ラックマン|
出演:リア・ホーフステッター:アンナ・マリア|ナビル・サレー:ナビル|

◆オーストリアの宗教信仰事情
キャプチャg1

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