映画「HARUKO ハルコ」  監督:野澤和之  ドキュメンタリー映画

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  在日二世の金性鶴(キム・ソンハ)66歳・長男が、母と兄妹について語るドキュメンタリー。
  
  大日本帝国が朝鮮半島を領有した1910年。その7年後の1917年、母親、チョン・ビョンチュン(金本春子)は、済州島で妾の子として生まれた。現在87歳。
  8歳の時に実母を亡くし、12歳の時に家を追い出され、ひとり対馬に渡り 海女になった。(1929年) その後、千葉県で海女をし、大阪へ。
  大阪では縫製工場で働く。当時、軍需で軍服、ゲートルが大量に生産されていた。

組1  母が17歳の時(1934年)、同郷・済州島の男と見合い結婚。大阪で新婚生活が始まる。金性鶴の父である。後に、両親は三男四女をもうけることになる。  
  夫婦は、金を貯めて小さな縫製工場を買い取ったが、父親は放蕩者で酒と女と博打にうつつを抜かす男であった。(時代背景:1937年日中全面戦争に突入、38年国家総動員法。39年国民徴用令公布、日本の内外地における労務動員計画が実施され、朝鮮人にも割り当てられた。ちなみに母親は当時、徴用されたと言うが、長男はこれを否定するシーンがある。)
  1945年大阪大空襲のとき、母は三女を防空壕で出産するが、父は女の元にいた。そして父は家族の前から姿を消す。

  そして1945年終戦。
  ある日、父親が忽然と現れる。無一文。 家族を連れて、強引に父の実家(済州島)に帰る。ところが父親は、ここでも放蕩の限りを尽くし、田畑・家を手放すことに。 ここから、一家離散が始まる。
  父親と、彼が手放さない長女と四女(当時2歳)の3人を済州島に残して、母は子供を連れて大阪へ戻る。鉄くず拾い、闇米売買をして一家の生計を立てはじめる。
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  そののち、一家は東京・新宿に住み始める。 新宿で始めた商売は、1950年に勃発した朝鮮戦争で来日している米軍兵士相手の売春斡旋業。だが、1953年に休戦となり商売を閉じる。 以後、現在まで、この一家は新宿東口の街で、パチンコ景品買い(のちにパチンコ景品交換所)の商売で生き抜くことになるが・・・。
  この間も、家族の離合集散が続いた。
 1954年ごろ、当時12歳の次女が新宿の家から家出し、以後消息一切不明。
 1950年代後半、父親が済州島から密入国して新宿に現れるが、母親が稼いだ金で、またもや放蕩を繰り返し女性関係に走り消息不明・・・。
 防空壕で生まれた三女は、4人いた娘のうち唯一 母に寄り添い、新宿の自宅で母の手伝いをしていた(右写真)。その後 結婚/離婚し、1960年代初め、子供を連れて北朝鮮への帰国船に乗った。
 1964年、済州島に残った四女ヨンスニは14歳になり、父親の後を追って済州島から密入国、長崎県の大村収容所に留置されているとの連絡が母親のもとに入る。以後、かれこれ40年の歳月。ヨンスニは、母親の信頼を受け、新宿でパチンコ景品交換所の商いを担い、現在に至る。長女済州島 次女家出 三女北朝鮮。結局、母親に寄り添える娘は、ヨンスニだけとなった。  (長男はじめ男兄弟3人は東京在住。)

<三女の北朝鮮移住、母親による北朝鮮への送金・寄付、そして国籍>
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  三女は北朝鮮へ移住後、同じ移住者の男と結婚したが夫が死亡。その後の消息は不明。
  当時、母親の周辺は、母親にも移住を勧誘したが、「この世に、楽園などはない」と、移住をきっぱり拒否して現在に至る。ただし国籍は北朝鮮。
  一方、政治・思想には関心ないとしながらも、母親は祖国統一を願い、例えば1985年にトラック数台を北朝鮮に寄付。これに前後して、一回500万円から1,000万円を北朝鮮に送金している。送金の返礼として、北朝鮮は、その都度、母親に勲章を贈っている。その数、10個ほど。(左下の写真)  
  2000年、母親はついに国籍を韓国籍に変更した。曰く、「あんな国だとは、知らなかった」
  母親は教育を受けていない。現在も、日本語、ハングルともに読めないらしい。

<長男の金性鶴も、もとは北朝鮮籍>
  長男・金性鶴は、日大卒業後、朝鮮総連の映画カメラマンとして就職。(彼が撮ったモノクロ映像が映画に引用) 
  かつて、総連の一員として韓国に行き、1988年ソウルオリンピックなどの取材をした。 その折、韓国の繁栄を目の当たりにした長男は、国籍を変える決意をし変更。 北の実態がマスコミ等で明らかになり始めた当時、北朝鮮籍にこだわる母親を彼は冷たい目で見ていたらしい。今、「北を信じていた日々は、一体なんだったんだろうか」と自問する長男。現在、新宿で焼き肉店経営。


<父親のその後>
組6  父親は、1950年代後半に新宿に現れ、母親が稼いだ金を使い、女と去って行った。のち、日本女性と暮らすため、母親に別れ話を切り出す。その女性は妊娠していた。母親は逆上した。後年、警察から父親の孤独死発見の連絡が入る(享年77歳)。
  長男は父親の墓を作り墓参りをするが、母親は行かない。 父親の13回忌が長男宅で行われるが、母親は行こうとしない。結局、孫たちに会いたいといって出向く。
  母親の孫は多い。そのひとり、長男の娘の結婚式シーンが映画ラストに。母親の笑顔、楽しそうに踊る様子が印象に残る。

  母親と長男の意志で、一家のこれまでの非合法なことも、映画で語られる。
  本作は、2003年に 「ザ・ノンフィクション ~母よ!引き裂かれた在日家族」 というタイトルで、フジテレビから放映した映像をもとに映画化した作品らしい。
  私たちは知らないことが多い。だから、ことが起きた時、思考停止してしまう。安易なイメージに流される。大きな声に惑わされる。  2014年5月、今この時期、観ておくべき映画のひとつだと思う。
下
監督:野澤和之|2004年|81分|
撮影:野澤和之、高橋晶子、 増田ひろみ|
出演:鄭乗春|金性鶴|金英順|梁義憲|金性男|金性行|金哲弘|金秀明|金和美|

お薦め 大阪の在日韓国人一家のドキュメンタリー映画
  「大阪ストーリー」   監督:中田統一  も合わせてご覧ください。
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